お紺の洗濯屋さん
:環境音 FI 蝉しぐれ
;SE
;ブザー音→バスドア閉まる↓
;バス走行音FO→アスファルト歩く足音数秒→激しい雷(*)
;;*の激雷は、Tr0でお紺が屋内で聞いたものと同じ
;環境音 蝉しぐれFO 豪雨FI
;SE 豪雨の中を走る足音→一瞬立ち止まる→
;短い距離を駆けて→
:SE 激しいノック
;(間・数秒)
;SE 激しいノック
;9(扉越し)
「はい……どなたでしょう? 旅のお方でしょうか?」
:SE ドア開(横開きの木戸)
;9
「あぁ……ひどく降られてしまったのですね。
いきなりの夕立ですものね」
「おあがりください。どうぞ、中に。
困ったときはお互いさまです。ご遠慮なさらず」
;SE ドア閉め(環境音ボリュームダウン)
;10
「少しだけお待ちになってね?
すぐに、湯上がり手ぬぐいをお持ちしますから」
;SE タンス引き出し→引き出し閉じる
:1
「おまたせしました。お拭きしましょう。
ね? 旅の方。
頭をすこぉし、どうか、下げてくださいな」
「いえいえ、ご遠慮は不要です。
ここはもとより、“洗濯屋”。
お迎えすることも、お洗濯も、
お紺の――わたしのお仕事ですから」
「さ、どうぞ?
ね? すこぉしだけ頭を下げて」
「――ありがとうございます。
それでは、お拭きいたしますね?」
「ん……<SE タオルで頭をふく>……ん……
(呼吸音)……こんなに濡れて…………(呼吸音)」
「……んっ……(呼吸音)……。
うん。後ろ頭もお拭きしましょう。
ね? 旅の方――きゃっ!?」
「あ……いえ、少し驚いただけ……
大きなくしゃみ。
お体、冷えてしまったんですね」
「このままですと、お風邪をひいてしまいます。
お着替えの方が先ですね。
ああ、気の効かない洗濯狐ですみません」
「すぐに浴衣をお持ちしましょう。
乾いた浴衣をお貸ししますから――
ですから、その間に、ね?」
;SE タオル渡す。ぽふっ
「どうぞ、この湯あがりてぬぐいで、
うしろあたまとお体の、雨をおぬぐいくださいな」
;SE タオルで体をふく
:16(マイクと逆向き)
;SE 引き出し開け
「浴衣、浴衣――ん……」
:16マイク向き
「ね! 旅の方、お好きな色って――きゃあっ!」
:16マイク逆向き
「い、いえ――お紺こそ、失礼いたしました。
急に、振り返ってしまったりして…………はうっ」
;ぼそっと。静岡弁(ああ、恥ずかしいの意)
「ああ、てーさいのわりーことぉ――えっ!?」
「いえいえ、お紺は、別に、なんにも。
なんにもいってございませんよ? おほほほほ」
「それより! えと、あのっ、お体――あ、よかった。
でしたら、ね? こちら、浴衣」
;8 マイク逆向き
「どうぞ、遠慮なくお着替えください。
お紺と同じお名前の――うふふっ、紺色の浴衣です」
「濡れてしまったものは、残らずお預かりさせてください。
囲炉裏に火を起こして、干して乾かしてしまいましょう」
;環境音。焚き木、パチ、パチ。→フェードでボリューム絞る
;9逆向き
;濡れた服を絞る
「ん……」
;SE 水滴落ちる
「ん――んっ……ふっ――」
;SE 水滴
「うんっ」
;SE 洗濯物を振って伸ばす。パンっ!
「ふぅ……こんなものでしょうか?
絞っても絞っても、冷たい水が次から次に……
これでは旅の方、すっかり冷えてしまいましたよね」
「ここに干せば――よいしょ――
二、三刻(とき)もせず乾きましょう。
ああ、いけない。
すっかり旅の方をおまたせしてしまいました」
;9(正常)
「いかがですか、お着替え――あら」
「あ…………」
「ああ、いえ、よくお似合いで……
とてもお似合いで、つい――
その、少し懐かしくなってしまって」
「その浴衣。お紺の父様(ととさま)のものだったんです。
それで、つい――
けれど……少し、ふしぎです」
「……旅のお方と、父様と。
お顔、少しも似てませんのに――あ」
「いやだ、お髪(ぐし)――
旅の方の髪の毛、まだ濡れたままではないですか」
;1
「いますぐにお拭き――ああ、いえ。
せっかくです、ね? 旅の方」
「ここはお紺に、
こころとからだを、こぉんとおあずけくださいませんか?」
「え? あら、いやだ。
『ぽぉん』だなんて、縁起でもない。
『こぉん』ですよ? 『こぉん』」
「だって――うふふっ、お紺は、洗濯狐ですから!」
;環境音 焚き火F.O.