第2話・マイスイートなんとか
■第2話・マイスイートなんとか
[夕方、家で仕事してた主人公]
(インターホンの音)
【正面・近距離】
あ、月です。ただいま帰りました。開けてくださーい!
[少し後]
(部屋に戻ってきた月)
はふぅ……ただいまです~
(主「おかえりなさい」)
実は今朝、何も考えないで家を出たんですが、これ、お兄さんが家にいなかったら軽く詰んでましたね。
(主「それもそうだね」)
そういえば、自由業って言ってましたけど、家にずっといても大丈夫なお仕事なんですか?
(主「一応作家だから、締め切りまでに原稿を出せればあとは自由なんだよ」)
ふわぁ……お兄さん、作家さんだったんですね……!(尊敬した様子で)
私、なんだかすごい人に拾われてしまったような気がします。
ってことは、この本棚の本ってお兄さんが書いたものなんですか?
(主「一番上の棚のだけだよ」)
へぇ……じゃあこの上の段のは全部……ん……全く届きません……
(主「これが一番売れたやつかな」)
あ、ありがとうございます。
お兄さんって背高いですよね……立ってたらちゃんと顔も見れないです。
(見たことある表紙の本で驚く月)
……って、この本、本屋さんで見たことあります!
お兄さんって恋愛小説家だったんですね!
(主「もしかして読んだことあるの」)
あ、いえ……読んだことはないんですが……表紙とタイトルがそんな感じだったので。
家の近くにある駅の中の本屋さん、カフェが併設されてて長居できるようになってるので、なるべく家に帰らなくていいように時間を潰すのに使ってたんです。
そこで見かけた覚えがあるなーって。
なるほどですね。ちゃんと恋愛について考える人だからこそ、先日は迷える私を正しく導こうとしたと……
(主「いや、あれはただの気まぐれだよ」)
またまたそんな。
たとえ気まぐれだとしても、きっとあの場ではお兄さんにしかできなかったことだと思いますよ。
私を拾って、大切に扱ってくれて、住む場所まで提供してくれて……
運がいいとかいう問題じゃないですね、これは。完全に運命です。
お兄さん、この本借りていいですか?
(主「もちろん」)
えへへ、ありがとうございます。
(主「こういうの好き?」)
はい。恋愛もの、好きですよ。
お兄さんのがどういう作風かはわかりませんが、なんとなく、優しい世界が描かれてるような気がします。
(借りた本を抱きしめる)
お兄さんを見てると、わかるんです。えへへ……
(主「今から予定ある?」)
え、予定ですか?
いえ、今日は学校だけだったので、そのまま直帰してきました!
帰れる家があると幸せですね~、なんて。
(主「それじゃ、今から合鍵作りに行こっか」)
(急に切り出されて嬉しさのあまり涙腺が緩む月)
あ……合鍵……えへ、えへへ……
ありがとうございます……すん(鼻をすする)……
本当にいいんですか?私、そこまでしてもらうようなこと、何もしてあげられないですよ?
(主「家族みたいなものだしね」)
嬉しいです……出会って三日の家出娘に、家族だなんて……
(主「着替えは?」)
あ、はい。そうですね……制服のままじゃ出歩きにくいですし、着替てから出発ということで。
では、お兄さんは先に玄関の方で待っててください。私も用意ができたらすぐに行きますね。(背中にある虐待の傷をどうしても見せたくない月)