1家主との出逢い。
[春、引っ越してきた主人公]
あ、家主。おかえりなさいませ!僕は今日から……
(喋ってる途中で扉を締める)
ちょ、ちょっと待って下さいー!?
家間違えたりとかじゃないですよ?
(扉を開ける)
まったく、人が喋ってる途中に扉を閉めるなんて、悪い人ですねぇ……
(主「キミは?」)
あ、はい。
えっと、あなたは今日からこの家に引っ越してきた方ですよね?
はじめまして。僕はこの家を担当する座敷わらしのチカと申します。
僕が来たからにはもう安心です!さあ、思う存分幸せになってください!
(主「言われましても」)
……あれ、あんまり実感できませんか?
うーん、やっぱり僕が何かしてあげないといけませんかねぇ……
(怪しむような顔で見る主人公)
えっと、あの、ですね。
僕達座敷わらしのお仕事は、担当している家に住んでいる方に幸せになってもらうことなのですよ。
つまり、僕の担当するこの家に住むあなたを幸せにするのが、僕のお仕事というわけなのです。
……それはまだ疑ってるって顔ですね?
まあ詳しい話は中でしましょう。さあ、上がって下さい。
美味しい麦茶を用意してますよ。
[居間、麦茶を前に、チカと対面する主人公]
では改めて。
はじめまして、家主。僕は座敷わらし協会・第十九支部所属のチカと申します。
あ、これ名刺です。どうぞ。
(主「座敷わらしって職業なの?」)
職業か……と言われれば、そうですかね。
そう伝えたほうが人間さんにも理解しやすいかと思いまして。
僕たち座敷わらしは、ちゃんと養成学校に通って、その中で様々な難関を通過してきた、いわばエリートなんです。
家主様にどうすれば幸せになってもらえるのか、人に見つからないように振る舞うにはどうすればいいのか、
なんてことをしっかり学んできましたので。十分そう言って過言のないものだと思っていますですよ?
(主「なんだか随分近代的なんだね……」)
うふふ、イメージしてる座敷わらしと少し違いますか?
そうですね~、伝承などで伝えられている座敷わらしのイメージはもうずっと昔のものですからね。
この装束こそ制服なのですが、その色や髪型なんかは昔と比べて自由に選択できるようになったと聞きます。
あ、そこは家主の好みに合わせることも可能ですので、言ってもらえれば対応しますよ?
(主「いや、そのままでかわいいよ」)
んふふ……家主は優しいですね。気に入っていただけたようで嬉しいです。
……昔は隠蔽工作術が今に比べると未成熟で、時々見つかるようなこともあったらしいんです。
そういう目撃例が回り回って、物語として現代にも伝えられているっていうのが、座敷わらし業界での認識になっているのですよ。
もちろん、諸説ある中での一番有力な説っていうだけで、本当のところはどうなのか、僕にはわかりませんですが。
現代の座敷わらしはテクノロジーに守られていますので、そんなミスはよほどのことがないと起こりえませんよ。
(主「例えば?」)
具体的には、ですね……
対象者以外に見えないようにするステルス技術や、契約満了後に口外されないように記憶を操作する技術なんかもありますね。
にひ。安心して下さい。記憶がなくなっても、胸の中の幸せだけは残る仕組みになっていますので。
(少しさみしそうな顔をする主人公)
ふふ、なんでそんな寂しそうな顔してるんですか?
大丈夫です。座敷わらし養成学校を主席で卒業したこの僕が担当なんですよ?
家主一人を一生幸せにしてあげるくらい、造作も無いことです。
まあ、しばらくはお試し期間だと思っていただければ。
家主と僕の相性も見極めないといけませんしね。えへへ。
あ、そういえば、お腹すきませんか?
(主「座敷わらしもお腹すくんだ」)
はい、もちろんです。座敷わらしと言ってもお腹はすきますよぉ。
なので、できたら幸せだけでなくてご飯のお世話もしていただきたいです。
人間さんの食べるものはとっても美味しいって話に聞きますし、今から楽しみです!
(主「まだ食材も何も準備してないんだけど……」)
あー、それもそうですね。
越してきたばかりで、まだ食事の準備まで手が回りませんか。
わかりました。では今日は僕がお食事の準備をさせていただきます。
ええ、こういったのも、座敷わらしのサービスの一環ですので。
(主「サービスって、お金かかるの?」)
いいえ?そんな家主からお金を取るなんてできませんよ。
それに、お金なんて貰っても僕には使えませんしね。
その代わりに僕達座敷わらしは、対価として家主様から幸せをもらうんです。
貰った幸せは僕達の中を通って協会に送られ、その幸せをエネルギーにして僕たち座敷わらしは存在を保っているのです。
そして僕のような構成員は、送った幸せの分だけポイントを貰って、それを使っていろんなことができるようになるんです。
家主がいっぱい幸せになってくれれば、僕も幸せになれてオールハッピーという寸法なのですよ。
ちなみに僕の中にはまだ十分な幸せポイントがありませんので、家主との初契約ボーナスのポイントを使って……
えっと……あ、あった。(袖にゴソゴソと手を入れ、そば(乾麺)を出す)
では、お昼はこのおそばを作ってあげます。
(主「それどこから出したの?」)
あ、これですか?
事あるごとに「あっち」に戻るわけにはいきませんので、
何かある際はこの袖を通して協会とやりとりできるようになってるんです。
幸せポイントを使ったお買い物なんかも、ここを使って行うんですよ~
不思議でしょう?僕も、これについてはどうなってるのかまったくわからないんですよね~
まあ、細かいことはいいじゃないですか。
それでは、キッチンお借りしますね~