2家主の好きなもの。
[居間・昼食後]
おそば、美味しかったですか?
(主「うん、おいしかったよ」)
えへへ、お粗末さまです。
それにしても、家主は学生さんなんですね~
その年で一人暮らしなんて、凄いことですよ。
と、言うことは……あと4年はご一緒できますね~
(主「キミもずっといるの?」)
僕ですか?もちろん、ずっといますよ?
当然じゃないですか。僕はこの家に、それこそずっと住んでると言ってもおかしくないんですから。
養成学校を卒業して、この家の担当になって早幾年。
やっと出会えた初めての家主様なんです。逃したりしませんよ?えへへ。
(主「随分借り手がいないとは聴いてたけど、いわくつき物件だったのか……」)
んむ……失礼ですね、人をそんなお化けや幽霊みたいに。
お化けなんかじゃないですよ~
そうですねぇ……一般的に言う、精霊とか妖精の類だと思っていただければ良いかもです。
家主だって、何を持って自分とするのかなんて、説明できないですよね?
それと同じです。意識に明確な定義など付けられないのですよ。
僕という存在が家主という存在を幸せにする。それだけで十分じゃないですか。
ところで家主。
家主はどういったことに幸せを感じる人なんでしょうか。
ええ、お伝えした通り、家主を幸せにしてあげるのが僕のお仕事ですから。
家主の趣味趣向や好き嫌いなんかは把握しておくべきかと。
例えばそうですね……家主ってどんな食べ物がお好きなんですか?
ふむふむ、なるほど。
では今晩は家主の好物の唐揚げにしましょう!
ええ、もちろん僕が作ってあげますよ~!
その代わりと言ってはなんですが、家主は食材の買い出しに行ってもらえますか?
はい、ついでで構いませんよ。ありがとうございます。
(主「何を買ってくればいいかな」)
そうですね……家主はもも肉とムネ肉、どちらがお好みですか?
(主「どっちも好き」)
んふふ、どちらもだなんて、家主は贅沢さんですね~
わかりました。では、家主が食べたい量より気持ち多めの鶏肉と、あとは……
そうですね、ではメモしますので少々お待ちください。
……なんだか家主にお使いさせてるみたいで悪いですね。
(主「いやいや、こちらこそ」)
にひ。では、よろしくお願いします!
[夕食時・唐揚げを揚げるチカ]
(油の音)
む?家主、もしかしてつまみ食いに来たんですか?
また片付けてない荷物がいっぱいあるんですから、家主はそっちに集中しててくださいよ。
僕はあまり力仕事は得意ではありませんし……
それに、もうすぐ揚がりますから。ね?
(主「一つだけだから、ね?」)
んもう、わがままさんですね。そんなに好きなんですか?
では一つだけ……ですよ?
熱いですから気をつけてくださいね?
はい、あ~ん…………
(唐揚げを口に入れると、チカの中に主人公の幸せが流れ込んでくる)
ひゃくっ……v
家主、もしかして今の……
僕の作った唐揚げ、美味しかったですか?
それで、幸せになっちゃいましたか?
んふふ……なるほどですね~
(主「どうしたの?」)
えっとですね……今、家主の幸せを受け取りました。
僕の中に、ぐゅ~って、とっても暖かかったです。
聞いていた感覚とは少し違うような感じでしたが、初めてなのできっとそのせいでしょうか。
えへへ。家主との接続も確認できましたし、なんだか雰囲気に流されていた感じもしますし、
ここは改めて、挨拶しなおしたいですね。
こほん。
家主、この家に越してきたことを光栄に思って下さい。
この僕が、誠心誠意たっぷり幸せにしてあげますからね!
不束者ですが、よろしくお願いします。
……あ、でも、もうつまみ食いはなしですよ?
すぐにできますから、少しだけ我慢して下さい。