小春日和にひとり
ふて寝するには、いい天気すぎないかしら?
目を開いて、いわし雲が何匹家族か、数えてみるとかどう?
んふふ。
はいはい、起きて。
私が座れるように、ベンチをあけてあけて。
隣、失礼するわね。
んしょっと…あぁ、お芋の買い出しに行った帰り、君を見かけたのよ。
ん?
目的じゃなくて…ああそうね、このままじゃ正体不明の妖しい人ね…自己紹介。
私は紬愛莉。
ご耳愛部って、噂くらいは聞いてるかしら…ほら、あそこ。
ここからも見えるでしょ、あの窓。
そうそう、一階の角っこよ。
あそこ…旧校舎保健室…まぁ今日は別の娘が使ってるけど…で、耳をかきかき、色々してるのよ。
それがご耳愛「ご耳愛部」。
さて、私はお芋が目的だったけど、君は秋に埋まるでもないのに、物思いのベンチで何をしてたのかしら?
まぁいいじゃない。
合縁奇縁。
私との出会いなんて、道行く落ち葉が、風で絡み合うみたいなもの…。
独り言とでも思って、聞かせてくれるかしら?
…そう、君は故郷を離れて寮で独り暮らしなのね。
寮は賑やかだし、別に友達がいないわけじゃない、いじめられてたりするわけでもない…。
なるほどねぇ…所見、ベンチに居た君、ケージの隅でカタカタふるえてる、仲間はずれのハムスターちゃんみたいだったけれど。
当たってる?
そう、故郷のお母さま、ご病気で入院…その顔色の意味、なるほどね…そういう事を共有してくれる友達がいない、って事か。
小春日和にひとり居る意味がわかったわ。
この季節にたまにある、春みたいに暖かな日をそういうの。
ん…秋なのに春なんておかしな事よね…君が抱えてるのも、そういうものかもしれないわ。
みんな、季節を渡っていくけど、君のように身近な悲しみや苦しみに覆われるって、結構稀なのかもしれない。
もちろん、そういうものってたくさんあって、みんな大小違っても、身につれてるものよ。
けれど、気づいたり、気にかけたり、それで病んでしまったり…そういう人は少なくて、それを見かけると、みんなは怖いから取り除いちゃえって思うのかもね。
何気なく歩いていけてる人は、みんな季節にある、小さな春に包まれてるの。
歩けばずっと、お月様のスポットライトがあたってるみたいに。
君は…君みたいな人は…きっと、肌寒いと思ったけど、みんな着てないからって、コートを忘れちゃったうっかりさん、なのよ。
本当は、自分にあったものを選ぶ必要があるのに、まわりがそうさせなかった…。
そんな君には…これよっ!
(耳かき棒を取り出す)
あら、耳かき棒、見たことないかしら?
そう、これで君に、私…紬愛莉がご耳愛してあげるわっ!
なぁに、突然で…見返りもなくって信じられないのかしら…そうね、じゃあ…耳かきご耳愛させてくれたら、この、私が買ってきたお芋ちゃんをあげるわ♪