幕間2
「知は力なり」、「いずれ科学は自然を支配するだろう」とはフランシス・ベーコンの言であるが、どうやら自然というのは人体も含むものらしい。
近頃、王立協会に入会した2人、ウィリアムとジョンのハンター兄弟は外科医という異色の肩書きだった。
話術に優れ、垢抜けた兄ウィリアムは上流階級にウケが良かったが、科学者たちが専ら興味を引かれたのは田舎臭さの抜けない弟のジョンの方だった。
業績こそ兄に劣るが、この粗野な弟は遥かに優れた技術と知識を持っている、科学者たちの嗅覚はそれを嗅ぎ分けていた。
手術の腕も評判だが、特に解剖と標本作りはピカイチだった。
キャベンディッシュも、人間の歯をトサカに移植したニワトリの断面だとか、双頭の奇形種などといった悪趣味な標本には辟易したが、その科学的な姿勢は評価していた。
中でもキャベンディッシュが興味を持ったのは、シビレエイやデンキウナギの発電器官の標本だった。
キャベンディッシュが現在熱を入れている研究分野は電気で、電気を発する生物についても気になっていた。
そんなわけで、キャベンディッシュもジョンの話に聞き耳を立てていた、いつもながら遠巻きに。
なるほど、デンキウナギの発電器官がシビレエイに比べてこんなにも大きいとは、電力が違うのも納得である。
そういえば、以前に70人が輪になってデンキウナギの電気を通す実験があった。
その刺激は、シビレエイよりずっと強かったらしい。
人体に電気を通して、その感触を電力の指標とするのも面白いかもしれない。
すると、用意する電源はやはりライデン瓶が良いだろうか。