送り雀と竹やぶで(イントロダクション)
;環境音。竹藪の中。風が竹やぶを揺するなど
;SE 雀の声
:SE 下草を踏み分けて歩く足音、男一人
;16 遠い(編集で遠くから途切れ途切れに聞こえる感じに)
;参考)https://www.youtube.com/watch?v=2ygI8b9O6i0
「♪ ちいちいぱっぱ ちいぱっぱ~ 」
;SE 足音止まる
;1
;エフェクト、遠いがさっきよりは明瞭に
「♪雀のがっこの せんせーはー
;足音再開。
;歌声だんだんフェードアップしていく
「♪むーちをふりふり チイパッパ
生徒の雀はわになってー」
;SE 竹やぶをかき分ける。がさり
「っ!!?」
「………………(呼吸音)…………」
「んと……(呼吸音)……んと、な?
あいやんが誰かはしらんけどな?
ひよな? いま、おうたの途中やのし」
「あいやん、ひよのおうた、邪魔しにきよったん?
……(呼吸音)――あー、えへへ。
違うならよかったのしー」
「ほんならな、うたいなおすさけ、ちとかいまっとってな?
ひよな? おうた途中でやめると、ムズムズするのし」
「♪ チイチイパッパ チイパッパ
すずめのがっこのせんせーはー
ムーチをふりふりチイパッパ
生徒のすずめは わになって
お口をそろえてえ チイパッパ
まだまだいけない チイパッパ
もいちどいっしょに チイパッパ
チイチイパッパ チイパッパ
――うんっ!」
;SE 拍手
「えへへー、ありがとお。
おうたはうととるだけでも楽しいけど、
誰かにきいてもらえると、もーっとよーさん、楽しいなぁ」
「……ところでな? あいやん、誰やの? どこからきよったん?
いきなりぬうって現れたから、ひよな? ちとかいびっくりしたのし」
「ほぇ? あー、『あいやん』いうのんは、
なんや――んと、テレビのことばでゆうたら――
あー、『おにいさん』? のことやのし」
「ん? あぁ。
あんな? ひよの言葉は紀州弁、和歌山ことば」
「ゆーても、ひよ、あやかしやさけ。
こーみえても80年はいきとるさけ。
人間の、今の和歌山ことばとは、ちくとちごーてしもとるけどなー」
「な? あいやんは、どこの人間?
こげな竹やぶん中、どこからどげして迷いこんできよったん?」
「ふんふん……(呼吸音)……へぇへぇ……(呼吸音)
ほぁー、あいやん、旅人なんかー。
旅の途中で、ひよの歌声ききつけて、
わざわざ聞きにきよったん」
「あいやん、ものずきやなー。
え? 『聞きつけた』んじゃなくて?
『聞き惚れた』 」
「……(呼吸音)……えへっ、えへへー、
ひよ、なんや褒められてるやんなぁ。
えへー、そっかー。
あいやん、ひよのおうた気に入ったんかー」
「ほんならな、ひよな?
あいやんに、他のおうたも聞かせてやるのし――あ」
「そげならな? えへへー、ひよな? ええこと考えたのし」
;1
「あんな? ひよな? 和歌山のあやかしやさけ、
おみかん大好きで、たーくさんこーてもろたんよ」
「『誰に』て、ものべののカミさんに。
ひよな? おひっこしイヤやってんけど、
『そのまま和歌山にいたら、いずれは消えてしまうっスよ』といかゆーて、ものべののカミさんに脅かされたのし」
「ほんでな? ひよな?
『でもおみかん食べれなくなるのはいややのし』いうたん。
そしたらものべののカミさんな?
おみかんたーんとくれるて、約束してくれよったんよ」
「せやさけひよな? ものべのにおひっこししてきたん。
けど、おみかんな? あんまりよーさんありすぎて、
ひよ一人だと、たべきれんで腐らせてしまいそうやのし」
「な? あいやん。
ひよのおうちに遊びに来て、おこたでぬくまって、
ほんでな? おみかんたべながら、
ひよのおうたをきかれへん?」
「ええの? やったぁ。
ほんならな、いこのし」
;3
「あいやんが迷わんよーに、ひよな、おててつないであげるさけ。
でもな?、ひよな? ちとかい歩くんおそいさけ、
あいやん、あんまり早足で歩いたらいけんよー?」
「『ゆっくりあるく』? えへへ、ほんなら安心やのし。
したら、のーんびり、ひよと行こぉなぁ」
;SE ふたり並んで竹やぶ歩く
「えへへー、ひよなー、おててつないで歩くのって、はじめてやのし。
これ、ええなぁ。
つないどるとこぽかぽかってして、歩くの楽しくなってくるなぁ」
参)https://youtu.be/mov3YCZA4Wc
「♪ おててつないで 野道を行けば
みんな可愛い 小鳥になって
歌をうたえば 靴が鳴る
晴れたみ空に 靴が鳴る」
「えへへ~ あんまりたのしぃて、
おうたが勝手に、のどから出てきてしもたのし」
「え? 『うたうのほんとに好きなんだね』って――
そんなん、あったりまえやのし」
「だってな? ひよな? 送り雀やもん。
ほんでな? 雀はな?
うたって飛んで、ちゅんちゅん遊ぶもんやのし――わっ!?」
「なんね、あいやん。どーしたん?
え? 『竹の切り株につまづいた』……って、
あーあーあー」
「あんな? ひよな? 送り雀で、あやかしやさけ、
こんなナリしとってもな? ふよふよふよふよ飛べるんよ」
「せやさけ、この竹やぶに通り道つくるときな?
なんやもうえらいうたとくなってな?」
「竹の根本じゃなくて、切りやすいとこで、
ぽいぽい竹切って
“通れればもうそれでええ”いう道つくったんよ」
「せやさけ、飛ばんで歩くとな?
足元……えらいぼこぼこやのし」
「あいやん、ごめんなぁ。
横着したら、いけんなぁ」
「ひよ、ひよのおうちに人間が遊びに来てくれるなんて、
思ったこともなかったさけ――え?」
「『このくらいなら全然平気?』
えへへ、あいやん、頼のもしなぁ。
ほんなら、いこな? もーちとかい行けば、ひよのおうちにつくさけな?」
;SE 足音
:SE 足音とまる
「ついたー!」
;環境音 F.O,
;9 マイクと逆向き
「んー」
;SE 木の引き戸、開く
;9 マイクむき
「あいやんにはちっさいおうちかもしれんけど、はいってはいって。
ひよな、すぐな、お茶をわかして、おみかん用意するさけな」
;環境音 囲炉裏の火、パチパチ
:SE 薬缶のお湯湧く、しゅんしゅん
:SE お茶つづからお茶っ葉を急須に
:SE 茶碗にお茶を注ぐ
「はぁい、あいやん、おまたせー――って!」
;1
「あいやん、何しとるん!?
おみかん、なんでそげしとるん?」
「『普通に剥いてるだけ』って――
そんなん! おみかんいきなり剥いたらいけんよ。
おみかんはな? 割ってから剥くもんやのし」
「ほぇ? 『どうやるの』って――
そないなこと、決まっとるよし。
まず、おみかんをこう、机の上に置くやんな」
「ほんでな? こう――手のひらでころんして、
ヘタのところを、一番下にむけるんやのし」
「ほんで、ヘタの反対側のとこ。
みかんのおへそのとこに、こう、親指を――
<みかんのへそに親指差し込む>――ずぶうって差し込んで……」
「ほんでな? そこからふたつにパカって割るよし。
で、割ったんまたええあんばいに割ってわけたら――
ほぉら」
;SE 割ったみかんむく
「おみかんの皮、らくらく綺麗に剥けるのし。
ほんでな? あいやん――『あーん』」
「――(呼吸音)――えへへ~っ。おいしうたべてな?
どーぞっ、ほいっ」
:SE むしゃむしゃ
「な? 甘いやろー。ええへー。
あんな? ひよな? 割ったほうが最初から剥くより、
なんでやしらん、おみかん、甘くなる気がするよし」
「せやさけひよな? おみかん最初から剥いてしまうん、もったいないって思うんよ」
「ゆーか……(呼吸音)――あいやん、おみかん、えらいおいしそうに食べるなぁ。
えへへー、ほんならひよも、おしょうばんしよっ」
「はむっ――(もきゅもきゅ)――(ごくん)――んー、あまーい」
「えへへ。このおみかん大あたりやんなぁ。
粒もちっさくてかいらしし。
ひよな? おみかんはちっさい方が好きなんよー」
「その方が甘み、ぎゅうってしてる気がしよるし、
それにお手玉するにも――あ」
「せやったせやった。あいやん、ひよのおうた聞きに来てくれたんやったのし」
;9
「ほんならな? ひよな? みかんお手玉しながらな?
お手玉歌とーてあげるさけ……
えへへっ、きいとってなー」
「おみかんは……ひい、ふぅ、みぃ――よぉ!
今日はひよ、あいやんがみとってくれるさけ、
よっつおてだま、うまいこと行きそうなきがしとるのし」
「ほんならなー、おてだまするさけ、ん……っと」
;以下、お手玉歌の間、みかんお手玉の効果音
;お手玉歌は
;https://www.youtube.com/watch?v=XACYA47dt40
;の04:50~を参照ください
「♪ 新町通りの おみかん屋
おみかん一貫 いくらです 五百です
まあちょっと まからんか さがらんか ホイ
あなたのことなら まけてやる
ひい ふう みい よお
いつ むう たた やあ ここ とお」
「――えへへー! でけたー!
おみかんよっつで、お手玉こぼさず、うたいきれたのし」
「ひよもなかなかやるやんなぁ。
えへへー、あんな? きっとな? あいやんが聞いとってくれたおかげよし」
「ひよ、おみかんよっつで歌いきれたのはじめてやさけ
――あ! なぁなぁ?
あいやんは、お手玉いくつでお手玉しよるん?」
「え? ――『したことない』って――。
えええ、そーなん? どないして?
お手玉、えらい楽しいのに――あ!」
「えへへ、ええこと考えた。
あんな? ほんならな? ひよな?
――あいやんの、おてだまのせんせーになったげるのし」
;環境音 F.O