ひよせんせーのお手玉教室(ハンドリフレ)
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「♪ 新町通りの おみかん屋
おみかん一貫 いく――ありゃ」
:環境音 囲炉裏 F.I
「あいやん、あんがいぶきっちょさんやなー。
ほんならな? ひよな?
もっかい、おてだまのコツ、おしえたげるな?」
「あんな? おてだまはな? おてだまがぽーんとお空にういとる時間を、なるたけぜぇんぶおんなじにすると、やりやすいのし」
「せやさけ、左手から右手に送って、右手でぽぉんてお空にほるやりかたのお手玉は、実はえらいむつかしいのし」
「でなくて、右手と左手でじゅんぐりにぽおんぽおんて高くほおって、
逆の手でそれをじゅんぐりにつかまえて。
またじゅんぐりにほおてくほおが、見た目はややこしけど、ずっとずうっとやりやすいのし」
「な、あいやん。こまではええ?
ひよのいうこと、わかってくれた?
……(呼吸音)……
えへへー、ちゃーんとわかってくれとるねー。さすがあいやん。うれしいなぁ」
「ほんならな? 2個からもっかい、やりなおしてみよ?」
「♪ 新町通りの おみかん屋
おみかん一貫 いくらです 五百――ありゃ」
「わえやなぁ。どしてもポロって、とりこぼしてしまうなぁ」
「……ひょっとしたらあいやん、つかれてとるんとちゃうん?
な、な? あいやん。右の手ぇ貸して? 右の手ぇ」
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「ん――っと――
わわ! 二の腕のお肉ガッチガッチやんなぁ。
こないになっとって、痛いことない?
ひゃっ!?」
「はふぅって、今の声……
ツボをおしたん、えらい効いたん?」
「ふんふん……(呼吸音)……はぁはぁ。
なるほどなー。
ほんならあいやん、手と肩に、つかれがたまってしもとるんやなー」
「ほんならな? ひよな? あいやんのつかれ――
えへへ、ほぐしてあげるのし。
まずは肩たたきしたげるからな?
あいやん、ひよに、おせなむけて? おせな」
< SE ガサゴソ動く >
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「んふふー、あいやん、ひよよりずーっとおっきなおっきな背中やなぁ。
ひよのこと、さんびきくらいおんぶできそな大きさやのし」
「ほんならな? お肩たたくな?
んーー(呼吸音)――<肩叩き音>――
どおお? あいやん?
え? 『もっと強く?』 ええよー、ほんならなー」
「んしょっ――<肩叩き音強>――
ん~~っ――<肩叩き音強>――
こらしょ~っ――<肩叩き音強>――」
「はぁ……はぁ……はぁ……
これなら効いた? あー、ええあんばいならよかったのし~」
「けどな? ひよな? これ、えらいつかれるのし。
せやさけ、やっぱり肩叩きよして、ツボ押しするな?」
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「まずは右手の……ここ――ん~~~っ」
「んふふっ、効いとるねー。
ふはーって声、いた気持ちよさそうで、
ひよもなーんや、『やったー』いう感じするよし」
「もっかい――んっ……(呼吸音)――
ん――(呼吸音)――え? あ、ええよ?
ひよに聞きたいことなら、なんでも聞いてくれてかまわんのし」
「うん……(呼吸音)――んっ――呼吸音――。
あー、『三匹くらいおんぶできそー』ゆうたんは、
ただのたとえばなしやのし――っと」
「あいやん、息がおちついてきたなぁ。
ほんなら、右手の手三里(てさんり)はもうええねー。
こんどは、な? 左手かして? 左手」
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「えへへ。ほんなら、こっちも――んっ――(呼吸音)
――んんっ――(呼吸音)――
ああ、あいやん、まっことえらいつかれためとるんねぇ」
「手三里のツボはな? ん……(呼吸音)――
特に胃腸がつかれてるときによぉ効くツボやのし。
え? (呼吸音)――ああ、そらそうやねぇ」
「旅の疲れは、確かに手足と胃腸にきそう……
ん――(呼吸音)――やし――
念入りに――(呼吸音)――ツボ押し、したげんと――
ん――(呼吸音)――なぁ」
「あ。うん。そうそう、話の続きな?
ん――(呼吸音)――
三匹は、単なるたとえばなしで――んっ、(呼吸音)――
仲間とか家族と、一緒にくらしとるとか、ないのし」
「ん――(呼吸音)――と、ここはこれでよさそうやのし。
ほんなら、今度はこのまま手首の付け根の――
養老(ようろう)のツボ、ほぐそーな?
んっ――(呼吸音)――」
「あははー、効いとる。やっぱりここも効いとるねー。
ここはな? ん……(呼吸音)――肩と腕のつかれとな?
んっ……(呼吸音)――
あとな? おめめのつかれにも、よー効くツボやのし」
「ん……(呼吸音)――ゆーかな? もともと――
んっ……(呼吸音)――ひよ……送り雀には――
(呼吸音)――家族も、なかまも、おらへんやのし」
「送り雀は――ん――(呼吸音)――あ、
養老ももうよさそうやのし。
ほんなら、また右手にもどらしてなぁ?」
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「ん……と、右手の養老――あ、ここやのし――
ん――(呼吸音)――ああ。うん。さっきのつづき」
「送り雀は、人を守るために産み出された――
んっ――(呼吸音)――
人の願いの結晶みたいな、そんなあやかしなんやって。
ん――(呼吸音)――
ものべののカミさんが、ひよにそー、おしえてくれたのし」
「え? なにからって……
ふふっ――ん――(呼吸音)――
そらそうやなぁ。あいやんがもし知っとたら、
ひよも、ここにおらんかもしてんしなー」
「あんな? ん……(呼吸音)――
ひよはな?――(呼吸音)―― “送り狼”いうあやかしから、人を守るために産み出されたあやかしやのし」
「ほへ? ちゃうちゃう、そんなんとまるでちゃうよー
ん――(呼吸音)――
『お酒を飲ませて酔っ払っったおなごはんを家まで送る』
なぁんてあやかし、ひよな? んっ――(呼吸音)――
見たことも聞いたこともあれへん――よしっ!」
「えへへー、ほんなら、しあげに手のひらのツボおしたげるよし。
んっ――しょっ」
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「ほんならな? あいやん、両手一緒に、ひよにまるっとあずけてな?」
「手のひらってな? ひっつけおーてるだけでもつかれ、
やわらこーなるのし。
せやさけ――ん……(呼吸)――
まずはこーして、ひよが両手で、
あいやんの両手、つつんだげるのし」
「けど……(呼吸音)――あいやん、おてておっきいなぁ。
ちとの手ぇやと、だいぶんはみ出しちゃうよのし」
「ほんなら、な? 両手とも、指と指の間をいっぱいにひらいて、ひよに手のひらむけてなぁ?」
「ん――そー。そうしたら――<手が重なり、こすれあう>
えへへ――ええ塩梅やなのし――ん……(呼吸音)――」
「ゆびとゆび、こないにいれちがいにしたら――
ん……(呼吸音)――
てぇちいそーても、指の間を――<てこすり>――
こしこし、ほぐしてあげられるのし」
「ん……<手擦り>――ふっ――(呼吸音)――
ああ、そう――送り狼のはなしやったなぁ」
「送り狼はな? こわぁいあやかし。
夜道で音もたてんとひっそり、
歩いてる人間のあとをつけて、そうして――(呼吸音)」
「がぶーーって! 噛み付いてまるごと食べてしまうあやかし。
え? 食べられた人間?
そんなん、死(い)んでまうにきまっとるよし」
「あ――あいやん、手、ちょこっと冷えたなぁ。
固くなってしもたのし。
せっかくほぐしちょったんにー」
「ほんなら……ん……
えいっ――(呼吸音)――あはは、やっぱり効いとるのし」
「ここな? 合谷(ごうこくいうて)ツボの王様みたいなツボなんよ。
乱れた気持ちを落ち着けて、体の流れも、それで整えてくれるツボやのし」
「せやさけ……んっ――(呼吸音)――
このまましばらく――ひよがこうしてあげるさけ。
あいやん。深呼吸したら、もっと気持ちが楽になるのし」
「え? ひよといっしょに?
えへへ、あいやん、あいやんなのに甘えたさんやなー。
ええよ? ほんなら、いっしょに、な?」
「すってーーー (すーーーーっ)
はいてー (はーーーーっ)
もっかいすってー (すーーーっ)
もっかいはいてー (はーーーーーっ)」
「ん! あいやんのおてて、またポッカポッカになったなぁ、
これならきっと、お手玉、上手にできるのし」
「ほんなら、な? もっかい、お手玉ためしてみよー?
<足音>――あ、その前に――」
;3 顔寄せささやき
「あいやん、ほんまにありがとねぇ。
“送り狼”のこと、ちゃあんと思うて、怖がってくれて」
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「んふふっ? ほんなら、お手玉しよなー。
ひよな、おてだましやすいちっこいおみかん、
あいやんに選んであげるさけ」
;環境音 F.O.