Track 4

ひよの耳かき(右のお耳)

;9 「♪ 新町通りの おみかん屋    おみかん一貫 いくらです 五百です    まあちょっと まからんか さがらんか ホイ    あなたのこと――とととっ――ありゃっ」 ;環境音 囲炉裏 FI 「あいやん、さっきより上手になったな。 えへへ、きっとな? ひよが手ぇほぐしたげたんが、きいたんやのし」 「ゆーても、ここから先に進めんなぁ。 おんなじトコで、何回もつっかかってしもうとるのし 」 「もーちとかいでぜぇんぶ歌いきれるんやけどなぁ。 ん~……あとなんが足らんのかなー」 「あいやん、わかる? わからん? うーーーん……(呼吸音)――ん?」 「あいやん、おみみかゆいん? いま、小指の先いれてほじったよし。 ちとかい、おみみひよに見せてとくれよし」 ;3 「んー……これ。奥にみみかすつまってるかもしれんのし。 あ! ひょっとしたら、そのせいなんとちゃうかなぁ?」 「お耳がつまって、ひよのおうたな? ちゃんとちゃんとは聞こえんで。 せやさけ、拍子がとりづろーて、おてだまコカしちゃうんとちゃう?」 「ふんふん……『そうかも』って、あいやんもそげに思うん? ほんなら、おみみそーじしよ? あんな? ひよな? お耳掃除もできるのし」 「えへへ、あいやん? <ひざぽんぽん> ひざまくら。 右のお耳を上にして、ひよのおひざに、おつむ乗せちょくれよし」 「わ。あいやん、おつむ重いなぁ。 ひよのおひざ、ずしっとするのし。 とりあたまのひよとちごおて、あいやんのおつむには、大事なことが、いっぱいいっぱいつまっとるんやろぅなぁ」 ;(口寄せ囁き) 「(ふ~~~っ)――けどな? あいやん」 ;3 「お耳のかすまで、たくさん詰めたらいけんのし。 せやさけ、ひよが、きれいきれいにしたげるな?」 「えへへ、耳かき。 これ、な? ちいさな竹の耳かき。ええもんでしょお。 これもものべののカミさんが、ひよにっておいてってくれたもんやのし」 「ん? あ――もちろんよ? あいやんが初めての人間のお客さんやさけ、 耳かきすんの、ひよ、これが初めてやのし」 「けどな、あいやん。怖がららんでもへーきよ、へーき。 ひよな? ぜったい上手にできるさけ」 「ん……(呼吸音)……ん~~。 そげに心配やったら、そーっとそーっとしてあげるのし」 「そーっと、そーっと。ん……<耳かき音>…… っ……<耳かき音>――(呼吸音)―― あさいとこ、コリコリしよなぁ――<耳かき音>―― ん――んふふー? な? 上手やろ?」 「『はじめてなのにどうしてって』――そんなん―― んっ……<耳かき音>――ん――<耳かき音>――ふふっ。 そんなん、ひよが、送り雀だからに決まっとるのし」 「さっきちとかいだけ言うたやん?……<耳かき音>―― ひよは、送り狼――人間を夜道で食べてまうおとろしあやかしから――<耳かき音>―― 人間を逃がすため、ねがわれて産まれてきたあやかしやゆーて……<耳かき音>」 「ゆーたら、ん……(呼吸音)―― ひよ、人間の味方のあやかしやのし。 せやさけな? ひよ……<耳かき音>―― 人間をたすけること……たぶん、最初っから上手にできるんよ――<耳かき音>――」 「せーやーさーけー……ん~――<耳かき音>―― ほぉら、えへへへー。 こーんなおっきな耳カスも、はじめてやのにじょおずにとれてしまうんよー―― ひよもななかなか、やるもんやのし」 「ん? ……(呼吸音)――あー……<耳かき音>―― なるほどなー、 いわれてみれば、ふしぎに思うとこかもしれんなー」 「あんな? あいやん。 ひよ、人間の味方やのに、いままで人間とちとかいも触れおーたことがなかったんはな?――<耳かき音>―― ひよが――<耳かき音>――ん…… "人間を逃がすあやかし"だからやのし」 「……(呼吸音)――夜道あるいとって、送り狼に付け狙われたら、もう人間は逃げられへんの――<耳かき音>――ペロリ食べられて、ほんで、お終い……(呼吸音)――」 「そんなのもちろんイヤやさけ……<耳かき音>―― 気づけるように、逃げられるよに――<耳かき音>―― 送り雀が、ひよが、ん……(呼吸音)――きっと、産み出されよったのし」 「……<耳かき音>――夜道でな? 人間が送り狼につけねらわれてるの見つけたらな? ひよ……<耳かき音>――大声で鳴いてあげるんよ」 「『ちゅんちゅんちちち、ちゅんちちち』って。 ほいたら人間、だーって走って逃げたらそれで、絶対に助かるんよ」 「そ。送り狼は、送り雀……ひよの鳴き声きいて逃げ出した人間には――<耳かき音>――ぜったい、ぜーったいに追いつけへんの――<耳かき音>―― ひよは、そげな性(しょう)に産まれた――<耳かき音> 『送り狼から、人間が助かるため』の、あやかしやさけ」 「え? あ、そーそー。やっぱりあいやん、かしこいなぁ。 ――<耳かき音>――おつむ、ずっしりしとるだけのこと、 あるなぁ――<耳かき音>」 「ひよの声きいた人間は、一目散に逃げ出すか――<耳かき音> そうせんかったら、送り狼に食べられるかしか、あれへんの」 「せやさけ――<耳かき音>――ひよ、こげなふうに、な? 人間と――<耳かき音>――はなしたり、ふれあったりするのは、はじめてなんよー」 「えへへ――だから――<耳かき音>ひよ――うれしいのし。 あいやんがひよを見つけてくれて、会いに来てくれ――ひゃっ!?」 「あ、あいやん。急にビクってうごいたら、危ないのし。 お耳のおく――(ふーーーっ)――つっついてしまいそで、ひよまでビクってしちゃったのし」 「あ……せやけど……ん――」 :耳寄せささやき 「ん……ん~~っ――(ふーーーっ)」 ;3 「右耳、いつの間にすっかり綺麗になったなぁ。 ほんなら、仕上げな? このぽんぽんの方で、 こまかいの、ぜぇんぶとってあげるのし」 「ん――<綿毛耳かき>――んしょっ――<綿毛>―― えへへぇ――あいやん――<綿毛>―― あんばいよさそな――お顔やねぇ――<綿毛>――ん!」 「(ふ~~)――うん。おみみ、ぴかぴかになったなぁ。 ほんなら、次は――って、あいやん?」 「どげしたん? 急になんやら思い出したみたいな顔して、 びくびく、あっちこっちをみたりして――え?」 「『ひよちゃんと会えてるっていうことは、送り狼が近くにいるんじゃ』――って――あはは、あいやん。 あれへんよ。大丈夫やのし」 「もしもそうなら、ひよは大声で鳴いちょるのし。 『ちゅんちゅんちちち、ちゅんちちち』って」 「鳴いちょらゆーことは、送り狼もおらんゆーこと。 ……ゆーかな? あいやん。 送り狼は……もうおらんのし」 「え? 『どういうこと?』って…… んー(呼吸音)――えいっ」 ;7 「あはは、あいやん。ごろーんてした。 んふふ、綺麗にころげたなぁ」 「その話はな? すこぉしだけ長くなるさけ。 左のお耳。お掃除しながら――聞いてほしいのし」 ;環境音FO