ひよのこもりうた
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「♪ 新町通りの おみかん屋
おみかん一貫 いくらです 五百です
まあちょっと まからんか さがらんか ホイ
あなたのことなら まけてやる
ひい ふう みい よお
いつ むう たた やあ ここ とお
――わ」
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「できた。あいやん、おてだまうたのおわりまで、
おてだま、続けられたなぁ――
すごい、すごいな。さすがあいやん、すごいなぁ」
「えへへー……うれしい。うれしいなぁ。
ひよな? なんだかえらい安心できたのし。
えへへ、お手玉、あいやん覚えてくれたなぁ」
「あいやんこれから、おみかんみると、
おみかんお手玉、おもいだすやろ?
ほいたらきっと、ひよのおうたも、お手玉うたも、
一緒におもいだしてくれるやろ?」
「そいがな? えへへ――
ひよには、えらいうれしいことやのし」
「え? 『どうしてそこまで』……って――
ん……(呼吸音)――うまいことことばにできるかわかれへんけど――
あんな? あいやん」
「ひよな? ひよが生きとったってうとーてたこと。
消えてしもたら、だーれも覚えててくれんのは……
それはやっぱり、さみしいなって――え?」
「『ひよちゃんは消えない』って――
いや、ひよな? 送り雀で、送り狼から人間を逃したげるためのあやかしやのし。
せやさけ、送り狼が消えてしもたいま、だぁれもひよのことなんて――え?」
「あ……(呼吸音)……
あ……(呼吸音)――
ほんま、やなぁ。
あいやんが、人間が、ひよのこと、
‘送り雀”いうあやかしのこと――
いま、知って、覚えて、思ってくれとるんやもんなぁ」
「ほんなら、えへへっ、ひよ、消えんなぁ。
あいやんが生きとって、ひよのこと忘れんかぎり――
このまま、うとーて、わらって、おみかんたべて、
くらせるなぁ――あ」
:環境音 家の外で雨 F.I
「雨音……ああ、結構つよぉに降っちょるのし。
これ、あいやん、外にでるの――んっ」
「ほんならな? 外も暗ぉになってきとるしな?
あいやん、とまっていえばええのし」
「お客さんのおふとんないけど、ひよな?
こげにちんまいさけ。
あいやんが寝取るふとんの隅っこで、
一緒にはいって、ちとかいも邪魔にならんと思うのし」
「ん。えへへ~っ。うれしいなぁ。
ひよ、あいやんと、もっとたくさんおはなしできるなぁ」
「ほんなら、な――おふとん。あ」
;2
「えへへ、あいやん。一緒にしいてくれるんやなぁ。
ほんなら、一緒に――んしょ――よいしょ」
< SE 布団敷く >
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「しけたー! ほんなら、あいやん?
ごろんして、おふとんもぐって?
あいやんが寝たら、そのおとなりに――」
;SE 布団もぐる
;3
「えへへー。ぬくいなー。
あいやん、体ぽかぽかやのし……
えへへ、ここちええなぁ。安心やなぁ」
「ん――(呼吸音)――ふふっ。
ぬくくて安心したらもう、
だんだんねむぅくなってくるなぁ」
「……(呼吸音)――雨の音も、な?
ひたひたしずかで、ここちええなぁ。
ものべのぜぇんぶ、お水の底にざぶんてつかって。
お布団の船で、あいやんとひよとふたりだけ、
ぷかぷかういとるこころもちやのし」
「え? ……(呼吸音)――うん――(呼吸音)――
うん。
あー、ほんま、あいやんのいうとおりやなー。
他の人間ともたくさんあえば、それだけたくさん、
ひよのことしって、覚えてもらえて――
消えるの、とおざけられることになるなぁ」
「……けどな? あいやん。
あいやんは、ひよのお歌を聞きに来てくれた物好きやけど――え?」
「あ――(呼吸音)――ん――(呼吸音)――うん。
いわれてみたら、そげかもしれん。
ちいさいこなら、ひよのおうたも、おてだまも、
よろこんで覚えてくれるかもしれんなぁ」
「うん……ふん……『たくじしょ』いうて?――
ちいさいこどもをあずかって――
わ。ほんでおちんぎんまでもらえる、そげなお仕事が……あ――」
「お仕事……ん……(呼吸音)……
お仕事、なんて……ひよ、お仕事、とか……できるんかなぁ?」
「ひよ、うたといことちとかいもすかんし。
頭もかしこいことないし――え?」
「うん?……(呼吸音)――うん――(呼吸音)――あ。
ほんまやなぁ。えへへっ――ひよ、
‘送り狼から人間を逃がす”大事なお仕事。
80年。ずっと、ちゃあんとできとったんやなぁ」
「ほんならひよにも――
たくじしょ? のお仕事……できるかなぁ」
「うん……うん……(呼吸音)――うん」
「……あんな? ありがとおな? あいやん。
ひよ、初めてあえた人間が、あいやんでほんま、よかったなぁ」
「けど……な? あんな?
あいやんが、ひよをえらいことたすけてくれるさけ――
その……ひよ、わからないことがでてきたら、
きっとぜったい、あいやんに頼りたくなってしもうて――あ」
「……いつでも連絡してええのん?
えへへ、うれしい。なんや、とくべつな感じがするなぁ。
うれしいなぁ」
「あ――(呼吸音)――そっか。
うん。これが、『おともだち』いうもんなんやなぁ。
あんな? ひよな? あいやんとおともだちになれて――
えへへへっ――えらいうれしうて、ふわふわ浮いてしまそうやのし」
「うふふっ、わかっとるよぉ。
うくのは、一人でもできるもんなぁ。
いまはあいやんと、ひとつおふとんでぬくぬくと、
おねんねをする時間やもんなぁ――あ」
「えへへっ、あいやん、あくびした~。
もう眠たいん?
えへへっ――ほんならな? ひよな?」
「和歌山のうた。ねむいたいときにうたううた。
あいやんに――ひよのはじめてのおともだちに――
こころをこめて、うたうのし」
「あいやん? ね?
めぇつむってな? 聞いとくれのし――(すうっ)」
;参)https://www.youtube.com/watch?v=eDp9ldwm8d0
;歌詞は下記でお願いします
「♪ねんねんころりよ おころりよ
ぼうやはよいこだ ねんねしな
ねんねのおもりは どこへいた
あのやまこえて さとへいた
さとのみやげに なにもろた
でんでんだいこに しょうのふえ
なるかならぬか 吹いてみよ
これをくわえて ねんねしな」
「……(呼吸音)――あいやん? んふふ?
ねんねしたん?」
「(リップ音)――おやすみ、あいやん。
ひよもねるなぁ?
ほんでな、あしたも――あいやんが旅に出てまうまでは」
「いっしょに、たくさん、おしゃべりしよな? あそぼーなぁ」
「ふぁ……ん――」
;口寄せささやき
「おやすみ、あいやん。ひよの、はじめてのおともだち」
「(寝息)」
「(寝息)」
「(寝息)」
「(寝息)」
;環境音F.O →無音に
;おしまい