Track 1
下校時間を知らせるチャイムが鳴っても、私たち文芸部員は思い思いに読書を続けたり、会話を楽しんでしまいます。
そんな中、最初に重い腰を上げるのは決まって私の彼氏です。
生真面目な彼は下校のアナウンスよりも先に下校を促し、部員たちからブーイングを浴びますが、また明日楽しもうよ、と穏やかに微笑みます。
私は彼のそんな優しくて強いところが大好きです。
彼と交際を始めたのは、この春から。
同じ文芸部に所属し、読書の趣味が合って話をするうちに、彼の真面目さや頭の良さ、思いやりのある穏やかさに惹かれていって……。
私の思いに気付いてくれたのか、彼の方から告白してくれました。
内気な私からはとても告白なんてできませんでしたので、凄く嬉しくて泣いてしまったのを覚えています。
彼もそう大胆な方ではないので、あの日の告白にはとても勇気が必要だったと話してくれました。
それでも告白してくれて両思いになれた嬉しさで、私はまた涙ぐんでしまったり。
それから、とても幸せな日々が続いていました。
お休みの日には2人で図書館に行ったり、映画を見たりしました。
でも私はあまり裕福な方ではないので、映画はたまにしか見られません。
彼は、デート代は僕が持つよ、と言ってくれますが負担をかけるのは気が引けるので必ず自分の代金は自分で持ちます……それが何回か続いたある日、彼が照れながら言ってくれました。
夫婦なら夫がお金を出すのが当たり前なんだよね。
だから将来のデート代は、全部僕が持つことにするよ……と。
顔を真っ赤にした彼と、耳まで熱くなってうつむいてしまう私。
その日初めて、私たちは口づけをしました。
軽く触れるだけのキスでしたが、まるで恋愛小説の一幕のようで幸せにクラクラしてしまったことを覚えています……。
あの日から、手を繋ぐだけでドキドキが止まりません。
キスどころか、目を合わせても恥ずかしくなってしまったり……彼も同じようで、照れ笑いをしてくれます。
とても、とても幸せな日々でした。
つい先日、私が人として恥ずかしいコトをしてしまうまでは……
あの日、私は大きな古書店でずっと昔から探していた本を見つけました。
でもそれは、私にはとうてい買えない金額だったのです。
だけど、どうしても欲しい……私はこっそりと本をカバンに入れ、レジを通さずに店を出ました。
万引きをしてしまったのです。
店を出てすぐ、恥ずかしさと情けなさで泣いてしまいました。
やっぱり返そう。
そして謝ろう、そう思って引き返そうとした私の手を掴んだ人がいました……それは、私たち文芸部の顧問教師でした。
万引きの現場を見られていたのです!
脂ぎった太い指が私の手首を掴んで放しません。
興奮した面持ちで息を荒げ、今にも怒られ、殴られそうな感じでした……しかし先生は、私を店には連れ戻しませんでした。
逆に、万引きのことは黙っていろと言います。
どうやら自分の教え子が犯罪者になるのを恐れたようです。
私は良心の呵責を感じながらも、先生の言うことに従ってしまいました。
それが、悪夢の始まりとなることも知らず……
私は以前からこの顧問教師のことが苦手でした。
でっぷりとした体型も、脂ぎった顔や手も、ぎらついた目も、ゆるんだ口元も……。
吐く息は臭く、少しどもった喋り方でマンガやアニメの話ばかりしてきます。
話し方もなにかにせっつかれているようで落ち着きがなく、人の話をさえぎってまで自分の話ばかり捲し立てます。
一部の文芸部員とは友達のようにアニメの話をしていますが、私や彼のように文学好きな者にとってはその話し声が迷惑に感じていました……そしてなにより、先生がわたしを見る眼差し。
先生はよく私の胸元に目を向けます。
困ったことに、私の胸は同年代の中ではかなり大きめで自分ではとても恥ずかしく思っているのです……これが、男の人の情欲をあおることも知っています。
でも彼は、先生のようにぎらついた目をしません。
むしろ胸を見てしまった時は恥ずかしそうに目を逸らしてくれます。
それがとても可愛らしいと思って、彼になら見られてもいいとまで思っていました。
恥ずかしことだけど、将来的には見てもらうことになった筈です。
私たちは深く愛し合っていて、きっと将来は夫婦になるのだと、甘い未来図を想像していたのですから……。
でも今、私の目の前にいるのは優しい彼氏ではなく、大嫌いな先生です……文芸部のみんなを、彼氏まで先に下校させ、私には話があると部室に残らせました。
もちろん、万引きについての話でしょう……。
あれから、何度も返しにいこうと思いました。
でも先生がそれを許してくれません。
しかも万引きの瞬間をケータイカメラに撮っていました。
それをどうするかと聞いても、ニヤニヤと気持ち悪く笑うばかり。
たとえ返しても万引きの事実はなくならない。
両親に迷惑をかけたくない私にできるのはもう、先生の言うことを聞くことだけ……そしてついに、その時が来ました。
万引きのことを言いふらされたくなければ、俺の言うことを聞け……そう言って先生はズボンのチャックを開き、ブヨブヨとした肉棒をわたしの顔に押し付けたのです……っ!