Track 1

Next Track Back

【Track1.お客様かしら?】

あ、君がお客様ね いらっしゃい せっかく来てくれたのに待たせちゃってごめんなさい フラスコの反応を見ていて手が離せなかったの でも、玄関じゃなくて工房のドアから来てくれてよかった 向こうは鍵がかかっているし、待っていてもらう場所もなくて… …ええ、私がルーシェよ? 錬金術師のルーシェ…なあに、不思議そうな顔 若いとか綺麗って言われるのは嬉しいけど… もしかして、寓話に出てくる魔女のおばあさんみたいなの想像してた? ふふ、そういう君は一体どこのどなたかしら? …って、こーら、奥の方はあんまり見ないでね リビングの方は全然片付いていなくって恥ずかしいから 私の部屋、そんなに興味深い? くす、いいえ、怒ったりなんてしないわよ それよりも、君がどんな用件で来たのか聞かせてくれる? 求人…広告…そんなことしたかしら? しばらくこもって集中していたせいか今日が何日なのかも曖昧で 満月は過ぎているからそこから計算…あら? あれから何日経ったのかしら…ねえ、日付、教えてもらってもいい? …ふぅん、なるほど…あ、そっか そろそろあれが必要な時期だったわね 確かに先月、街に買出しに行って…そこで求人広告の相談をしたわ やっと思い出したぁ この工房の入り口の件もそこに書いておいたっけ だめね、一度熱中すると他のことが疎かになっちゃって そっかぁ…ふふ、君がね… 健康そうな頬の色…瞳も澄んでいて…これは期待できそうね こほん…では、改めまして いきなり情けないところを見せちゃったけど…求人の面接、させてちょうだいね いくつか質問に答えてくれればそれでいいから 殆ど確認みたいなものよ まずは君の志望動機を教えてくれる? どうして私の求人に興味を持ったのか、それを聞かせて欲しいの 気軽にありのままを答えてちょうだい …まあ、素敵っ お母様の誕生日プレゼントの為に、なんて でも…ここを選ばなくても他にも求人はあったでしょう? お給料は確かに相場より高めの金額だけど、 街外れまで来なくちゃいけないし… となると…プレゼント、きっと特別なものなんでしょう? 高額な仕事を探さなきゃって思うような…ふふ、そうなのね お年を召したお母様の為の、とても優しい心遣い 聞かせてくれてありがとう こちらは今の答えで十分過ぎるくらい もちろん合格ね 君の方から質問があれば、何でも聞いてちょうだい 仕事の内容は…研究の手伝い 私じゃできない、材料の用意をしてもらうこと 助手といって差し支えないかしら お給料は書いておいた通りの金額を基本として、 頑張ってくれた分は追加の報酬を用意しているわ ふふ、私これでも名の知れた錬金術師よ? 貴族や王家との取り引きもあるんだから、そこは心配いらないわ …それで、どう? ここでのお仕事が君にとって魅力的だといいのだけど 君がいいと思ってくれるなら、 この契約書に印を…そう、その四角いところに指をあてて インクが君の熱を感じて集まっていくから はじめて見た? これも錬金術よ うん、綺麗についた…契約成立ね 今日から働いてもらってもいいかしら? すぐにでも素材が欲しいの …ふふ、どこにも行ってもらう必要はないよ 取りに行って欲しいって話じゃないの 薬草なら裏庭の温室にあるし、 余程希少な素材は冒険者に依頼するもの 家の裏手に真っ黒な倉庫があったでしょう あれが私の自慢の温室 この国の…ううん、この大陸の植物なら殆ど揃っているわ …勝手に入ってはだめよ? 薬草に混ざってマンドラゴラが生えているかもしれないから くす、冗談よ でも決まりを守らないと危険な植物があるのは本当 君に頼みたいのはそんなことじゃないの 燃える水よりクォーツよりもっと貴重な存在… それはね、君の身体にあるものだよ 純粋な心の若い男性の体でしか作れない、 特別な素材が欲しくてたまらない 特に君のは質が良さそうで…はぁ、今から精製するのが楽しみっ どんな色に、成分に変化するのかしら まずはどれから採取…あら、顔色が優れないようだけど… …はい?臓器? あはは、そっかあ あの噂…王都で闇社会の錬金術師が大量の子供を生贄に…って、 今の言い方じゃ誤解しても仕方ないよね 君みたいな普通の人には、錬金術士の違いなんてピンと来ないだろうし びっくりさせちゃったよね? でも大丈夫 ちょっとチクッとすることはあっても 生きたまま臓器を取り出したりするわけじゃないから安心して? それに、無理矢理口を開けさせて月の水を流し込むようなことも… …って、ごめんね 余計に怖がるようなこと言って、私ったら…ああ、震えちゃってる どうすればいいかしら…そうだ…えいっ お胸にぎゅーぅ… ね、私の体…ちゃんと温かくて柔らかいでしょう? 悪魔でも人形でも、アンデッドでもない、君と同じただの人間だよ 怖いものじゃないからね よしよし…こうやって頭撫でてると、 上がっちゃった心拍がゆるやかになっていくはずだから なでなで…させてね? 無理しないで、ゆっくり呼吸落ち着けて よしよし、なでなで… 和ませようと思っていったつもりが、嫌な思いさせちゃった もうしないから…ね ぎゅ、ぎゅーぅ…なーでなで…よーしよし…

Next Track Back