Track 2

【Track2.まずは爪を採取しちゃうね】

うん、手の震えは収まっているね でももう少し…完全に君が落ち着くまで、手、握ってるね …君が離したくなったら、いつでもそうしてくれていいから いくらお仕事とはいえ、自分の身体を素材として扱われるのは嫌? やっぱり抵抗ある? 君の意思を尊重するし、気になることがあれば何でも答えてあげる …ええ、それはもちろん 痛いことはしない、怖いことは…まあ、感覚によるけれど 君を傷つけることはひとつもしないって約束するわ 言葉だけじゃ足りないでしょうから、はい、握手 中指と薬指を少しだけ開いて…これはね、錬金術士の挨拶よ 責任とプライドを持って君との約束を守るよって証と思ってくれたら嬉しいな それにしてもー…あ、やっぱり さっき握った時も感触があったけど、爪伸びちゃってるわね もっとよく見せて 長さは十分、伸び方も真っ直ぐで色も健康的ね 良かったあ 早速だけど、これもらっていいかしら? 切ったばかりの新鮮な爪も材料の一つなの 君のこの爪なら、素晴らしい効果が期待できそう …っていっても、まだ完全に不安が消えたわけじゃないよね? そうね、それじゃあ…こういうのはどうかしら 君はそのまま座っていてね 私が後ろから…こうやって腕を回して、切っていくの さっきぎゅってしたら落ち着いてくれたでしょう? それにこの体勢なら、自分で切る時の感覚に近いだろうし、 あまり緊張しないで済むと思うわ んう…吐息がほっぺたや耳に当たっちゃう? ちょっとくすぐったいかもしれないけど我慢してね 使うのはー…ナイフじゃなくてこれ バネ式の爪切りよ ええ、爪を切る為の専用の道具 二枚の刃がぴったり合わさるようになっていて、 切れた爪は飛び散らずにケースの中に入る仕組み 素材の提供者くんが来てくれた時の為に作ったの 右手からでいいかしら? 念の為に膝に紙を敷いて…これで良し 手を軽く広げていてね こんな風に…爪をぱちん、って挟んで切るの ふふ、よく切れるでしょう 何せ私、錬金術士だもの 金属の加工だってお手の物です…えい、ぱちんっ これなら私に任せていいって思ってもらえるかな? …安心できたなら力抜いちゃっていいのよ お姉さんの体に背中を預けて…ほぉら、もっと 柔らかいから背もたれにはちょうどいいでしょう? それにしっかりくっ付いた方がやりやすいわ くすくす、真っ赤になって固まっちゃって でも、指先に力が入っているから切りやすいなあ そのままガッチガチに硬くしていてね? ふふ、変な言い方していないわ、有りのままを表現しただけ んふふ…はふ…こうやって…ぱちん 親指から、人差し指…ん、んはぁ…中指へと順番に進んでいくの ふぅ、ん…んんっ…ぱちぱち、ぱちん 深く切りすぎないように、 少しだけ白い部分を残しておきましょうね…ぱちん、ぱちん あら…ここ、内側に汚れが入ってしまっているわ ううん、いいのよ これは精製過程で取り除けるし…君が日々の生活をがんばった証でしょう? ん、ふぅ…はふ…んんっ…ぱちん、ぱちん… 日に焼けて…ゴツゴツして、とても男らしい手 私はとても好きよ…こういうの 爪切りって理由がなくても握っていたくなっちゃう くす、君の背中あったかくなってきた 私が一生懸命作った火の元素を固定しておく器具よりも、 君の方があたたかくてそれに感触もいいわね ちょっとだけ悔しいかも?なんて…ふふっ ふぅ…ん、ぱちん、ぱちん…小指まで切ったらこちらの手はおしまい 次は反対の手を…君はそのままでいいわ 私が位置を変えるから んーぅ…これならよく見えるね …ん、左側の方がくすぐったいの弱い? さらに硬くなっちゃって…くす、可愛い反応 さっきみたいに、いい子にじっとしていてね さ、軽く手を開いて 切っていくわね ん、ふぅ…えい…ぱちぱち…ぱちん ぱちん、ぱちん…ふふ、小気味いい音でしょう 君もこの爪切り、気に入ってくれたみたいね 用意したかいがあったわ はふ、この爪はちょっと食い込み気味だから、丁寧にやっていくね ふーぅ…ふはぁ…は、んん…えい、ぱちぱちん んふふ、こら、動かないの 危なくないように設計されていても、刃物だからね …え、私の吐息がなあに?どうかしたの? …そっか、ふむふむ…何でもないかー♪ わかっちゃったあ…くす…はぁ、ふーぅっ ごめんね?集中してると、つい息が漏れてしまうの くすくす…はい、右手を上げてどうしましたか? 質問ならどうぞ ん、はぁ…ぱちん…爪を素材にするのはね、 指先という生命力の出入りする場所にあって、 私たちが重要視する成分の一つ…硫黄を含んでいるからなの 形を成していないけど重要なものが、 形を成す重要なものと溶け合ってここにある…そう考えるとすごいことだと思わない? だからこそ、誰のものかが重要になるんだけどね ふーぅっ…これだけで首筋まで赤くして固まっちゃう君のは、最上級の高級素材 だから嬉しくて、その質の良さを確かめたくなっちゃう ぎゅぅっと密着して…ん、ぱちぱち…ぱちんっ ぱちん…ぱちん…丁寧に、でも素早く 爪に圧力がかかる時間を短くして、ぱちんと一瞬で切ってあげるのが大事 はふ、ん…んーぅ…これで最後ね…えいっ ありがとう、綺麗に切れたわ 早速爪を保管しないとね ケースから専用に小瓶に移して…んんっ、紙の上にこぼれたものも、 残さず集めていかなきゃ…ふぅ、んー…あ、これも入れて… はい、できあがり 君の手大きいから、結構な量になったわね これが何の材料になるのか…気になって当然よね 自分が素材になるんだから せっかく協力してくれる君に隠しておくのも悪いもの ちゃんと答えるわ ただし…とても俗物的だから笑わないでね? これから出来上がるのは、パラケルススの提唱したマクロコスモスの… …うーん、これじゃ解らないわよね すごく簡単に言ってしまうと、いわゆる…若返りの薬なの …まさか、素直に誉められるなんて思わなかった… 君の方がすごいわ…純粋な男の人がいいなーって思ってはいたけど、 こちらの予想を超えた純度…驚かされちゃった もう、あまりキラキラした目で見詰めないで? 照れくさいから…ね いわゆる不老不死をもたらす物質は錬金術師のイメージそのものでしょ? アルカナの秘薬には未だ至れないけれど、 今回は素材がいいから、前回より効き目の高いの薬が作れそうだわ ふふ、本当にありがとう