ようこそご耳愛部へ
ようこそ、ご耳愛部(ごじあいぶ)へ。
あら、どうして自分がここへ来たか、わかってない顔ね。
街の気配よりも、小鳥の鳴き声と緑濃く山裾に抱かれたこの場所。
使われてない旧校舎の保健室…普通に考えたら、足を向けることさえ不思議なこと。
でも、それは偶然じゃないの。
君が先生から呼び出しを受けここへ来て、私に出会ったこと、それらは全て必然よ。
君、最近ずっとうつむいて歩いてるでしょ?
疲れてる時なんて、誰でも自分の事を考えるだけで精一杯だもの。
でもそれは悪い事じゃないわ。
人間、いつも前や上を見て歩いてたら疲れるじゃない。
そう…君は疲れてる…心が弱ってる。
そんなこと、私にはお見通しなの。
ううん、ご耳愛部には隠せない!
私たち部員は、どこにでもいるわ。
君のクラスにも、廊下にも、職員室にだっていて、いつも見守ってる。
そして、今…君の目の前に、私がいる!
あぁ、自己紹介がまだだったわね。
私は、紬愛莉(つむぎあいり)。二年生よ。このご耳愛部の部長であり、創設者。
ん、立ったままも何だから、そこ、ベッドに腰掛けてちょうだい。
ん、いいわ…このご耳愛部はね、私がとある人の癒しに触れて、また私もそうありたいという理念から、癒しと手法を学んで身につけて、そして築いたの。
私のご耳愛(じあい)をうけた人の多くも、考えに賛同して、部員になってくれたわ。
ああ、ある人?
その人はね、私が大病した入院生活で、腐ってた時に出会ったの。
こう見えて、私は君よりふたつも年上なのよ。
病院、そうね…その頃私は、毎日、消毒液の匂いにまみれて、薄暗い廊下に歩く人達、その全てが行く末ない明日に怯えてると決めつけてたわ。
だけど、その人は違った。
灰色のリノリウムの床を突き破って、天に向かって無邪気に咲く、ひまわりだったの!
明るくて、ちょっとクセがあるけど、触れるといっぺんに好きになっちゃう人。
そしてわかったわ。私の目は節穴だった、行く末がないと決めつけてたのは自分だったって。
その人に話しかける人は、みんな笑顔だったんだもの。
私はそれでも信じられなくて、ふてくされてた。けど、その人は言ったわ。
「(ゆるくおっとりした感じで)耳かきしてあげるわぁ~♪」ってね。
騙されるなら、こんな人でいいかと思って、味わっちゃったわけ、耳かきを…そうしたら、ケロっと、心が息を吹き返しちゃった。
…っていう、あれこれのおかげで、無事退院した私は、ここに、
ハートにびびびっと来たのよ。
これは、私の天命天啓(てんめいてんけい)、使命なんだってね。
そして、君がここへ来た。
疲れた心をつれて、紬愛莉の前へね。
だから、はじめるわ!
君のご耳愛(じあい)をねっ♪