Track 4

はじめてのキス

 これをこうして! とうっ!  ……あ、何も変わってない。さっきと同じだわこれ。  それならこれで! どうかしら!   ああーっダメ! 狂おしい程に変化なし!  あぁぁ……。ダメだわ。どうにもなんない。  このままじゃ私、どうなっちゃうの……⁉  うびゃあ⁉  だからー! ノックしてって言ってるじゃないのよぉ!  うっ……。だから何でもないってば。お願いだから。今は放っておいてほしいのよぉ!  えっ……。  何でそんなに優しくするのよぉ。  そんな事言われちゃったら、私……。  あうう……。  うわぁーん!  あのね……あのね……。  あのね。言ってなかったけどぉ。私の身体っ。  本当はっ。完全に人間になれた訳じゃなくてぇ……。  放っておくとぉ……。  ごっ。ごんな風にぃ……。犬に戻っちゃうのよぅ。  今は耳っ。だけだけどぉ。次はしっぽが生えて。  そ。その後はどうなるかわかんないぃ……。  うんっ。うんっ。ありがとぉ……。怖かった。怖かったよぅ……。  ぐすっ。ぐすっ。うわぁーん……。  ぐすっ。うんっ。もぉ大丈夫ぅ……。  う。  い。一応、あるみたいっ。  ある事をすると。また人間の姿に戻れる、らしいんだけどっ……。  ある事、とは……。  ……セックス。  だからぁ! セックスよぉ!  詳しくはよくわかんないけど人間とセックスして!  いちゃいちゃしてアレコレしたら人の形を取り戻せるらしいの!  うわぁーん! こんな言葉二回も言わせないでよぉ!  あ、三回言ってた?  いやそこじゃないわよ!  ていうかこんなのおかしいでしょ? 訳わかんないでしょ?  だから一人で何とかしようとしたのよ!  何ともできなかったけど!  えっ……⁉  あ、あなた。嫌じゃないの?  私。当然だけど人間の知り合いなんて、ほぼあなたしかいないから。  私が犬に戻るのを止められるとしたら。それは……。  あなたが私とセックスするしか、ないんだけど……。  もぉぉっ……!  私だって嫌な訳ないわ!   あなたが大好きで、あなたの力になりたくて人間になったんだもの。  こんなところで終わりたくない……。  でも、そんなに簡単に決めちゃっていいの?  あなたの気持ちはどうなるの?  他に好きな人がいたりしないの?  えっ⁉ じゃあ私達、ずっと両想いだったの……?  そうだったの⁉  嬉しい……! 私も!  死にそうになってた私をあなたが拾ってくれた日から、ずっとあなたが大好きよ。  あのね。前に、あなたを助けられればそれで十分なんて言ったのは嘘。  本当は人間になって、あなたと恋人同士になりたかったの……。  ぐすっ。  えへ……。良かったあ。じゃあ最初から、何も心配する事なんてなかったのね。  じゃ、じゃあ! 両想いに、なれた。事だし。  キ。キスとか、しちゃう……⁉  どうすればいい? 私初めてなのだけど!  あ。目を閉じるだけでいいの? わかったわ!  こう⁉  ちゅっ。  あ……。  し、した? 今キス、しちゃったの?  あ、あのね。  すごく嬉しい……。  キスって、こんな感じなのね。  何だか、胸のあたりが、ふわふわっ、して……。  この辺を。ぐるぐる駆け回りたい気分だわ。  んっ❤  ちゅっ。ん……ふっ……ぁ……❤ んぅっ……ちゅっ❤ ん、ん、ぁっ。ちゅっ❤ んんぅっ……❤  はぁ……はぁ……はぁ……。  すごい……キスって、すごいのね……。  うん! すごい……! こんなにドキドキしたの、初めてだわ!  だ、だって……!  あなた知らないの? あなたって最高なのよ! 優しいし、いつも助けてくれるし。すごくいい匂いだし! たくさん可愛いって言ってくれるし!  人がいっぱいいるところでだって。あなただけ輝いて見える位よ!  そんなあなたとキスできるなんて! すごい! すごい事なのよ!  そうなの? でも、その方が都合がいいわ!  だって、あなたがこんなに素敵なのを、私しか知らないなら……。  私があなたの事、いっぱい独占できるって事よね!  ……ねえ。もう一回、キスしたい……。  ちゅ❤ んんぅっ……ん……ふっ……ちゅっ❤ ぁ。んっ❤ ちゅっ。んぅっ……ちゅっ。ん、んっ……ちゅっ❤  あ……❤  私達、本当に。しちゃうのね。  嬉しいけど。何だか……。  あ……。  ふふ。  あ……髪の毛?  本当? この髪、好き? フフフ。やったぁ。  あのね。私もし人間になれるなら、こんな女の子になりたいってずっと想像してたの。  だってあなた。前テレビを見て。  こういう黒髪の、小柄な感じの女の子を可愛いって言ってたから。  私それが、すごく悔しかった……!  だってあなたの事、この世で一番大好きなのはこの私なのに!  あなたは他の女の子にうつつを抜かしてるんだもの!  思わず『キーッ!』ってなったのよ。  だからね。その日から毎日考えてた。  いつか絶対あなたがびっくりするような素敵な人間の女の子になって。  あなたをメロメロにさせてやるんだって……。  ねぇ、どうかしら。  私、ちゃんと可愛い女の子になれてる……?  嬉しい!  ん……ちゅっ❤  ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ❤  はぁ……はぁ……はぁ……。  あの……い。いよいよ、これから、しちゃう訳だけどっ。  私これから、どうしたらいい?  セックスって。具体的に何をしたらいいの……?  私全くわかってないって事はないんだけど。きちんと理解はできてないの……。  あなたはわかる?  本当? じゃあ、あなたに任せる。  あなたにお願いすれば。絶対大丈夫だもの。えへへ。やっぱりあなたってすごいのね。あなたの犬になれて幸せだわ。