Track 9

雨の日のお迎え

 あ。みーつけた!  心配だから迎えに来たの!  さっき電話した時。  何だか様子、変だったから。  それから! 今朝、傘持っていくの忘れてたでしょう?  フフフ。私の傘に入れてあげてもよくてよ。相合傘ね!  当然傘は私が持つわ。  フン。身長差? なんの! そんなものに屈する私じゃないわ。  さ! 帰りましょ。  とりゃっ! ほらね。問題ないでしょ?  このままっ、あ、な、た、を。おうちまでっ……エ、スコートしてっ。差し上げるっ。わ。  あ、あっ、あ……。やめて風ちょっと。  いや、負け、負けないわ……。  ああぁぁー!  だめだわこれ。  負けました。傘持って下さい。  ぐぬぬ……。『持ってきてくれただけで十分嬉しいよ』じゃないわよ!  ていうかあなた。もし私が迎えに来なかったらどうするつもりだったの?  どうせあなたの事だから。自分なら濡れても良いとか思って。 ずぶ濡れで帰ってくる気だったんじゃない?  私が同じ事したら、絶対怒る癖に。  でもね。私最近わかってきたの。  あなたは自分を大事にするのが下手だから。  辛くても、笑って誤魔化して。一人でボロボロになって。倒れたり、しちゃうから。  私。それがすごく嫌だったけど……。  それなら私があなたの分まで、あなたを大切にすればいいんだってわかったの!  だから来た訳よ。これからはずっとこうだからね! 観念なさい!  身体だってね? 今はこんなだけど。  まだまだ成長するわよ。そのうち百八十センチくらいになったらどうする?  あなたの事なんか。  おーひーめーさーまー抱っこで!  ヒョイって運べるようになっちゃうんだから!  あなたの体重が百キロ超えてたって余裕よ。  その頃には筋肉もムキムキになってるはずですもの!  え? 今のままでいい? 憧れるんだけど。筋肉。  ……とか言ってたら着いたわ。  今の家、駅近でいいわよね!  ふんふん♪  うん? どうしたの?  ……そうだったのね。  何よ。やっぱり辛い事があったんじゃない。迎えに行って正解だったわ。  わかるわよ。隠すだけ無駄よ。ばーか!  無理しない方がいいわよ。  人間も犬も、正直な方が生きてて楽しいに決まってるわ。  辛い時はね。バンバン泣いていいのよ。でないと泣き方忘れちゃうわよ!  そのために、私がいるんだから!  あ。着いた。  ほら! お風呂沸かしてあるの。  一緒に入りましょう?  ああ。あなたは立ってるだけでいいわよ。  服、脱がしてあげる♪  あのね。さっきの話だけど。  努力をしても、すぐに結果がついてこない事もあるわ。  本当はうまく行っていても……。成果が目に見えるまで、しばらく時間がかかる事もある。  ほら。お給料だって、働いた日からしばらくしてからまとめてもらえるお仕事が多くて。  すぐにいただけるお仕事は、ちょっと珍しいでしょう?  それと同じよ。  だけど、頭では理解できていてなお、それが苦しい。その気持ちもとてもわかる。  ……私もそうだから。  でも、いいじゃない、みんなみたいに上手くできなくても。  多数派からはみ出しちゃう、変わり者の人生でもいいじゃない。  あなたがこれからどんな事になっても、私はあなたの味方よ。  何があっても。絶対あなたのそばにいる……。  ちゅっ!  ほら。いらっしゃい! カモン!  モニカ様が慰めてあげるわ!