夏掛け、添い寝
;FI 環境音 湖畔、夕方、虫の声
;3
「ん……(呼吸音)」
;SE うちわパタパタ
「……すずし、きもちい。
オッカイ、うちわ、ありがとねぇ。
蓮の葉っぱのうちわはさ、匂いもよくて、しあわせだねぇ」
;パタパタ
「あ……そうだオッカイ。喉かわいてない?
夏掛けとってくるときにねぇ。
えへへっ、パロポロ――じゃーん」
「いいでしょう。スイカズラの花。
オッカイも、蜜のむ? のむんだったら、パロポロより先にのんでいいよ?」
「のみかた、わかる? うん――そこの細い部分から、ちゅーって」
「そうそう、蜜、あまーいから、安心して?
ふふっ――(呼吸音)――どう?
ね? だよねぇ。あまーいよねぇ」
「それにさ、へへへっ。きっと普段のオッカイだったら、ものたりないって思うだろうけど――
このおっきさだと、コロポックルの体のサイズにちちんでるとさ、なかなか、吸いごたえあるでしょー」
「え? もういいの?
したっけ、パロポロ、残りのむねー」
「ん……(ちゅうっ、ちゅう、ちゅうううっ――こくっ)……ん……ふぁ――おいし――あっ」
;↓間接キスに気づいた
「え!? ううん――な、なんでもないべさ……
なーんも……(呼吸音)――うん……
パロポロ、なーんも……気にして、ないさ……
(自分の唇を指先でそっと撫でる)」
「だた……ね? へへっ――
今日の蜜――いっつもよりも――甘いなぁ、って――
はぅ……(呼吸音)」
「って、なんでオッカイも赤くなるべさ――
え? 『なんでもない』? よね――うん。
なんでもない、なんでも――(呼吸音)――」
「なんでもないのに、ふぁぁ、なんだか、顔、暑いねぇ。
夕方の風も、水音も、こんなに涼しいのに――あっ」
「ふふふふっ――マレウレウ……ちょうちょ、クロアゲハ。
いいとこで、羽をやすめてくれたねぇ」
「くらぁくなって……うふふふふっ……アゲハの羽がゆっくりゆっくりぱたぱたすると――ん……(呼吸音)――
ゆっくりゆっくり、涼しい風にくすぐられるねぇ」
「ん……ふぁ……ん。
ね? おっかい――涼しくなったぶんだけさ――
もうちょこっとだけ――寄ってもいぃい?」
「えへへっ。ありがと。したっけ――(呼吸音)」
;7 密着
「あ――オッカイのにおいがするねぇ、いい匂い」
「おひさまの匂いと、汗の匂いと……オッカイの――
シャンプー、せっけん? の、まじったにおい」
「なんだかおちつく――(呼吸音)――オッカイに――
つつまれてるみたいな感じする……」
「えへへへへっ――(呼吸音)――
クンネレカムイ、ふくろうの羽にうずもれて、眠るときより――もーっと安心で、あったかだべさ……え?」
「あ、うん――たまぁに、ね?
台風ビュービューだったり、雷ごろごろだったりで、
ひとりぼっちじゃ怖い夜は、さ」
「クンネレカムイは、いつでもコロポックルの味方だから。
茂伸のクンネレカムイもおんなじだから……
怖い夜には、パロポロのおうちにきてもらって――
羽にうずもれて、眠ったり……ときどき」
「え? 『うらやましい』って――
えへへっ、ちょべっともうらやましがることなんてないさー。
オッカイだって、クンネレカミムイの羽をおふとんにしてねむれるんだから」
「うん、そう。クンネレカムイ、アイヌ――
んと、人間のことも好きだから。
パロポロから頼んだら、オッカイのこと絶対に、羽につつんで眠らせてくれる……あ」
「したっけ、ね? 夜になったら、一緒に背中にのせてもらおう?
えへへへへっ、オッカイとパロポロふたりでさ、夜の森の上、月と星の下――すべるみたいにとんでもらうの、きっととっても――しあわせだべさ」
「え? 『それも誰でも頼めるの』って……
うん、頼めるさ。
さっきもいったとおりに、ええと……クンネレカムイ――
人間のこと……大好き、だから」
「ええと――でも、あの――
オッカイ……ね?
その――誰か、他に……
パロポロとじゃなく――一緒に、乗りたい、誰かが……いる――え? 『そうじゃない?』」
「そうじゃなくって? ……うん……うん……うん――
ふぁ」
「え? あ――アイヌって、人間って――
ただ、乗せてもらって飛ぶだけでももう、うれしいの?
それが――新しいいやしになるの?」
「だからオッカイも、さっきそこらのヤヤン・コペチャ――マガモの背中にのっかってあんなにはしゃいでたの?」
「へぇえ、そうなんだー。
パロポロそんなの、夢にも思ってなかったさー」
「あ、じゃあさ、そしたらさ。
ケロこの背中にのっかって、水をすーいすいわたってもらうのとかも――
あ、そうなんだ。そんなのも、あたらしい癒やし体験になるんだ」
「うん……うん……フィールドアスレチック? って――
ああ――お外で遊ぶ遊園地」
「え? ぎったんばっこんも簡単につくれる?
あ、そうだよね。オッカイ、普段は人間なんだもんね。
あのおっきな手なら、コロポックルの大きさの遊び場なんて、いくらでもかんたんにつくれるよねぇ」
「したっけ――したっけ――したっけ、オッカイ。
オッカイが、もし、イヤでなければ――
あ――」
「オッカイの方から、いってくれるの?
うん……うん――(呼吸音)――うん――
えへへへへっ」
「オッカイがいろんな遊びどころをつくって、
パロポロがポンポンアイヌの術をつかって、
人間のお客さんをちっちゃくして」
「それで遊んでもらったり、いろんなカムイとかコペチャの背中にのってもらって、冒険したり」
「うん、それ、たのしそう。
たのしそうだし――いまよりもっと、素敵ないやしを、お客さんにとどけてあげられそう」
「それに……えへへ」
;7 密着ささやき
「……そうできたらさ。
毎日ずうっと――おっかいとパロポロ、ずっと、一緒にいれるべさ」
;7 密着
「えへへへへっ――ん――あ――(あくび)――あぅっ」
「汗かいて、あたまつかって、甘い蜜すって、うれしくて、安心して、暗くて、涼しくて……
ん――パロポロ……なんだか、ちょべっとねむたくなってきちゃった――」
;SE うちわパタパタ
「あ……ありがと。けどね? パロポロ、もう十分に涼しいから――さ」
;SE 手をにぎる
「うちわじゃなくって、パロポロの手……
つかまえててくれたほうが、うれしいべさ」
「ん……(呼吸音)――オッカイの手、あったかいねぇ――安心するねぇ――(呼吸音)――」
「したっけ、いまは、ね? いっしょにねむろ?
寝て起きたら、また――フィールドアスレチック? のこと、たくさんたくさん、たーくさんはなそ?」
「ん……えへへへへっ――
おやすみなさい。ピリカ・オッカイ。
おんなじゆめを、きっとみようね? ――(あくび)」
「ん……ふっ――ん――(呼吸音)――」
「ん……(寝息)……(寝息)……(寝息)」
「(寝息)……(寝息)……(寝息)」
「(寝息)……(寝息)……(寝息)」
「(寝息)……(寝息)……(寝息)」
;環境音。F.O.
;無音
;おしまい