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おかえりー、人間。
んー。今日はなんだか、すっきりしなさそうな顔してるなー。
どうかしたのかー?
ま、何はともあれ。
余のとこにおいでー。
うん、いいぞー♪
ぎゅーーーーーー。
で、どーしたんだー?
ふふ。なんだー? 言うのが恥ずかしいのかー?
別に、どんなことでも余は笑ったりしないから。話してみー?
ふんふん。へー。ふんふん。
そーなのかー。
そーいうもんなんだなー。
ふんふん。ふんふん。
つまり、頑張ったのに褒めてもらえなかった、ってことかー?
あぁ……。なるほどなぁ。そーいうの、あるよなー。うん。辛いよなー。
んー? 言ったろー? 笑ったりしないって。
余も昔なー。褒めるべきときに褒めなかったせいで、部下たちの士気が下がりまくったことがあってなー。
名誉は褒美と同じくらい重要、っていうのは、よく分かってるつもりだぞー。
めちゃくちゃ頑張ったら、そりゃ、誰だって褒められたいよなー? 頑張りを、認めて欲しいよなー?
よーし、分かった。今日は、余、人間のこと、いっぱい褒めてやるからなー!
余は、人間がいっぱい頑張ってること知ってるから、「頑張れ」なんて言わないけどさー。
もう頑張ったことに対して褒める分には、何も問題ないからなー♪
ほら、余の胸においで♪ いっぱい褒めてやるぞー♪
ぎゅーーー♪
よーく頑張ったなー。人間は、本当によく頑張った。
他の奴に認められなくても、余は、ちゃんと分かってるからなー。
人間は、すごいことをしたんだぞー。とっても大切で、やらなきゃいけないことをした。
それは、本当にすごいことなんだ。
だから……余が、他の人間どもに替わって、お礼を言うよー。
ありがとなー。
一生懸命やってくれて、ありがとう。
本当に、ありがとう♪
だから……今日は、ゆっくり休んでくれなー?
そーだ。なんなら、明日、このまま休んじゃうかー? ふふ。
余がお金を人間にあげる、っていうのは、少し違うけどさー。“休暇”、ってゆーのも、十分褒美に入るだろー?
余が代わりに、会社の人間どもに連絡をとってやろー。あの薄い板……スマホ、っていうんだったかー?
アレ越しでも、余の力、結構届くからさー。周りの人間どもの精神をすこーしいじって、何の気兼ねもなく休めるようにしてやろー♪
頑張った人間には、その頑張りに報いるべきだからなー。
ふふ。言っとくけど、これは、余の命令だぞー? 余の命令破ると、ひどいことされちゃうからなー?
だから、人間は明日、ゆっくり休まなきゃいけないんだ。いいなー?
……うん♪ 素直でいい子だぞー♪ よしよし♪
人間は、ほんとにすごいんだぞー。
余、人間と一緒に過ごすようになって、結構びっくりしてる。
毎日朝早くに起きてさー。電車とかいう、ぎゅうぎゅう詰めの乗り物に乗って、会社に行くんだよなー?
それ、人間の世界では当たり前のことになってるんだろうけど……そんなことないからなー?
余的には、ありえないことなんだぞー、それって。
他人との距離を強制的に詰めさせられる、なんて、かなりキツいよなー、実際。
……あ、もちろん、余と人間は違うぞー♪ 余は人間のこと、誰よりも信頼してるからなー♪
でも、人間は、余以外のやつと、それを毎日やってるだよなー。うーん。余だったら耐えられないなー。
ホントにすごいなー♪
あとは、朝から晩まで、ずーっと働き続ける、っていうのも、偉いよなー。
余、魔界の住人だったけど、かなり適当だったからなー。そりゃまあ、戦いが激しくなったときは、寝ずに一か月戦った……なんてことは、過去に魔界でもあったみたいだがー。
余の代になってからは、あんまりそーいうのもなくて、平和なときが多かったからなー。
お昼ぐらいには一日の仕事終わることもあったなー。
なー? 分かっただろー?
人間、ホントにすごいんだぞー。
すごくて、偉くて、カッコいいんだぞー♪
人間は、毎日毎日、ほんとに頑張ってるんだ。
誰にも言ってもらえないかもしれないけどな。この世界の中で、毎日生きてるってだけで、もう頑張ってるんだ。
自分で自分を褒められなくても、余は、人間が生きてるだけで、褒めてやる♪
……うん。やっぱり、こう言うべきなんだろうな。
今まで頑張ってくれて、ありがとう、って。
生きててくれて、ありがとう♪
余は……それだけで、とっても嬉しいぞー♪
……んー? ふふ。どーした?
泣きたくなったかー?
んーん。笑ったりしないよー。
涙って、人間の感情表現の一つなんだろー? なんで、それを笑ったりするんだ? ふふっ♪
余の胸の中で、好きなだけ泣けー♪
ずーっと、ぎゅーってしててやるからなー。
よーく、頑張った。
えらい、偉いぞー。
ありがとなー、人間♪
ありがとう。
ふふ♪