Track 5

3-1

 人間、おかえりー。  ……あれ?  ちょっと待った。  なんだか、顔色が悪いぞー?  あ、こら。逃げようとするんじゃない。  ちゃんと、余に、顔見せてみー?  …………  おでこ熱いなー。  これ、熱あるんじゃないかー? “大丈夫”、って……そんなわけないだろー!  人間は、余と違って、体が丈夫じゃないんだから。  悪化すると大変だろー?  っと。立ちっぱなしだと、疲れちゃうか。  こっち来い? 早く、お布団行くぞー?  余が支えてやるから。体重かけていいぞー?  よいしょ、よいしょ……  ふー。到着。  ほら。さっさと、服脱げー? 寝間着に着替えなー。窮屈だろー?  うん。それでいいんだー。  さ、早く寝ろ?  毛布、肩までかけるぞー。  うん、そうそう。素直にそうしてりゃいーんだよー。  まったく。  うーん。余、破壊とか呪い系の力しか使えないからなー。治療用の能力、覚えとくんだったなー。  まー、でも、温かくして寝てれば、すぐに治るだろー。  よいしょ、っと……。  あ、動かないでいーぞー。余は別に寒くないから。人間がお布団の中心でいいからなー。  ぎゅーーーーー。  うわっ。人間の体、冷たいなー。すぐ温かくしてやるよー。  え? “なに”、って……添い寝だがー?  人間を温めるには、肌と肌を触れ合わせるのが一番だろー?  あー、安心しろ? 余、人間と違って体は丈夫だからなー。風邪うつす心配しなんてしなくても大丈夫だぞー♪ 咳とかクシャミも、遠慮なくしてくれなー。  にしても、どーして、余に隠そうとしたんだー?  余、人間の看病くらいできるぞー?  ふふ。ま、おおかた、人間のことだから……  余に迷惑かけたくなかった、とか言うんだろーけど。  んー? 図星かー?  まったく。  人間のくせに、余に気遣いするなんて……生意気だぞー?  余、魔王ぞ? こっちに来る前は、魔界の支配者ぞー?  人間が風邪引いた程度で、迷惑に思ったりなんか、しないぞー♪  余の迷惑はなー。朝起きたら、勇者クラスがたくさんいる、魔王討伐パーティーに囲まれてた……とか。そういうレベルで、初めて迷惑だって感じるくらいかなー。  まあ、それでも余は蹴散らすけどなー? ふふふ。  だから……この程度で迷惑とか思っちゃ、めっ、だ♪  むしろ、余に迷惑だって思わせたら、大したものだぞー?  人間は、脆くて弱い生き物なんだから。  辛かったら辛いって、ちゃんと言わなくちゃいけないんだぞー。  そこだけは、人間の、とってもダメなところだ。  余、結構怒ってるぞー。ぷんぷんだぞー?  ほら、人間。  余に何か言うことは?  悪いことしたら?  ……うん♪ そーだ。素直にごめんなさいが言えて、偉いぞー♪  じゃあ、余は、人間を許す。  だから……その代わり人間も、余が添い寝すること、許してくれ。  ……うん♪ ありがとな♪  ぎゅーーーー♪ えへへへ。  それにしても……人間は、風邪になったら痩せ我慢するのが普通なのかー?  体調がよくないときは、素直にダメって言って、周りに助けを求めたほうがいいと思うけどなー。  人間界は、なかなか回りくどいなー。  まあ、こういう世界の風潮や常識は、なかなか変えられないんだろーなー。  せめて、人間だけでも、少しでも辛いって思ったら、余に助けを求めてくれていいからな?  余も、次までに、治療の力を身に着けておくから。腕の一本や二本吹っ飛んでも、くっつけられるようにしておくからなー♪ ふふふ。  ……んー? 余の体、温かいか?  ふふ。そっか。よかった♪  体、もう少し寄せられるかー? どうせだったら、腕も足も絡ませたほうが、温かいだろー?  うん、そーだ♪ えらいぞ。  ん……ふふ。眠くなってきたみたいだな。  うん。大丈夫だぞ。このまま寝ておけ。  あ、明日のことは、心配するなー? また、余が代わりに会社に連絡してやるから。スマホで、ちょちょいっとな。  あと、目を覚ましたら、余に言ってくれ。それまでに、簡単に食べられるもの、作っとくから。  ……ん? ふふ。だいじょーぶ♪ 人間が眠るまで、ちゃんと傍にいるよ。  ぎゅーーって抱きしめて、温めて……  ずーっと、見守ってやるから。  よーし、よーし。  余がいれば、だいじょうぶ。  だいじょうぶだからなー。  安心して眠れよー。  よーし、よーし……  よーし、よーし♪  いいこ、いいこ……  いいこ、いいこ……♪