3-1
人間、おかえりー。
……あれ?
ちょっと待った。
なんだか、顔色が悪いぞー?
あ、こら。逃げようとするんじゃない。
ちゃんと、余に、顔見せてみー?
…………
おでこ熱いなー。
これ、熱あるんじゃないかー?
“大丈夫”、って……そんなわけないだろー!
人間は、余と違って、体が丈夫じゃないんだから。
悪化すると大変だろー?
っと。立ちっぱなしだと、疲れちゃうか。
こっち来い? 早く、お布団行くぞー?
余が支えてやるから。体重かけていいぞー?
よいしょ、よいしょ……
ふー。到着。
ほら。さっさと、服脱げー? 寝間着に着替えなー。窮屈だろー?
うん。それでいいんだー。
さ、早く寝ろ?
毛布、肩までかけるぞー。
うん、そうそう。素直にそうしてりゃいーんだよー。
まったく。
うーん。余、破壊とか呪い系の力しか使えないからなー。治療用の能力、覚えとくんだったなー。
まー、でも、温かくして寝てれば、すぐに治るだろー。
よいしょ、っと……。
あ、動かないでいーぞー。余は別に寒くないから。人間がお布団の中心でいいからなー。
ぎゅーーーーー。
うわっ。人間の体、冷たいなー。すぐ温かくしてやるよー。
え? “なに”、って……添い寝だがー?
人間を温めるには、肌と肌を触れ合わせるのが一番だろー?
あー、安心しろ? 余、人間と違って体は丈夫だからなー。風邪うつす心配しなんてしなくても大丈夫だぞー♪ 咳とかクシャミも、遠慮なくしてくれなー。
にしても、どーして、余に隠そうとしたんだー?
余、人間の看病くらいできるぞー?
ふふ。ま、おおかた、人間のことだから……
余に迷惑かけたくなかった、とか言うんだろーけど。
んー? 図星かー?
まったく。
人間のくせに、余に気遣いするなんて……生意気だぞー?
余、魔王ぞ? こっちに来る前は、魔界の支配者ぞー?
人間が風邪引いた程度で、迷惑に思ったりなんか、しないぞー♪
余の迷惑はなー。朝起きたら、勇者クラスがたくさんいる、魔王討伐パーティーに囲まれてた……とか。そういうレベルで、初めて迷惑だって感じるくらいかなー。
まあ、それでも余は蹴散らすけどなー? ふふふ。
だから……この程度で迷惑とか思っちゃ、めっ、だ♪
むしろ、余に迷惑だって思わせたら、大したものだぞー?
人間は、脆くて弱い生き物なんだから。
辛かったら辛いって、ちゃんと言わなくちゃいけないんだぞー。
そこだけは、人間の、とってもダメなところだ。
余、結構怒ってるぞー。ぷんぷんだぞー?
ほら、人間。
余に何か言うことは?
悪いことしたら?
……うん♪ そーだ。素直にごめんなさいが言えて、偉いぞー♪
じゃあ、余は、人間を許す。
だから……その代わり人間も、余が添い寝すること、許してくれ。
……うん♪ ありがとな♪
ぎゅーーーー♪ えへへへ。
それにしても……人間は、風邪になったら痩せ我慢するのが普通なのかー?
体調がよくないときは、素直にダメって言って、周りに助けを求めたほうがいいと思うけどなー。
人間界は、なかなか回りくどいなー。
まあ、こういう世界の風潮や常識は、なかなか変えられないんだろーなー。
せめて、人間だけでも、少しでも辛いって思ったら、余に助けを求めてくれていいからな?
余も、次までに、治療の力を身に着けておくから。腕の一本や二本吹っ飛んでも、くっつけられるようにしておくからなー♪ ふふふ。
……んー? 余の体、温かいか?
ふふ。そっか。よかった♪
体、もう少し寄せられるかー? どうせだったら、腕も足も絡ませたほうが、温かいだろー?
うん、そーだ♪ えらいぞ。
ん……ふふ。眠くなってきたみたいだな。
うん。大丈夫だぞ。このまま寝ておけ。
あ、明日のことは、心配するなー? また、余が代わりに会社に連絡してやるから。スマホで、ちょちょいっとな。
あと、目を覚ましたら、余に言ってくれ。それまでに、簡単に食べられるもの、作っとくから。
……ん? ふふ。だいじょーぶ♪ 人間が眠るまで、ちゃんと傍にいるよ。
ぎゅーーって抱きしめて、温めて……
ずーっと、見守ってやるから。
よーし、よーし。
余がいれば、だいじょうぶ。
だいじょうぶだからなー。
安心して眠れよー。
よーし、よーし……
よーし、よーし♪
いいこ、いいこ……
いいこ、いいこ……♪