Track 1

バス停のゆき(体拭き)

;//////// ;Track1 バス停のゆき(体拭き) ;//////// ;/// ;シーン1:夏。山の中のバス駅(バス停+待合駅) ;(状況)ゆきは、バス駅に実質閉じ込められ、次のバスで助けてくれる人が降りてこないかを待ち焦がれている ;/// ;SE 蝉の鳴き声 :SE バスがバス停につく ;SE 誰かがバスから降りる ;SE ブザーがなりドアが閉まり、バスが走り去っていく ;10/右前遠 「にーさーん、おにいさーーーん」 「たすけてー、たすけてー、にーさーん、おにいさぁん」 「あぁ、よかったぁ。 ……気づいてくれたと? くれた……よね?」 ;11/右遠 「あああ~、そっちじゃなかとよぉ。 こっち、こっち。バス駅ん中っ」 ;9/前遠 「あ! ……ああ――よかったぁ。こっち、この中と。 ね? おねがい。早ぉにたすけて、おにいさぁん」 ;SE ドア開く 「ひっ!? 閉めて!! ドア! 中入って、早ぉに閉めてっ」 :SE ドア閉め(あわてて) ;1/前 「あああああぁ~。 よかった、よかったぁ、こわかったぁぁああ」 「おにいさん。えへへ――。 ありがと。まっこと、ありがとぉねぇ」 「あんな? うちね……ものべののカミさまにお手紙で呼び出されてな? ここまで来たはよかったばってん――」 「一緒にきとった犬神(いんがめ)ちゃんにな? こぎゃんバス駅におきざりにされて……」 「もろーたお手紙には、 『ついたら役場に来るっスよ』って書かれとったばってん――」 ;顔そむけ 「お外、この暑さと日差しでしょお」 出たらたちまちとろけてしまいそおで…… 怖くて、一歩も出れんかったんよ」 ;顔マイク 「ひょっとしたらもう、 このまま日暮れまで動けんかもって思ぅとって…… とっても、とーっても怖かったとよ~」 「え? ええと…… あー“いんがめ”って、この辺ではそぎゃんいわんと?」 「いんがめゆーんは、犬神(いぬがみ)のこと。 カミやいうても、本物の神様ちごーて、ただのあやかし」 「狐憑き、いうて――――ああ、知っちょる? やったら、話ば早かとねー」 「あれの、狐でのーて、犬が憑きよったもんが、犬神(いんがめ)憑き。 で、祓われんまま百年も二百年もたってしもーて、もう元の人格と憑いた犬神がとけおーて一体化してしもーたもんが、犬神いわれるあやかしなんよ」 「でな? 犬神ちゃんもウチと出身はおんなじで、 九州は人吉・球磨(くま)ばってん―― 犬神ちゃん、うちと違ぉて、暑さにはもう強い強い」 「バス駅につくなりな? 『ついた! ゆきちゃん、またあとでー』って、 一直線に走っていってしもうて」 「あ、ゆきちゃんて、うちのお名前。 うふふ、うちね? お名前もっとるんよぉ。 良かでしょお」 「むかぁしむかしに、 お山に迷いこんできたふもとの村のちいちゃかこにな? ゆきちゃん、って――あ! そうじゃなく、 いま、犬神ちゃんのことやったとねぇ」 「犬神ちゃんはな? はしゃいじゃうともう、 それだけでいっぱいになっちゃう子やけん。 ゆきのことばすーっかり忘れて……ほんで、置き去り」 「やけんね? もう ゆき。 あつぅてあつぅてとろけそおで――」 ;1/前 右耳方向に接近囁き 「ん……と。ね? 見て、こん汗。 だくだくでしょお」 「もう体までとろけてしまってるんじゃないかって思ぉて。 頭もフラフラ、ぼーっとしてきて――きゃっ!?」 ;1/前 通常 「どぎゃんしたと? おにぃさん。 急にそぎゃんとおっかなか声」 「え? 『熱中症かもしれない』って―― んと……ええっと、‘ねっちゅうしょう”って、 どぎゃんもんとや?」 「『そんなこともわからないなんて、もうかなりやられてるかも』って―― ……んん~、ゆき、よぉわからんけど、なんねぇ。 ちょこっと失礼なこといわれとるとよぉな――」 ;1/前から3/右に45度動きながら 「ひゃああっ!?」 ;SE とさっ、的な、優しく人体を寝かせる ;1 前(至近) 「お、おにぃさん? どぎゃんしてゆきんこと膝枕なんて――ひゃうっ!?」 ;SE 冷えピタのフィルム剥がす→オデコに貼る 「ぁあ――なんね、これ――ひやっこかぁ―― ひゃっこくてひゃっこくて、おでこ、 とーってもここちよかとよぉ」 「(呼吸音)……(呼吸音)……(呼吸音)」 「ああ……生き返る…… おでこのあついの、ぜぇんぶ吸ってもらえとるねぇ……」 「……おにーさん、ゆきに…… どぎゃんことしてくれよったと? あ! ひょっとしたらおにいさん…… ゆきの……その……」 「んとね、あんね? お耳、ちょこっと貸りてもよかと?」 「うふふぅ。ありがとぉ、ほんなら、お耳ば借りて―― ええとぉ」 ;3/右 接近囁き 「(ごくり)――おにーさん、ひょっとして…… ゆきの、遠縁にあたるあやかし、とかと?」 ;3/右 通常 「え? 『冷えぴったんを貼っただけ』って―― なんねぇ、そん、『ひえぴったん』って」 ;2/右前 「あ、そん小袋にはいっとおと? ふんふん……“きゅうきゅうぽおち”。 よぉわからんけど、 なんだか素敵なもんな感じがするとねー」 ;1/前 「あ、そいば救急ぽおちとや? そん中から――わ! なんぞ、ひらぺったいもんが――」 「あぁ! ゆき、きっとわかったと~。 んふふ~そいばきっと、『冷えぴったん』とねぇ?」 ;SE フィルム剥がす 「ほわぁ……透き通った皮が剥がれよって―― そいば、どぎゃんすっと? ん? 顎をあげると? ゆきの? よかとよ―― <貼る> ひゃっ!!?」 「あ……あ! ひゃっこーい。ひんやりー。つめたかとー。 うふふ、わかったばお。 こん『冷えぴったん』ば、 はったところが冷たくなるとね?」 「んふふふっ~ 『正解』? 正解できて、うれしかと。 おにーさんのおかげで――ん……」 「ふぁ…… あ――ん――(呼吸音)」 「おでこも首も、たいぎゃーここちよーなったとよ~。 まっことありがと。ありがとねぇ。おにぃさん」 「え? 『まだ、脇と鼠径部もひやさないと危ない』って。 わきは、わきの下のことよねぇ? ほんで……そけーぶ? そけーぶって、どこと?」 「ん? なんねにーさん。急に真っ赤になってしもーて。 え!? あ、ひざまくら、おしまいと?――って……」 ;13/後遠 「おにーさーん、どぎゃんしよったとー? いきなりそぎゃんすみっこにいって、 ゆきに背中ばむけてしもーて」 「ん? 『鼠径部は、またの付け根のこと』…… またのつけね……ふとももの根本…… あー! あー、あー、あああ~」 「んふふっ、おにーさん、紳士なんねぇ。 ありがとおねぇ、たすけてくれて、 そぎゃん気ぃまでつこうてくれて」 「さっきいきなり……うふふっ、 押し倒されてしもうたときには? どぎゃんことになるんかなぁって、 ちょこっとおっかなかったけど」 「うん。わかっとぉよ。 緊急のときやったけん、あぎゃんしてもらわんと。 ゆき、とろけてとろけて…… 消えてしもうとったかもしれんけんね」 「そいやき、ね? 紳士なおにーさんとまた向き合って話せるよーに、 ゆき、そけーぶに冷えぴったん。 すぐに貼ってしまうけん」 「その……ね? ちょこっとだけ、ねぇ? こっちば見んと、待っとって」 ;SE フィルム剥がす 「こおして、ええと――」 「あ、おにーさーん。 今は絶対! 絶対こっちば、見んといてねぇ」 ;SE 衣擦れ 「ん……っと――そしたら、おまたのつけね―― ここんところに――ぺたっ――! あ――ふぁっ」 「ああっ……こいば――確かに、効くっ――と―― ふあぁ――あっ――ひんやり、ひえて―― ここち、よか――……ふぁ」 「あとは、脇、にも……ん――」 ;SE 衣擦れ 「ひゃうっ! あ――ひゃっこ――ん、んふぅっ、 こいば、こぎゃんと、効く――なんて――」 「はぁ――はぁ――はぁ――はぁ―― ふぁぁ……あっ!? やだ、こぎゃん恥ずかしか格好――はしたなかぁ」 ;12/右後遠 「あれ? おにーさん」 ;13/後遠 「んふふっ……振り返りかけとる気ばしたけど、ゆきの早とちりやったみたいね。ごめんねぇ。 ほんなら、もうちょこっとだけ待っとってねぇ。 いま、すぐに整えなおすけん――んしょっ――ん」 ;13/小声/独り言 「ゆきも一応女の子やけんねぇ。 手鏡でちゃあんと、 おかしなことないか確かめんといけんけん」 「ん……ん。 ……うんっ! んふふっ」 ;13通常 「おにーさん、おまたせ。ほんなら、ね? ゆきのおとなり、すわってくなっせ?」 ;15/左遠 「ん? なんねぇ? どぎゃんしてそぎゃん遠かところに座ると?」 「え? 『汗臭いかもって、気になって』って、 やぁ、おにいさんのいけず。 ゆきがとろけて出てきよるんは、水、真水やけんね。 汗臭くなんてぜーったいに――え?」 「そうじゃなくて? ――ああ……まっことねぇ。 いわれたら、おにいさん汗だく……(すんすん)――えっ!?」 :15/左遠(さらに離れる) 「なんでそぎゃんと離れるとー? おにいさん、汗臭いどころか……(すんすん)。 うん、むしろええ香りがしておるとよ?」 「ばってん、そぎゃん汗だくじゃ気持ちわるかろーし。 ゆきが慌てさせちゃって、おにーさんに汗ばかかせてしもーたのもあるし」 「そーだ! うん。えへへっ」 ;1/前 「ゆき、この体質やけんね? 乾いたてぬぐい、いっつもたーんと持ちあるいちょるけん」 「おにーさんの汗、このてぬぐいでふいたげるねー。 ゆきの手――ね?」 ;SE 肌を手のひらでなぜる 「こぎゃんひゃっこいけん。 手ぬぐいごしでも、おにーさんの肌ばひんやり冷やして。 きっと、汗ばおさえられるけん」 「ほんなら、ね? 遠慮は無しで、はずかしがらんで―― 上着、まくって?」 ;SE 衣擦れ 「あ……(すんっ)」 「う、ううん? なんでも、なんでもなかとよ? ゆき――ドキってなんて、してなかと」 「ほ、ほんなら。ええと――拭くとね? ん――<肌拭き>――うふふっ、ひゃっこかったん? きっとすぐに慣れるけん、ちょこっとがまん――ね?」 「もう一回、ね? ……ん――<肌拭き> んしょっ――<肌拭き>―― うふふ、おにいさん、慣れてきたと?――<肌拭き>―― 気持ちよさそう――」 「ほんなら、ね? 今度はばんざーいって、両手ばあげて? (呼吸音)――うん。そのまますこぃし、あげとってねぇ?」 ;2/右前 「……<肌拭き>――よい、しょ――<肌拭き>―― ……ん……(呼吸音)――きゃっ! もう、動いたらいけんよぉ?」 「脇の下やもんねぇ、くすぐったいのはわかるけど―― <肌拭き>――すぐ拭き終わるけん、 ちょっとだけ、がまんがまん。ね?」 「うん。ほんならちゃっちゃと済ませるけんね? ん――<肌拭き>――っしょ――<肌拭き>―― あー……(すんっ)――やっぱり、熱気こもっとーねぇ」 「ゆきが――ん――<肌拭き>――少しでも、涼しうしてあげられるとよかけど……<肌拭き>――ん……と。 うん! ほんなら、反対側ねぇ」 ;3/左前 「くすぐったくても、動いたらいけんよぉ? ん……<肌拭き>――っしょ――<肌拭き>」 「あー、不思議……<肌拭き>――え? ああ…… こっちの方が――ん――<肌拭き>―― 熱気、すこぉし少なかよーな気ばして」 「あー……なぁるほど。ん――<肌拭き>―― 『利き腕の関係かも』ねぇ――<肌拭き>―― うふふっ、そぎゃんんこともあるかもしれんね? ――<肌拭き>――うん、おしまい!」 ;1/前 「ふぁ――あ~……(呼吸音)」 「え? あ――うん。 拭いとーときは、夢中になって……少しも気づかんかったけど――(呼吸音)――」 「こん待合所の中も……だんだん―― 温度、上がってきてるかもしれん――けん」 「ゆき……すこぉしだけ、息苦しい――ひゃっ!?」 ;SE 携帯プッシュ音 ;SE 電話コール音 「お、おにいさん。急に電話なんてかけて―― どぎゃんしたと? ――あ、『し~っ』って?」 「ん。わかったと。 し~~~っ」 ;環境音off ;SE 電話出る音