最下級悪魔の召喚と隷従、のはずが…
(召喚陣から召喚されて、目の前の召喚主である人間と対峙しながら)
はいはーい、こーんにーちはー。
えーと、あなたがボクを呼んだご主人様。ですかね。
いやはや、ボクみたいなこんな下級の悪魔を呼び出すなんて、良い趣味してますねぇ。
あーいやだいやだ。そういう人って碌なのじゃないんですよ。
痛めつけてストレス解消したりとか、性欲処理したりとか、よくて雑用係みたいな?
どうせご主人様もそういうクチなんでしょ?
力のある有名所の悪魔と違って、ボクみたいな弱小は召喚されたら拒否権なんてないし、はぁーあー、嫌んなっちゃうなぁ。
あーあ、たまにはこっちの立場になってみろってんです。
って、んぅ?どうしましたご主人様。キョトンとしちゃって。
(呼ばれた場所が普通の一般家庭的な家なのに気づいて)
あれ、ていうかここ、普通の人の家じゃないですか?
なんていうか、悪魔を召喚する人が住んでいるような屋敷じゃないというか。
あのー、もしかしてご主人様、普通の一般人、だったりします?
悪魔とか、使い魔とか、そういう不思議系のものとは無縁な人生、ですか?
(肯定されて)
…あぁ、やっぱりそうなんですか。遂に誰でも当たり前のように悪魔を召喚できるようになったのかと思って少し焦っちゃいました。
でも、なんでそんな人がボクを呼べたんですか?
ん?あ、その本、そこそこ有名な魔術書じゃないですか。
(意外そうに、驚きを込めて)
え、古本屋で売ってたんですか?これが?百円で?
ひぇー、物の価値を知らないって言うのは恐ろしいですねー。これ、本物ですよー。
でも、それで大体想像つきましたよ。
大方中に書かれていることを真似してごっこ遊びでもしてみた、ってところでしょうか?そしたら本当にボクが召喚されちゃってビックリ仰天、っていうのが今の状況なんじゃないですか?
ダメですよー?世の中にはご主人様の知らない不思議なことがたーくさんあるんですから。危ない火遊びは程々にしないと。
でもま、ボクとしてはラッキーですねー。そういうことなら今までの碌でなしと違ってボクに興味もないでしょうし。
(何事も無く帰れると嬉しそうに、期待して)
っていうことでぇ、あのー、もう帰っていいです?
ご主人様が許可してくれれば今すぐにでも帰れるんで。
それでもう終わり。何事も無い日常にお互い戻るわけです。ね?だから、
…んぇ?どういうことができるって…いやいや、ボクは本当に無能なただの弱小悪魔ですから。さっき言ったじゃないですか、ストレスのはけ口にされるぐらいが精々だって。
性欲処理?はぁ、ま、まあ、ええ、そうですねえ、言いましたよ?そういうのにも使われるって。
っていうか、実際のとこボクみたいな下級の女悪魔呼ぶ理由なんてほとんどがそれですよ。
でもほら、ボクってお世辞にもスタイルは良くないですし?胸もそんなに無いし、体型も幼いし、よっぽど特殊な性癖持った人じゃないとそんな事しないっていうか、ほら、ご主人様だって、ボクみたいなの、これっぽっちも興味わかないです…よね?
え?ええ、そりゃあ、召喚された以上ご主人様の命令は絶対ですよ?
どんなにボクがやりたくないことでも、一言やれと言われてしまえば体が自動的に命令を遂行してしまいますから、ボクに拒否権なんか無いですけど…
えっとぉ、もしかしてそういう、悪魔の使役とか、興味わいちゃったりしてますぅ?
(慌てて、狼狽えながら)
いや、いやいやいや、ダメダメ、ダメです。ほんっとーに、悪いこと言わないですから、止めた方がいいですって。
いいですか?こういうのはちゃんと知識のある専門家が細心の注意を払ってやるから意味があるんであって、ご主人様みたいなド素人がやったって何もいいことありませんから。ね?ね?
はーい、それじゃ今回の召喚はこれでおしまい!
ご主人様も世の中不思議なことがあるってわかって良い経験になって、ボクはタチの悪い意地悪野郎に召喚されずに済んで、みんな幸せ、ハッピーハッピーです。
それじゃあほら、ご主人様。
帰って良いぞって、そう言ってくれるだけでOKなんで、一言、お願いします。
はい、それじゃどーぞー。
(許可が下りず)
…あのぉ、許可してくれないと帰れないんですけどー?
あ、あれー、どうしたんですか?そんな嬉しそうな顔して。
何か楽しいことでもありましたー?
えっとー、とりあえずボクはもう帰りたいんですけどー…
へぇ?召使い?私を?
いや、だから、やめたほうがいいって…
ふ、服を脱げって…えぇ…ご主人様そういう趣味が…
うぅ、わかりましたよぉ。もうどうなっても知らないですからね。
はぁー、何事も無いまま無事に帰れると思ったのになぁ。
やっぱり人間ってみんなクズばっかりなんだ…。
はいはい、脱げばいいんですよね脱げば。って、そう言ってる間にも勝手に脱ぎ始めるからボクは何も意識しなくても…
…んぅ?あれ?脱ぎ始め、ない…?
いつもは命令されれば勝手に体が動くのに…。
あれ?なんで?
い、いや、おかしい。こんなこと初めてです。
いつもなら、ボクの意思なんか関係無しに命令を遂行させられるんですよ。
服を脱げって言われてるのに、こんなに自由に動いたりできるなんて。
あ、もしかして…。
ご主人様、ちょっとボクを召喚した魔方陣見せて貰いますよ。
(独り言として)
えーっとー、もし違うとすればここら辺にー…あ、あったあった。
んぅ?これってぇ…、あぁー、なるほど。んふふふ。これは面白いことになったぞー。
(笑いをかみしめながら)
くく、んふ、ふふふ
いやー、原因がわかりましたよご主人様。
あーいや、もうこんな丁寧な喋り方することないのかな。
おーい間抜け。君のミスで大変なことになってるぞー。
ボクを召使いにするって?こんな単純な魔方陣一つまともに作れないのによくそんなこといえたもんだね、このバーカ。
んふふふ。言ってやった言ってやった。
あっはは、まさかボクが人間相手にこんな口の聞き方できる日が来るなんて思わなかったよ。それもこれも、全部君のおかげだねー。感謝するよ。
ふふ。その顔だとまだ何が起こってるか全然わかってないみたいだねえ。
かっわいそー。
じゃあしょうがないから教えてあげるかー。とても大切なことだからよーく聞くんだぞー。
あのね、君が作ったのは悪魔を召喚して使役する魔方陣なんだけどもぉ、
知識が無いまま見よう見まねで作ったもんだから、少しだけ、形式が間違ってるんだ。
で、その間違ってる部分が主従の契約関係の所でね。
んふふふ。君が主でボクがシモベってなるはずが、逆にボクが主で君がシモベってなっちゃってるみたいなんだぁ。
わかるー?わかるかなー?ふふ。あははは。こんなこと初めてだよ。
ねぇ、自分のおかれた状況。理解できてる?
たぶん、君が思っている上に絶望的なことになってるよー?
さっき言ったよね?主従の契約において命令は絶対。例えやりたくなくとも、主(あるじ)に下された命令に逆らう権利は無いんだって。
まぁ、特別魔力の高い上位悪魔とか、そういうのだったら抵抗力も強いからそこまで単純じゃないし?もっと複雑な取り決めとか約定に基づいて関係を築くんだけど、ただの人間である君はそんな抵抗力は皆無。っていうかボク以下だろうね。
きっとボクが命令したら全く抵抗できずに言われた通りに動いちゃうと思うよー?
ふふふふ。つまり、君はボクの命令に絶対服従の言いなり奴隷になっちゃったってこと。ここまで言えば、頭の悪い君でもわかったかなー?
(愉快そうに、楽しそうに意地悪な感じ)
あっれれー、どうしたのー?さっきまでは嬉しそーにボクのこと見てたくせに、
何をそんなに焦っちゃってるのかなー?
あ、言っておくけど、もう頼まれたってボクは帰らないからね。
だって帰ったところで別に面白いことがあるわけでも無いし。それならとりあえずは君が死ぬまでの間はこっちにいた方が楽しいに決まってるじゃん?
今まではこっちに来るときは人間性の欠片も無いような人間に無茶なことやらされたりしてたけど、今のボクは完全な自由だ。
それも人間の奴隷っていうオマケつき。これで帰れなんて言われて素直に帰る悪魔がいると思う?ねえ、どう思うー?
んふふふ。まぁそんなわけでさ、君は今日からボクの奴隷として、こき使われちゃってよね。
君に全てのお世話をさせてぇ、暇なときは君で遊んでぇ、そんな王様気分な生活を送るんだぁ。
後悔したってもう遅いよ。だから言ったのにねー。半端な知識で悪魔を召喚なんてしちゃダメだって。ま、もう何もかも手遅れになっちゃったけどさ。
ふふふふ。まさかこのボクが人間を奴隷にできるなんて、何が起こるかわからないもんだよ。
あはは。そんな顔しなくても大丈夫だよ。ボクは優しいご主人様だからねー。
死ぬようなことはさせないであげるからさ、君が寿命で死んじゃうまでの数十年、一緒に楽しもうよ。あはははは。