Track 3

第3話『まひろとはじめてのおつかい』

まひろ「すー……すー……むにゃむにゃ……」(寝息) SE:ドアが開き、みはりの掃除機の音が近づく みはり「ふ~ふ~ふ~ん」(鼻歌) SE:まひろの側まで来て掃除機OFF みはり「ちょっとお兄ちゃん!掃除するからそこどいて!」 まひろ「んあぁ?……んーんー……すぴー……」 みはり「も~~、邪魔だってば~!」 SE;ゆさゆさ まひろ「んん……あと5分~……」 みはり「むぅ……」 SE:掃除機ON みはり「えい」 SE:まひろを吸う。ズボボボ… まひろ「うべべぇぇ~~っ、吸うな~~~!」 SE:掃除機OFF みはり「目、覚めた?」 まひろ「はぁ……はぁ……な、なんてやつだ…… 兄をゴミのように……」 みはり「ゴミとまでは言わないけど……。 ほら、起きたならどいて。 お布団片付けるんだから。よいしょ……んひゃっ!?」 みはり「な、なにこれ、凄い濡れてる…… え……うそ、まさか、お兄ちゃん……!?」 まひろ「へ……?うわっ、ホントだ…… ………あっ、ち、違うぞ?違うって!! えーと……ほら、これだ! テーブルの上の飲みかけのジュース! 寝てる間に蹴って倒したみたい。えへへ……」 みはり「くんくん……確かにこれはオレンジの香り……ほっ…… ……じゃなくて! も~~っ、また人の仕事増やして~~! もう怒ったわ……今日という今日は、許さないんだから! ほら、こっちに来なさい!」 まひろ「ひっ……ひえぇ~~っ!ご勘弁~~!」 SE:引きずられていくまひろ 外に放り出されて、玄関が閉まるガチャリ まひろ「びえ~~ん、外はやだ~っ、おうちに入れて~~!」 みはり「ちょ、ちょっとやめてよお兄ちゃん! ああ、ご近所の目が…… ……もう、お遣い頼むだけでしょ! 汚したシーツのクリーニングと、ついでに買い物!」 まひろ「シーツくらい家で洗えよ~!」 みはり「染み抜きって結構大変なんだから……。 それに買い物してくれないと、晩ご飯の材料ないし」 まひろ「ううう……」 みはり「はい、それじゃあお財布と、これ、買い物メモ。 落とさないようにね」 まひろ「ほ、ほんとに行くの……?一人で……!?」 みはり「はーい、頑張って~!」 まひろ「みはりのオニ!アクマ!自宅警備員虐待だ~!!」 場面転換、外へ。効果音や間などで演出。 SE:とぼとぼと歩くまひろ まひろ「はぁ……まったくみはりのやつ…… か弱い美少女を一人で放り出すなんて、 誘拐でもされたらどうするつもりだ……! そのうえ晩飯を人質にするとはなんとむごい…… 食べ物の恨みは怖いんだぞ…! ……ところで、クリーニング屋ってどこだっけ?」 かえで「あれっ?まひろちゃんじゃーん!」(少し遠くから) まひろ「ひょえっ!?……あ、かえでちゃん!」(嬉しそうに) SE:駆け寄るかえで かえで「どしたのー?今日は一人?みはりは?」 まひろモノ「この子はかえでちゃん。 オレがこの姿になってから知り合ったみはりの友達だ。 派手な見た目とはうらはらに、 とてもしっかりした優しいお姉さんで……。 ……いや、ホントは年下なんだけど」 まひろ「ええっと…… オ……わたし、おつかい中で……」 かえで「おつかいって、その荷物?」 まひろ「う、うん、クリーニングに……ほら、シーツ汚しちゃって」 かえで「シーツって……ああー……。 みはり酷いなぁ、自分で行かせるなんて……」(小声) まひろ「……?どしたの?」 かえで「う、ううん! あんまり触れないであげよ……(小声) ……あ、でも、クリーニング屋さんなら 通り過ぎちゃってるけど……」 まひろ「へ……?」 かえで「あはは……んー、なんか心配だなぁ。 仕方ない、お姉さんが付き合ってあげる」 まひろ「ほんと!?ありがとーかえでちゃーん!」 SE:むにっ まひろモノ「あ、顔にやわらかおっきいものが……? って、うわあぁっ!無意識に抱きついてしまったッ!」 SE:思わず離れるガバッ まひろ「ご、ごご、ごめんなさい~~!!」(焦) かえで「……へ!?なにが?いーよいーよ。 ほら、手つないで、一緒に行こ」 まひろ「う、うん……」 SE:二人の足音。 まひろモノ「はぁ~、何故かかえでちゃんには、 自然と子供っぽく甘えちゃうんだよなぁ…… 恐るべきお姉ちゃんオーラだ……。 みはりも少しは見習って欲しいな」 かえで「あ、ほら、見えてきたよ」 SE:足音がフェードアウトして場面転換 クリーニング屋へ。 SE:自動ドアの音。 ドアがしまり、少し足音。 まひろ「ふうー、ミッション完了……」 かえで「はい、これレシートね。引き取るときに必要だから、 捨てちゃだめだよ。」 まひろ「うん、ありがと~~」 かえで「あはは…… けどあのシーツの汚れって、ジュースだったのね……」 まひろ「ん……?……あっ! さっき店員さんとひそひそ話してたのって、そゆこと!?」 かえで「だってだって、自分で言うのは恥ずかしいだろうと思って~~。 あたしも小さいとき、経験あるしさ…」 まひろモノ「あ、あるんだ……」 かえで「……さてと、それじゃああたしはこの辺で……」 まひろ「え、かえでちゃん行っちゃうの?」 まひろモノ「ううー、この後の買い物にも付き合って欲しかったのに~……」 かえで「ん~…ごめんねぇ…… あたし今日はどうしても行きたいところがあって~」 まひろ「……行きたいとこ?」 かえで「あ、なんならまひろちゃんも一緒に来る?」 まひろ「……へ?」 場面転換、喫茶店へ。 SE:カランカラン…… 店員「いらっしゃいませー」 まひろモノ「ここは……喫茶店?」 かえで「禁煙席ふたり、お願いしまーす」 店員「二名様ですね、こちらへどうぞ」 SE:少し歩き、かえで椅子に座る かえで「……ふう。ほら、まひろちゃんも座って座って。」 まひろ「う、うん……」 まひろモノ「な、なんだこれは…… デート?デートなのか!?」 SE:まひろ椅子に座る まひろ「で……なんで喫茶店?」 かえで「あはは……えっとね、 このお店、ケーキがすっごく美味しいんだけど、 今日は開店記念日でスペシャルケーキが出るんだ~。 もーどうしても食べたくってさ~!」 まひろモノ「意外としょうもない理由だった…!」 かえで「まひろちゃんも一緒に食べよ。 おねーさんの奢りだよ~。あ、みはりにはナイショね。」 まひろ「え、いいの!?」(パアッ!) かえで「飲み物はどうするー?」 まひろ「待って待ってー♪ 」 SE:メニューを開く まひろモノ「どれどれ……ふーむ、コーヒーかぁ。 ここは男らしくブラックと言いたいところだが…… 普段飲まないからなぁ…… なになに、アメリカン……ブラジル……コロンビア…… な、なんだ?どう違うんだ……?) 店員「ご注文はお決まりでしょうか?」 まひろ「……うえっ!?あわわわ……」 かえで「ケーキセットふたつの……あたしブレンドでー」 まひろ「あ、えっと……コ……コー…っ、 ……コーラで」 まひろモノ「な、なさけない……」(チーン……) 店員「……お待たせいたしました。スペシャルケーキセットです」 SE:テーブルに置かれる皿の音。カチャカチャ。 かえで「わぁ、来た来た~♪ 頂きまーす! …ん~、おいしー!」 まひろ「むぐむぐ…ん~~、あまーい!」 かえで「あはは、気に入ってくれてよかった~」 SE:コーヒーカップを手に取り。 かえで「………、ふぅ……」(一口飲む) SE:コーヒーカップを置いて。 かえで「……で、みはりって、最近お家ではどんな感じ?」 まひろ「……もへ?(…ごくん) みはり……お姉ちゃん? むぅー……。そりゃあもう酷いもんだよ。すぐ怒るし」 かえで「へー、みはりが?」 まひろ「今日なんて掃除機で吸われてさぁ…… せっかく気持ちよく寝てたってのに……」 かえで「なんだ、仲良いじゃん」 まひろ「え、いやいや、良くないよ! とうとう家から追い出されちゃったし…… おつかい終わるまで帰ってくるなーって」 かえで「あはは……それは確かにちょっとキツいけど…… まあそれもまひろちゃんのためだと思うけどな。 ほら、可愛い子には旅をさせろー的な?」 まひろ「か、かわいい子……?」 かえで「みはりは頑張ってると思うよ~。 大学で勉強しながら、今は家事も全部自分でやってるわけでしょ。 偉いよねー」 まひろ「ま、まぁ、それは……」 かえで「あの子なんでも出来るように見えるけど、 あれでちゃんと努力してるんだから。 中学の時やってた陸上も、ちゃんと毎日朝練してたしね。 そうそう、実はお料理はあたしが教えてあげたんだー」 まひろ「え、そうなの?」 かえで「勉強見てもらう代わりにね。これでも家庭的なんだから! そこだけはみはりに負けてないと思うなー。 うーん、でもそのうち抜かれちゃうかも……。 あ、まひろちゃんはお料理しないの?」 まひろ「オ、わたし?わたしは……そういうのはちょっと……」 かえで「みはりに教えてもらうといいよー。 あとお掃除とかもね。きっと喜ぶと思うな」 まひろ「………、う、うん……」 まひろモノ「みはり……。」 SE:まひろのコーラの氷の音が響く かえで「んー、なんかいろいろ思い出してきたなぁ……。 ……あれ、そういえばみはり、お兄さんいたよね。 ああ、まひろちゃんのお兄さんでもあるのかな。 あたしは直接会ったことないんだけど……今どうしてるの?」 まひろ「…………へっ!?」 (コミカルなBGMで) まひろ「お、お、お兄ちゃん!?お兄ちゃんは……そのー…… あ、地方の……すごい立派な大学に入って~~……(ぐさっ) 今は遠くで一人暮らしで……(ぐさっ) まひろモノ「ううっ、心にダメージが……っ!」 まひろ「え、ええと、それで、あの~~~」 SE:慌ててうっかりコップを倒す。 まひろ「うひゃーっ!冷たっ!」 かえで「わーっ、大変!て、店員さーん、タオルか何か……!」 店員「お客様、こちらを!」 かえで「あ、ありがとうございます! わー、スカートがびしょびしょ…… もー、大丈夫?ほら、シミになるまえに……」 まひろ「……えっ!かえでちゃん……!そんなとこ拭いちゃ…… あっ、あっ、らめ~~~!」(エコー)※ コメディチックに (BGM止んで、店を出る二人) 店員「ありがとうございましたー」 まひろ「………うぅ……足下が冷える……」 かえで「あはは……風邪引かないようにね……」 まひろ「ごめんね、かえでちゃん……」 まひろモノ「今日は水難の相でも出てるんだろうか……?」 SE:かえでの足音(振り返る感じ) かえで「……さてと。それじゃあ、あたし帰るね。 まひろちゃん、今日は付き合ってくれてありがとー。 一人でちゃんと帰れる?」 まひろ「う、うん、大丈夫……。 あ、ケーキ、ごちそうさま!」 かえで「いーよいーよ、また遊ぼうね。ばいばーい」 SE:かえで去って行く まひろ「かえでちゃん、やっぱ良い子だなぁ……。 はぁ、オレもそろそろ帰るか。うう、気が重い……」 場面転換、まひろの家に帰宅。 SE:玄関をあける まひろ「……ただいまー」 みはり「あ、お兄ちゃんおかえりー。どうだった?」 まひろ「……ほれ、クリーニングのレシート。これでいいんだろ?」 みはり「わぁ、うんうん、やったぁ!えらーい!よしよし……」 まひろ「うええ……子供扱いすんな~っ」 みはり「ふふふ……。それで、買いもののほうは?」 まひろ「………へ?買い物?…………あっ」 みはり「あっ……って、お兄ちゃん……まさか……」 まひろモノ「か、完全に忘れてた~~~っ」 みはり「いやいやいや…… クリーニングだけでなんでこんな時間になるわけ……? も~~、どうするのぉ!晩ご飯作れないよぉ」 まひろ「こ、これは……そのー……あ、そうだ! ……ほらー、おまえ、いつも食事当番で大変だろ? たまには出前にして、休んで貰おうと思ってさ! これでも……感謝、してるんだぞ。」 みはり「………!お、お兄ちゃん…… ……って、そんな白々しい嘘で騙されたりしないけど…… ……はぁ。まあいいか。 お兄ちゃんに頼んだ私も悪かったしね……。 仕方ない、それじゃあ今日は、出前にしよっかな」 まひろ「やったー!ピザだー!」 みはり「お弁当です!」 まひろ「えー……そんなぁ……」 みはり「ちゃんと栄養取らないと、大きくなれないよ?」 まひろ「いやいや……おまえが小さくしたんだろ……」 (※ このへんのやりとりフェードアウトさせながら次のモノローグを被せる感じで) まひろモノ「感謝してるってのは、少し本当だけど。 まあ、たまには家事も……手伝ってやろう、かな?」 みはり「……うわっ、よく見たらなんかスカート濡れてるし! お、お兄ちゃん……まさか……今度こそ……!?」 まひろ「だ~か~ら~、違うって~~~!!!」 (おしまい)