布団の中で体幹を
;環境音・無音
;3/右
「ん……(呼吸音)(呼吸音)(呼吸音)――」
「……雪、降ってきただかな?
音が吸われて、とても静かだ――
なんだかさ……耳が、真っ白になっだみでだな」
「ん? 『おかげさまで』――って。
あははっ、んだか。
あんちゃ、サキの耳掃除、そっただ気に入ったくれただなぁ」
「え? …………あ……(呼吸音・照れ)――
ん――サキもだ。
あんちゃの耳掃除してたらな?
牛鬼のとおこがどおして、とろけるよーな顔こしてたか、
ちょべっと、わかりかけたよーな気がしたで、なぁ」
;3/右 顔寄せ
「次会うとぎにも、耳かきして、な?」
;3/右。
「そんあとは――あははっ。
ふたりでさ。旨め酒、しこたま飲もうなぁ――っと」
「……それまでにあんちゃにおっ死なれてもこまっちまうがら。
さっき教えそびれてた、体幹の簡単な鍛え方、覚えてほしいだ」
「えへへ――なら、一緒にしよな?
あっ! 平気だ、そのままで。布団にいるままで。
寝たままで、動かず出来ちまう、鍛え方だで」
「まずな? 布団の中で腰を少しだけ持ち上げて、自分のヘソを、自分の鼻に向けてやるように――あんちゃ、できっか?」
「あ――ん。上手だ。
そっただできたら、次はなぁ?
持ち上げたのをゆっぐりぺっだ下ろしでみてなぁ?」
「ん――ええ感じだな。
へば、背中から腰がぜっんぶぴったし、敷布団にくっついとるで――」
「このまま腹こさへっこめて、、
背中と腰をしいてる布団に押し付ける――
布団の綿のそん中に、自分の体を沈めるように――
力んで、ぎゅーっって、してみてなぁ」
「ん……ふっ……ん……
背中と、腰が、沈んでってる感じ、するだか?
なら、な? そのまま――そのままで十、数えるだ」
「ひぃの、ふぅの、みぃの、よぉの、いぃつ、むうぅ、なーな、やぁあ、こぉこ、とお」
「んふふっ、ご苦労だったなぁ。
へば、すっかりと緩んでええで――
力こぬいて――だらーーーん――うふふっ」
「……けっこうぐったりつかれるべ?
寝る前にやるクセつけとくと、
腹と腰回りを鍛えられっし、
その先の眠りは深くなるしで、ええこどだらけだ」
「ん? 『何セットやればいい』だか?
ま――将来的には10セットやれれば上等だども……
今夜のところは、あんちゃもクタクタだろかしさ
むりせんで、あと1セットだけにしとこ、な?」
「ん、はば、あと1セット。
腰を浮かして鼻に向けて――戻して。
腹こさへっこめて力をいれて――
腰と背中でぎゅーーーーっと布団をおして沈めて」
「ひぃの、ふぅの、みぃの、よぉの、いぃつ、むうぅ、なーな、やぁあ、こぉこ、とおっ」
「へば、ゆるむ~ だらーーーん。
ぐたーーーー。
ふふふっ、本当にがんばっただな。
おつかれさまだ」
「ってか……(あくび)……サキもさっとは疲れただかな。
……何百年ぶりだもんなぁ……人間のこど――ふふふっ――助けてやってさ――あ、いや、こったは、はじめてだなぁ」
「お礼のお酒もねでそれなのに……
サキさ、あんちゃを助けたもんなぁ」
「『どうして』……って――どーしてだろな?
最初はサキな?
あんちゃのこどやりすごして、関わらんどこうと思とっただけど……」
「んだどもあんちゃが足滑らして、アブねて思ったら――
体さ、勝手に動いとったでなぁ――」
「ああ……もしかして。
オラ、『さき』のこど、思い出したんかもなぁ」
「ん? ああ、『さき』は人間の娘っこよ。
オラとおんなじ名前の――
ってかよ? オラに、サキに、自分とおんなじ名前をくれた、娘っ子」
「大昔によ――さきも、山道で足を滑らせてな?
オラが助けて、お礼いわれて、名前聞かれて、
『ただの山鬼(さんき)だ』ってこただえたらよ――
へへっ――『さきとおんなじおなまえだなや』って、
まぁ喜んで、懐いて、懐いて……」
;3/右 通常位置でささやき
「……人間のわらしこは、めんこいもんなぁ。
あんためんこいもんだもの……
どっただしたって、嫌いにも恨みにも、おもえんもんなぁ――」
「……(呼吸音)――茂伸のカミさんの導きかもなぁ。
誘われたとき、このまま消えちまうんならさ、
どこで消えても変わらねかって、思うたけどなぁ……」
;徐々に眠い
「……ここ来てさぁ、あんちゃと会えで。
あんちゃのおかげで――サキ、人間のこど好きなんだって――
やっぱり、思い出せたもんなぁ……」
「ん……(ふあっ)――なんだか――とってもぬくいなぁ――
えへへっ――ええあんばいだなぁ――
ぬくくて――しずかで――おだやかで……」
「……んふふっ――あんちゃも大あくびだな。
へば、寝んべなぁ。
このまま静かに目をつむってさ――ん?」
「寝る前に、ひとつだけ?」
「ああ、かまわねだ。
なんだなんだ? ナイショバナシか?」
;1 密着
「……ふん……ふん……ふん――ああ、そうだなぁ、
そりゃいなぁ」
;3/右 近い
「へば、次のときには、星の天幕、草の布団で、一緒に寝よなぁ。
上等の酒――ふふっ――ちゃあんとお礼に、もってくっだぞ?――ふあっ――」
「ああ、もう眠くで眠ぐてたまらんなぁ――
目、とじるだで――おやすみな。
ん……(呼吸音)――ん――(呼吸音)――あ」
「ごめんな? あんな? ひとつだけ――
へへ、もうひとつだけ、さっと、試してもかまわねが?」
「……ありがど、あんちゃ。
へばな? あんちゃはそのままで……
目さ、つむったままでかまわねからな」
;3/右接近ささやき /ちゅはリップ音
「…………つむっったままで――(呼吸音)――
目、あけんでな?――ん……(ちゅっ!)」
;3/右 通常、
「えへへへっ――あのさ、とおこさがさ。
旦那さんにしてんの見だこどあっで――
あんまりしあわせそうなもんだでな」
「サキもいつかは……
旦那にしたいと思えるようなあんちゃがもしもできたら、さ。
そんときは、一度でいいからやってみでえって思ってたんだ」
「え? あ……『一度じゃなくてもかまわない』って……
ふわ……わ――へば、な? ――へば」
「に、二回目とか……三回目とかは……その……
草の布団の上でのときに…………はっ」
「な、なんでもねぇだ。
寝言だ、寝言。
サキはもう、すっかりぐっすりねちまってるだ」
「……うふふっ――
ねちまってるけど――おやすみ、あんちゃ。
くさいろの夢、星空のゆめ。
あんちゃといっしょに、みれたらいいなぁ――ふあぁ~」
「ん……(呼吸音)――おやすみ、な?
ん……(寝息)……」
「(寝息)×4」
「(寝息)×4」
「(寝息)×4」
「(寝息)×4」
;四度目の寝息×4をF.O.
;おしまい