Track 4

サキの耳かき(左耳)

;7/左 顔寄せ 「(ふーーーーーーっ)」 ;7/左 通常 「……こっちのお耳も、浅いところはだいたいきれいだな。 左の耳より、もっときれいかもしれんだで…… あんちゃの指先。 右耳の穴に入れやすいの形しでるのかもしれねなぁ」 「んだども――うふふっ――<顔撫で>―― どーでも同じだ どっちの耳も、サキがキレイキレイにするでなぁ」 「え? 『もう少し撫でてほしい』だか? ふふっ、冗談ごとでなく、 ほんとにわらしにかえっちまっただか? あんちゃ、めごいなぁ」 「……あんちゃに甘えられんのな? ――<顔撫>―― サキも、なんだか嬉しいんだわ――<顔撫>―― だけん、たぁんと甘えてけろな?」 「ん……<顔撫>――(呼吸音)――。 こっただ山奥来てもスマホで仕事だもんなぁ――<顔撫>―― あんちゃ、疲れで当だり前だな――<顔撫>―― しんどいなぁ――<顔撫>」 「……いいこだ。いいこ――<顔撫>―― あんちゃはいいこだ――がんばりやさんだ――<顔撫> ――んだども、今日は、うふふふふっ」 ;7/左 顔寄せ 「こわぁい鬼につかまっちったもんだでな?――<顔撫>―― 言うごど聞かねば、食われちうだ」 ;7/左 「んだでな? 仕事(しごど)も勉強(べんきょ)もなぁんもなんでもほったらがして――休まねばまぁ――<顔撫>―― わるぅい鬼この、命令だでな」 「ん? あははっ――だなぁ。 あんちゃも、サキもゆるんだなぁ。 あんちゃ、ほっとした顔しでるもん。 サキもか? んだか、ニコニコかぁ」 「したら、ナデナデはおしまいにして、 耳掃除――させでもらうな?」 ;7/左 顔寄せ 「ん……(呼吸音)――(ふーーーーっ)」 ;7/左 通常 「うん……<耳かき音>―― ん……<耳かき音>―― あ? ああ……(呼吸音)―― サキがどうして秋田を離れたが――<耳かき音>―― 聞かれてただな――」 「サキはな、普通の鬼だったでなぁ――<耳かき音>―― 鬼の両親から産まれでよ――<耳かき音>―― んだども、産まれてすぐに置き去りにされて……(呼吸音)―― 物心つくまでは、山のケモノとかよ、捕まえて喰っで、育っただ」 「わらしこの鬼にはよ、人間とケモノの違いも、わがんねがらな――<耳かき音>―― 山奥の深くに置き去りにさねでねがったら、 そのころにもし、人間と出会ってしまってたらさ――<耳かき音>――」 「ん……(呼吸音)―― サキも人食い鬼になってさ――<耳かき音>―― 人間の名のある侍に、退治されてたかもしれんなぁ――<耳かき音>――」 「んだとも、サキがはじめて人間とあったのは――<耳かき音>―― 右も左もわからんころでも、腹ぺこんときでもなかっただ――<耳かき音>―― クマこかなんか仕留めで喰っで、腹ぽんぽこで――(呼吸音)―― んふふ、そっただときにな? ガリッガリのじさまと出くわしたんよ」 「じさまは……今思うと坊んさんだったんだろぉなぁ。 ガリガリでまずそうなのに、おっとろくてな――<耳かき音> おっとろしいけど、サキも鬼だで、逃げるだなんて思いつかねで――<耳かき音>――」 「どうしでええかわからねで、動けんままでおったらさ―― ぷぅんて匂い――い~い匂いが、サキの鼻こさ、くすぐってきただよ」 「ん。んだ――酒だ――<耳かき音>―― じさまが、とっくり取り出して、フタを開けたでま――<耳かき音>―― もうその匂いが、とっくりの中身が気になって気になって――(呼吸音)―― おっがねのも忘れで、ふらふら近づいちまっただ」 「んだどもな? じさまと来たら、サキが手ぇ伸ばしたら――<耳かき音>―― ひょいって、ひょうたんかくしちまうってな。 力づくで――とか思えるような相手でもなかったで――<耳かき音>―― オラ、どうしてええが困っちまって、また動けんよーになってな――<耳かき音>」 「したら、な? じさまがサキに言っただよ――<耳かき音>―― 人間の言葉なんて、聞いたこどもならっだこどもねがったのに――<耳かき音>――不思議なもんでな。何いわれてっか、わかったの」 「んだで、いわれたとおりじさま抱えて、峠さ超えで、じさまおろして――(ごくりっ)―― ああ、思い出すだけでも呑みだくなるなぁ」 「ご褒美にもらったひょうたんの中身の―― あのときの酒のうまがったこど! もうな、サキ――いっぺんでとりこになっちまったの」 「じさまはそれぎり――<耳かき音>―― サキのこどほったらかして山の向こうへと去っていったども――<耳かき音>―― ひとつだけサキに、人間の言葉、教えて残してくれてなぁ――<耳かき音>」 「んと、な? (呼吸音) ――『手伝いすっから、酒こ呑ませな?』 あははっ、こんたが ――<耳かき音>―― サキが一番はじめに覚えた、人の言葉だ」 「はじめは山に来たもんに――<耳かき音>―― それからだんだん――<耳かき音>―― 村やら町やらに、こっちからでかけて、でもそういって――<耳かき音>――」 「したらな? だぁんだん……<耳かき音>―― 人間の方から、サキを頼るようになってきたんだぁ」 「そんころにはさ――<耳かき音>――サキも、 人間の言葉をすっかり覚えで――<耳かき音>―― 人間のこども、まぁまぁ好きになってからなぁ――<耳かき音>―― 酒だけじゃなく、頼られるのもまぁ、嬉しぐて――(呼吸音)」 「火事も消したし、いぐねぇ長者をこらしめもした――<耳かき音>―― 山から材木たんと運んで、戦のときには鉄砲こかついで大砲かついで――<耳かき音>―― サキにお酒さ呑ませてくれた人間を、 必ず助けでやったの――<耳かき音>――」 「したらなぁ、いつの間にちっさい祠ができて―― 神社になって――(呼吸音)―― まぁ、カミさまに祀られたんな……<耳かき音>―― んだども……そこから、ズレはじめてちまってなぁ――<耳かき音>」 「人間たちがよ、神社にお参りするようになっで――(呼吸音)―― だんだんと、サキに直接、頼み事をしでこねよーに、なったのさ――<耳かき音>」 「『恐れ多い』だなんだって……<耳かき音>―― あははっ、こっちはさ? ご褒美のお酒が目当てなだけなのになぁ――<耳かき音>」 「『神社の酒もサンキチ様のものですだ』って、つきあいのあった年寄り衆なんかは言ってだけどな?――<耳かき音>―― そっただ飲んでも、盗みのみみででんめぐねーのな――(呼吸音)――」 「……人間のこど手伝って、手伝ってやった人間が顔くしゃくしゃにして笑ってさぁ――<耳かき音>―― そうして、一緒に呑むんでなげりゃ……<耳かき音>―― んめぐねーのな」 「んでな? そのうち―― サキが手伝ってやっとった人間たちが代替わりして、代替わりして――<耳かき音>―― そうしたズレが、すり替わるまでになっちまってな――<耳かき音>――」 「サンキチ様から、ミヨシ様―― 呼び名が変って、祀られるカミさまも、すりかわったの――<耳かき音>」 「サキが一度もあったこどもねぇ、むかしむかしの豪族が祀られてるってこどになっでな?――<耳かき音>―― 人間も、こっただ山鬼さ祀るより、その方があんばいよかったんだろぉなぁ――(呼吸音)――」 「そんたらなったら、もうだぁれも、サキのこど頼らんし、祀りもせんよーになっちまってな――<耳かき音>――ある日ぽこんと、サキはカミさまでのーなったのさぁ――<耳かき音>」 「ただの山鬼に……(呼吸音)―― いや、もう誰からも、頼られるこど恐れられるこどもね、 ……だれからも忘れ去られた山鬼に、なっしまっただ――<耳かき音>」 「……あやかしの力の源は、人間の恐れだったり、思いだったり、そういうもんだで――(呼吸音)―― 忘れ去られたあやかしは、消えでぐしかね……っと―― <耳かき音>――」 「ん……(ふーーーーーっ)――ありゃま。 話す間にすっかりど、左耳も綺麗にしちまっただな」 ;<ティッシュで耳かき拭き>   「ああ……いつの間にか日も落ちて……<顔撫>―― 退屈な話につきあわせちまって、悪かっただな」 「え? ――『退屈じゃなかった。話の続きが気になる』って…… はぁ……あははっ! あんちゃもそーとーな変わりもんだなぁ」 「あー……(呼吸音)――うん。 あんちゃみでな細っこいのを、夜の山ん中追い出すわげにも、いかねぇもんな。へば――」 「な? あんちゃ。今夜はここに泊まってげ、な? サキは本当は、星の天幕、草の布団が一番だども―― 一晩くらいは、綿の布団に――へへっ」 ;顔寄せ囁き 「……あんちゃどいっしょにくるまって寝んのも、」 まんず、悪くもなさそうだでな」 :環境音FO