彼女の墓前にて
【詩乃】
……こんにちは……ご家族のお墓ですか?
あ、いえ……涙を流されていたようなので……
差し出がましく申し訳ありません
……恋人のお墓、ですか……
お別れを言えず……そのままお亡くなりに?
……なるほど……よろしければ、お力にならせていただけませんか?
申し遅れました、私は詩乃と申します
歩き巫女として、全国各地を流浪しております
貴方のような方に巡り会えたのも何かの縁
口寄せの儀にて、彼女とのご対面を叶えて差し上げましょう
口寄せは、亡くなってしまった肉体から乖離した魂……
浮遊したそれを寄せて、自身の肉体に宿す儀式です
亡くなられて間もないのであれば、近くにいらっしゃるかもしれません
無念が強すぎて、念を向けた相手に寄り添うのはよくある話です
ですが、時間が経てばいつかは消え去るもの……
この機会にお試しいただくことを、お薦め致します
この先に、間借りしてある小屋があります
すぐそこの……あの小さい小屋です
どうぞ……お代は……成功した暁にお願い致します
そんなに取りませんよ、気持ち程度で十分です
そのように悲しげな顔をした方を放ってはおけません
ぜひ……貴方と彼女のお別れを、手伝わせてください