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願いを叶えてあげるはずだったのに

ん……、ん、ん……、 う、んあ…、ふぁあ……。 なんだか私(わたくし)とても長い間、 眠っていたような気がします……。 しかし、ここはどこなのでしょう……。 古びた建物に、軋むベッド……。 とてもよい環境とはいえませんわね……。 ん……、あら……?そこの貴方。 そう、神や天使とは異なり、 神秘の力も霊力をも宿さぬ幼い貴方。 もしかして、貴方は人の子なのですか? ……まあ、やはりそうなのですね。 それでは、ここは下界なのですね……? あぁ……。 私ったら、なんということでしょう。 末の妹と鬼ごっこの最中に、 足を滑らせて雲から落ち、 下界に住まう人の子の世話に なってしまうなど、なんて間抜けな 女神なのでしょう。 これでは天界に戻った後、 主神(しゅしん)はおろか、 下級天使にまで 笑われてしまいますわ……。 穴があったら入りたいとは このことです……。 あぁ……、しかし、いつまでも 自分の愚かさを嘆いていては 仕方ありません。 それよりも、私を 助けてくださった貴方に、 お礼をするのが先でしたわね。 幼き人の子よ、 天界から落ちてしまった 間抜けな私を救ってくださって、 本当にありがとうございます。 助けてくださったお礼に、 女神として貴方に何かして 差し上げたいのですが、 何がよろしいかしら? 私が出来ることなら、 何でもいたしますわよ。 ……そうですね、例えば、 英雄になりたいとか、 名声がほしいとか、 何でもよろしいのですよ。 うん……?……特にない、 とおっしゃるのですか……? それは本当の本当なのですか……? まあ……、 こんなにも欲のない人の子に 出会ったのは初めてです。 大抵の人間は、自分の欲望を 簡単に口にするものです。 それなのに貴方ときたら、 女神である私に、願いごと 一つ言わないなんて、とても清い心の 持ち主なのですね。 私、感心してしまいましたわ。 きっと貴方のご両親は、 貴方をとても大事に育てて いらっしゃるのでしょう。 ご両親から深い愛情を沢山、 貰っている貴方の心は、 とても純心で、女神である私を 無償で助けてくださったのですね、 ありがとうございます。 そうですわ、天界に戻る前に、 貴方のご両親にもお礼を させていただきたいです。 貴方という立派な男の子を 育てていらっしゃるご両親のおかげで、 下界から落ちた私は、貴方と 素敵な出会いができたのですもの。 さあ、私をご両親の元へ 案内してくださらないかしら。 ……うん?どうしましたの? 急にうつむかれて。 今はお仕事中なのかしら? でしたらお仕事が終わる頃に、 ご挨拶に向かいましょうか。 ……え?違うのですか。ん……? まあ……、貴方……、 そうだったのですね……。 まだ幼い貴方を残して、 ご両親は天へと旅立って しまっていたのですね……。 ご両親が天へ向かったのち、 貴方はここでずっと一人で 暮らしているなんて……。 私、貴方にとても辛いことを 言わせてしまいましたね。 勝手にお話をしてしまって 本当に申し訳ありません。 ……なんですの?一人だけど、 いつもお空からお父様と お母様が見守ってくれているから、 大丈夫だよ、とおっしゃるのですか? まあ……、なんて いたいけな子なのでしょう。 まだ幼いというのに、 天国にいるご両親を想い、 毎日を懸命に生きているのですね。 幼い子、一人で生きていくのは 大変ではありませんか? 苦労はないのですか? 先程、貴方はお礼はいらないと おっしゃいましたね。 しかし、まだ幼いながら一人で 暮らす貴方のことを思えば、 女神である私は、貴方を放って おくわけにはいきませんわ。 やはり私は貴方の為に 何かして差し上げたいと思います。 貴方、食べ物はどうしているのです? ご両親が残してくださった畑が あるから、食料には差ほど困っては いないのですね。 それではお金はどうですか? 生活に困らない分の貯えが あるのですか? 少し心細いけど、着る物などは ご近所さまのお古を いただいているから、 お金も必要ない、というのですね。 まあ…、それでは、 私は貴方に何をして 差しあげたらよいのでしょう。 困りましたわ……。 うん……?どうしました……? 食べ物やお金には困っていないけど、 たまに、少しだけ、寂しい時が あるのですね? ご近所の方が貴方を気遣って よくしてくれるけれど、お家で一人で ご飯を食べて冷たいベッドで眠るのが 心細いとおっしゃすのですね……? まあ、まあ……、お可哀想に……。 幼い子が一人でお家にいるのは、 寂しくて当たり前のことです。 今まで辛かったでしょう。 でも、もう大丈夫ですよ。 貴方の寂しさを埋めるために、 今日からしばらく、私が貴方の 家族になって差し上げましょう。 ん……?どうしました、 そんなに驚いた顔をして。 私では役不足でしたか? 女神さまが家族だなんて、 恐れ多いとおっしゃるのですか? うっふふ、人の子よ、小さい体を 縮ませるのはおやめなさい。 私もいずれは天界に戻らなければ いけないゆえに、ずっと貴方の家族で 居続けるのは難しいですが、貴方の 寂しい心が癒えるまでの間、傍にいて 差し上げたいと思っているのです。 それに貴方は、私の末の妹と 同じくらいの年の頃に見えます。 妹と同じ年頃の幼い貴方を放って おくことはできませんわ。 私が毎日、栄養満点の美味しい お料理を作って、貴方の健やかな 成長を見守っていきますわね。 そうですわ、近所の人間に 私のことが女神だと知れてしまうのは いけませんので、今日から私のことは お姉さん、と呼んでくださいませね。 なんですの? 女神である私をお姉さんと 呼ぶのが恥ずかしい、 とおっしゃるのですか。 うふふふ、大丈夫ですわよ。 ほら、一度、口にしてしまえば、 気恥ずかしいさも飛んでいきますわ。 さあ、私のことをお姉さん、 と呼んでみるのです。 小さい声でも大丈夫ですわ。 それではいきますわよ。 せーの、お姉さん……。 うっふふふ♪よくできました♪貴方は 一見してしっかりしているように見えて、 照れ屋さんなところもあるのですね。 可愛らしいですわ。うふふふ♪ それでは、今日からどうぞよろしく お願いいたしますわね。 しばらくの間、仲良く一緒に 暮らしていきましょうね。

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