Track 5

『リナが耳かきしてあげる』

「こんにちは。せんせー」 「また仮眠しにきたの? そうなんだ。お疲れだねー」 「いつもお仕事お疲れ様。寝られるときに寝ておいたほうがいいよねー」 「……よく考えてみたら……わざわざ保健室に仮眠しに来てる……ってことは、もう、リナがいるの、分かってるってことだよね」 「つまり……それは、そーいうことだって思っていーのかなー?」 「ちなみに……保健のせんせーは、いつも通りいないよー。……なんだか、リナたちに気を遣ってくれてる気がしてきたよー。なんか悪いな。ちょっとだけ」 「それで、せんせー。どーする?」 「ちょうど、リナのお膝……空いてるけど」 「……おいで? せんせー」 「ん……。はーい、リナの膝枕にいらっしゃい。この前の膝枕で気に入ってくれたのかな? そうだと嬉しいなー」 「むちむちの太もも枕だよー。太ってるわけじゃないよー。せんせーのために、あえてムチムチにしてるんだよー」 「……でね。今日も、せんせーが来るかなって思って……リナ、ちょっとだけ準備しててさ」 「ぐっすりお休みしながら癒されるものって……マッサージの他に、何があるかなって考えて」 「こーいうのはどうかな? 耳かき。おうちから持ってきたんだー」 「やってみてもいーい、せんせー? 痛くないようにするからさ」 「うん、ありがとー。じゃあやるねー。お耳、失礼しまーす……」 「……んー。こんな感じかな?」 「よさそう? そっか。安心したよー」 「人の耳かきなんてやるの、初めてだからさー」 「……んー? そうじゃない? JKなんだし。普通は経験ないでしょー」 「あぁ。そうじゃなくて、大丈夫なのかって話ねー」 「大丈夫だよー。やり方はばっちり予習してきたから」 「くり、くり。こり、こり……こしょ、こしょ」 「うん。やっぱり、力加減は、弱すぎるかなってくらいがちょーどよさそーだね。耳って敏感だし、傷つけちゃったら大変だから」 「ママみたいに優しくやってあげるよー」 「せんせー、ちゃんと、耳掃除とかしてる?」 「ん? うん。中の汚れは、それなりに」 「まあ、でも、耳掃除とかって、やりすぎるのもよくないって言うしねー」 「気持ちいいからって耳掃除たくさんしてたら、逆に奥のほうに、耳垢(みみあか)押し込んじゃって、耳の聞こえが悪くなったりもするらしーよ」 「本当はお医者さん行って、とってもらうのが一番なんだよねー」 「だから、こーいう耳かきって、要はほとんどマッサージみたいなもんだよねー。気持ちよくなるための」 「……そう考えてみると、なんか、えっちなことみたいだねー? いかがわしい気分になってこない? せんせー」 「まあ、その辺りのお話は、またあとでねー」 「かり、かり。こり、こり。こしょ……こしょ」 「少しだけ、奥のほうもやってみようかなー。痛かったら言ってね、せんせー」 「ん。せんせー、気持ちよさそう。力加減はばっちりだねー」 「このまま続けていくねー」 「おー。いい感じの耳垢、あったかも。これは……取りたいな。なんとしても」 「ん……ん、ん、ん……痛くならないようなギリギリの力加減で、必要以上に奥まで入れすぎないように……」 「……ふぅ。とれた」 「せんせー、耳、痛まなかった? 大丈夫? よかった。続けるねー」 「こーり、こーり。こしょ、こしょ……かり、かり、かり、かり……」 「ん……こっちは、大体綺麗になった……かな。……うん。大丈夫そー」 「じゃ、仕上げはやっぱり、これだよねー。耳かきのお尻についてるやつ。ボンテン、っていうんだっけ、確か」 「ふわふわってしていくよー」 「これ、どんな感じ?」 「あー。気持ちよさそうだね、せんせー。やっぱり、ふわふわしてるから、刺激も柔らかくなるのかなー」 「固い耳かき棒とのギャップに、またやられちゃうって感じ?」 「自分だとあんまり使わないんだけど、楽しそうだねー、これ」 「これくらいでいーかな? おっけー」 「ふーーーーーーーーっ」 「……あ。せんせーの体、びくってした。やっぱり、耳は敏感なんだねー。可愛いな」 「じゃあ、反対側もやろっか。ごろんってしてね、せんせー」 「うん。おっけー。ありがとー」 「かなりコツは掴めてきたから、最初から気持ちよくしてあげよー」 「こしょ、こしょ……こーしょ、こーしょ」 「どう? いい感じでしょー? 優等生のリナは、一度覚えたことは忘れないよー。せんせーが育ててくれた優等生っぷりを、発揮するときだよー」 「んー? どうかした?」 「“せんせーが育ててくれた”って……その通りの意味だけど」 「覚えてるー? リナ、入学してきたとき、あんまり成績よくなかったでしょー」 「正直、勉強ついていけなくて……リナが赤点はさすがにまずいなーってなって、焦ってたときに……」 「せんせーが、遅くまで残って、勉強教えてくれたでしょー?」 「自分だって忙しいのに。リナのこと、優先してくれて」 「そのときは、リナが理事長の娘だってこと、知らなかったんでしょ? なのにね」 「だから、リナ、せんせーのために、もっと勉強がんばろーって思えたんだー。今、リナが優等生なのは、ほんとにせんせーのおかげなんだよー」 「お昼休みはしっかり休んで、午後の授業に集中しよーって考えるようになったの」 「リナ……ずーっと、せんせーに感謝してるし……せんせーのことが好き。大好き」 「……あ。耳垢みつけたー。こり、こり、こり、こり……」 「ふぅ。とれた。続けるねー」 「……え? あぁ、うん。そーだよ。リナ、せんせーのことが好き」 「もちろん、せんせーとしてもだけど……男の人としても、大好き」 「結婚したいなーって思ってるよー。せんせー、お仕事に一途だから、リナが悲しむこと、絶対しないだろーしねー」 「好きだよ。せんせー。大好き」 「よければ、リナと付き合って欲しいなー」 「……ん。耳の浅いところはこれくらいかな? 奥、いくねー」 「かり……かり。こり、こり、こり……こり」 「……でもね。リナも、物の道理は分かってるから。せんせーが生徒から付き合ってー、って言われて、はいOK、っていう風にならないのは、理解してるよー」 「だから、返事はまだしなくてもいーよ。リナの卒業式のときに、改めて聞かせてね」 「リナも一途だからさー。卒業式までせんせーのこと、好きでい続けるから。そのとき、せんせーもリナのこと好きだったら、付き合ってね」 「なんなら、そのまま籍入れちゃってもいーし。……っていうのは、少し重いかなー?」 「今は、リナのことそんなに好きじゃなかったら……卒業するまでに好きになってもらえるように、頑張るからー」 「好きだよー、せんせー。すき。すき。だいすきー」 「人間は、誰かに好意を向けられると、その影響で好きになるってことが多いらしいねー」 「だから、今のうちに、せんせーにたくさん好き好きって言っておかないとねー」 「好きだよー。好き、好き、好きー。せんせー、大好きー」 「耳は……だいぶ綺麗になったかな?」 「うん。よさそう。じゃあ、ボンテン、やっていくよー」 「ふわ、ふわ、ふわ。ふわふわー。ふわふわ、ふわふわ……」 「気持ちよさそーだねー。せんせー。リナも嬉しいよー」 「もっともっと、リナのボンテンで蕩けていってねー」 「せんせー、好きー。大好きー」 「うん。これで大丈夫」 「それじゃ、最後に……」 「ふーーーーーーーーーーっ」 「はい、お疲れ様でした、せんせー」 「リナの耳かき、気持ちよかった?」 「あれ? そーいえば、今日は寝落ちしてないね。あんまりよくなかった?」 「あ。そっか。好き好き言われて照れちゃったんだね。せんせー」 「本当に可愛いなぁ。そういうところも好きだよー」 「んー。でも……この耳かきは、そんなに癒しにならなかったのかな?」 「あー。お昼休み、そろそろ終わっちゃうなー。残念」 「じゃーさ。せんせー。もし時間あったら、放課後、また保健室に来てくれない?」 「うん。それなら、時間もたっぷりあるし。ふふ」 「とっておきの癒し、してあげるね」