『リナが耳かきしてあげる』
「こんにちは。せんせー」
「また仮眠しにきたの? そうなんだ。お疲れだねー」
「いつもお仕事お疲れ様。寝られるときに寝ておいたほうがいいよねー」
「……よく考えてみたら……わざわざ保健室に仮眠しに来てる……ってことは、もう、リナがいるの、分かってるってことだよね」
「つまり……それは、そーいうことだって思っていーのかなー?」
「ちなみに……保健のせんせーは、いつも通りいないよー。……なんだか、リナたちに気を遣ってくれてる気がしてきたよー。なんか悪いな。ちょっとだけ」
「それで、せんせー。どーする?」
「ちょうど、リナのお膝……空いてるけど」
「……おいで? せんせー」
「ん……。はーい、リナの膝枕にいらっしゃい。この前の膝枕で気に入ってくれたのかな? そうだと嬉しいなー」
「むちむちの太もも枕だよー。太ってるわけじゃないよー。せんせーのために、あえてムチムチにしてるんだよー」
「……でね。今日も、せんせーが来るかなって思って……リナ、ちょっとだけ準備しててさ」
「ぐっすりお休みしながら癒されるものって……マッサージの他に、何があるかなって考えて」
「こーいうのはどうかな? 耳かき。おうちから持ってきたんだー」
「やってみてもいーい、せんせー? 痛くないようにするからさ」
「うん、ありがとー。じゃあやるねー。お耳、失礼しまーす……」
「……んー。こんな感じかな?」
「よさそう? そっか。安心したよー」
「人の耳かきなんてやるの、初めてだからさー」
「……んー? そうじゃない? JKなんだし。普通は経験ないでしょー」
「あぁ。そうじゃなくて、大丈夫なのかって話ねー」
「大丈夫だよー。やり方はばっちり予習してきたから」
「くり、くり。こり、こり……こしょ、こしょ」
「うん。やっぱり、力加減は、弱すぎるかなってくらいがちょーどよさそーだね。耳って敏感だし、傷つけちゃったら大変だから」
「ママみたいに優しくやってあげるよー」
「せんせー、ちゃんと、耳掃除とかしてる?」
「ん? うん。中の汚れは、それなりに」
「まあ、でも、耳掃除とかって、やりすぎるのもよくないって言うしねー」
「気持ちいいからって耳掃除たくさんしてたら、逆に奥のほうに、耳垢(みみあか)押し込んじゃって、耳の聞こえが悪くなったりもするらしーよ」
「本当はお医者さん行って、とってもらうのが一番なんだよねー」
「だから、こーいう耳かきって、要はほとんどマッサージみたいなもんだよねー。気持ちよくなるための」
「……そう考えてみると、なんか、えっちなことみたいだねー? いかがわしい気分になってこない? せんせー」
「まあ、その辺りのお話は、またあとでねー」
「かり、かり。こり、こり。こしょ……こしょ」
「少しだけ、奥のほうもやってみようかなー。痛かったら言ってね、せんせー」
「ん。せんせー、気持ちよさそう。力加減はばっちりだねー」
「このまま続けていくねー」
「おー。いい感じの耳垢、あったかも。これは……取りたいな。なんとしても」
「ん……ん、ん、ん……痛くならないようなギリギリの力加減で、必要以上に奥まで入れすぎないように……」
「……ふぅ。とれた」
「せんせー、耳、痛まなかった? 大丈夫? よかった。続けるねー」
「こーり、こーり。こしょ、こしょ……かり、かり、かり、かり……」
「ん……こっちは、大体綺麗になった……かな。……うん。大丈夫そー」
「じゃ、仕上げはやっぱり、これだよねー。耳かきのお尻についてるやつ。ボンテン、っていうんだっけ、確か」
「ふわふわってしていくよー」
「これ、どんな感じ?」
「あー。気持ちよさそうだね、せんせー。やっぱり、ふわふわしてるから、刺激も柔らかくなるのかなー」
「固い耳かき棒とのギャップに、またやられちゃうって感じ?」
「自分だとあんまり使わないんだけど、楽しそうだねー、これ」
「これくらいでいーかな? おっけー」
「ふーーーーーーーーっ」
「……あ。せんせーの体、びくってした。やっぱり、耳は敏感なんだねー。可愛いな」
「じゃあ、反対側もやろっか。ごろんってしてね、せんせー」
「うん。おっけー。ありがとー」
「かなりコツは掴めてきたから、最初から気持ちよくしてあげよー」
「こしょ、こしょ……こーしょ、こーしょ」
「どう? いい感じでしょー? 優等生のリナは、一度覚えたことは忘れないよー。せんせーが育ててくれた優等生っぷりを、発揮するときだよー」
「んー? どうかした?」
「“せんせーが育ててくれた”って……その通りの意味だけど」
「覚えてるー? リナ、入学してきたとき、あんまり成績よくなかったでしょー」
「正直、勉強ついていけなくて……リナが赤点はさすがにまずいなーってなって、焦ってたときに……」
「せんせーが、遅くまで残って、勉強教えてくれたでしょー?」
「自分だって忙しいのに。リナのこと、優先してくれて」
「そのときは、リナが理事長の娘だってこと、知らなかったんでしょ? なのにね」
「だから、リナ、せんせーのために、もっと勉強がんばろーって思えたんだー。今、リナが優等生なのは、ほんとにせんせーのおかげなんだよー」
「お昼休みはしっかり休んで、午後の授業に集中しよーって考えるようになったの」
「リナ……ずーっと、せんせーに感謝してるし……せんせーのことが好き。大好き」
「……あ。耳垢みつけたー。こり、こり、こり、こり……」
「ふぅ。とれた。続けるねー」
「……え? あぁ、うん。そーだよ。リナ、せんせーのことが好き」
「もちろん、せんせーとしてもだけど……男の人としても、大好き」
「結婚したいなーって思ってるよー。せんせー、お仕事に一途だから、リナが悲しむこと、絶対しないだろーしねー」
「好きだよ。せんせー。大好き」
「よければ、リナと付き合って欲しいなー」
「……ん。耳の浅いところはこれくらいかな? 奥、いくねー」
「かり……かり。こり、こり、こり……こり」
「……でもね。リナも、物の道理は分かってるから。せんせーが生徒から付き合ってー、って言われて、はいOK、っていう風にならないのは、理解してるよー」
「だから、返事はまだしなくてもいーよ。リナの卒業式のときに、改めて聞かせてね」
「リナも一途だからさー。卒業式までせんせーのこと、好きでい続けるから。そのとき、せんせーもリナのこと好きだったら、付き合ってね」
「なんなら、そのまま籍入れちゃってもいーし。……っていうのは、少し重いかなー?」
「今は、リナのことそんなに好きじゃなかったら……卒業するまでに好きになってもらえるように、頑張るからー」
「好きだよー、せんせー。すき。すき。だいすきー」
「人間は、誰かに好意を向けられると、その影響で好きになるってことが多いらしいねー」
「だから、今のうちに、せんせーにたくさん好き好きって言っておかないとねー」
「好きだよー。好き、好き、好きー。せんせー、大好きー」
「耳は……だいぶ綺麗になったかな?」
「うん。よさそう。じゃあ、ボンテン、やっていくよー」
「ふわ、ふわ、ふわ。ふわふわー。ふわふわ、ふわふわ……」
「気持ちよさそーだねー。せんせー。リナも嬉しいよー」
「もっともっと、リナのボンテンで蕩けていってねー」
「せんせー、好きー。大好きー」
「うん。これで大丈夫」
「それじゃ、最後に……」
「ふーーーーーーーーーーっ」
「はい、お疲れ様でした、せんせー」
「リナの耳かき、気持ちよかった?」
「あれ? そーいえば、今日は寝落ちしてないね。あんまりよくなかった?」
「あ。そっか。好き好き言われて照れちゃったんだね。せんせー」
「本当に可愛いなぁ。そういうところも好きだよー」
「んー。でも……この耳かきは、そんなに癒しにならなかったのかな?」
「あー。お昼休み、そろそろ終わっちゃうなー。残念」
「じゃーさ。せんせー。もし時間あったら、放課後、また保健室に来てくれない?」
「うん。それなら、時間もたっぷりあるし。ふふ」
「とっておきの癒し、してあげるね」