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楽しいバスツアー

 え~親愛なる人間の皆々様~。本日は、ラウーネトラベルカンパニー主催、ドキドキ密林ワクワクツアーに参加、まことにありがとうございます。  バスガイドをつとめさせていただきますのは、ラウーネ族のリーネでございます。皆さんどうかおひとつよろしくお願いいたします。  え~見ての通り、私はラウーネ族でございますので。ほとんど体が植物で、手も足もありません。大体茎と葉っぱとツタでございます。  人間様と共通する部分と言えば、この頭部しかありません。  はい。このマイクを握っているのも、なかなか不便なツタでして、とてもとても人間様のように五本の指を器用には使えません。  しかししかし~、わたくしどもラウーネ族は、完全なる人外と人間様のかけはしになろうと思い、こうして様々な企画をもよおしているわけなのです。  なかなかつたない部分もありますが、どうかご理解いただけますようよろしくお願いいたします。  え~それではこの辺で、外の景色をごらんください。右手……右のツタの先を見てください。  はい。一面緑色。木、森、密林、ジャングルですね。みどころと言えば――たくさんの動植物が生息しています。  ほーら耳をすましてみてください……。何か聞こえませんか? ん……ほら。あら……あらっ。何かをバクバク食べているような……はい。  え~とこのように、ジャングルは大変危険ですので、人間の皆様はどうか勝手に窓から手や足やツタを出してはいけません。  命の保証はしませんので。本当にしませんので……ふふっ♪  はいそれではそろそろ到着いたします。楽しい楽しい密林レジャーランド。  ジェットコースターも観覧車もホラーハウスもなんでもあります。もちろん素敵な出会いもございます。今日一日めいいっぱい楽しんでいってくださいね。ではでは~♪  あらお兄さんこんにちは♪ ふふっ♪ こんなすみっこで一人さびしくどうしたんですかぁ?   せっかくの楽しい旅行なのに、こんな湿っぽい場所でうじうじしてるなんて、光合成的にもよろしくないですよぉ……。  ほら、みんな家族や友人や彼女と楽しく過ごしてますよ? ほらぁ……行きましょ。ね、みんなと仲良く……ん? あら、おひとりなんですかぁ?   あら、あらあらあら。それは失礼しました。あやまりますぅ……本当にごめんなさい。  あ、でも一人でも楽しめる施設とかもありますよぉ……。えーとあの、あっそこのコーヒーカップくるくるとか。  ああっ、いえいえいえ、そうではなくて、あっちのシーソーとか、卓球とかテニスとか。あああっ、いえいえいえいえいえ……。  あっほら。お兄さんが大好きそうなゲームセンターもありますよ。最新型のたのしーい対面格闘ゲームをびっしりととりそろえて……あらっ、あらん、あらあらあらあら~~。  すすすすいません~。本当に悪気はないんです~。どうかこの葉っぱとツタにめんじて許してください……。どうか許して、ねっ♪ んっ……んんっ♪  ん……ほらいい子いい子♪ 強い子強い子。お兄さんはとっても頭のいい人間の子なんだから、もうめそめそしてちゃ駄目ですよ~ふふっ♪  ん~それにしても、お一人のお客様が十二分に楽しめる施設が少ないというのは、ちょっとばかし問題ですねぇ……ふぅ。  ん……あそうだ。このさいだから……ふふ。くすっ、この人間さん……ちょっと頭が弱そうでとろそうだし……ふふふふ……。  あっいえいえこちらのことです。ふふっ、ふふふふっ♪ んっあのお兄さん……。私から提案があるんですけどぉ……いいですか?  お兄さんに会わせたい人……いや、人っていうかぁ、とっても素敵な存在。  ね、お一人様でも楽しめるイベント……、まだ企画段階なんですけどぉ、今日は特別にお兄さんだけに体験させてあげます♪  ねっ、行きましょ。無礼をはたらいた、私からのせめてもの罪滅ぼしですぅ……。ねっ……いこ……チュッ♪ んっ……んん……。    ふふ。決まりね。じゃあこっちへいらっしゃい……うふっ♪ うふふふふ……。  あっ、足元に気を付けてくださいね……。ジャングルには、いたるところに底なし沼がありますからね。それにお腹をすかせた獰猛(どうもう)な獣がいっぱい……。  お兄さんを頭からぱくぅ……ってしてバリバリもぐもぐしちゃう、危険な存在だらけなんですぅ。  でも安心してください。ラウーネ族の私がいますから、お兄さんに絶対に危害はくわえさせません……。  ほら、このツタをぎゅって握っていてくださいね。もし、このツタをはなしてどこかへ行ってしまったら、お兄さんは一瞬で命を落としてしまいますからね。  私を命綱だと思って、ぎゅっと恋人のように握りしめてくださいね♪ そう……そうそう。ぎゅうっ♪ ぎゅうううううっ♪ ああんっ♪ その握り方、なんかやらしい……ん……。  んんっ♪ あん……やだぁ。お兄さんの手、よく見ると男らしくて頼もしい……。五本も十本も指があるから……。きっといっぱい気持ちよくしてくれて……。  んっ……あああんっ♪ やん、私ぃ、なんか人間のお兄さんでいけない想像しちゃって……あああんっ♪   私ってラウーネ族なのに、それなのに……あ~~~んっ♪ やぁんあんあんあ~~んっ♪  ふふっ♪ なぁ~んちゃって。人間のお兄さんは茎と葉っぱだけの私には、特別な感情なんかいだきませんよね。すいません調子のって変な声出してしまって……ふふっ♪  あ、そろそろ見えてきましたよ。あれが、今回の目的地です。ん……何が見えますか? リーネに教えてください。  お兄さんの目に映るのは、なんですか? ……はい。あれは巨大なお花ですね。  ん、ちょっとグロテスクで、とっつきにくそうですけど……。彼女はとっても高貴で気品が高くてお嬢様なんですよ。  人呼んで、プリンセスラフィアナ。私達はラフィアナ様と呼ばせていただいています。ラフィアナ様……ラフィアナ様。  ふふっ。おかしいですか? ただのお花に様をつけてしまうなんて。まぁあなた達人間からしてみれば、ちょっと難しい感覚でしょうが。  私達ほぼ植物の存在からすれば、彼女の魅力と支配力は嫌でも伝わってくるのですよ。  ほら、足元を見てください。あたり一面、びっしりと根っこがはって……。これ、すべてラフィアナ様のものです。  こうやって絨毯(じゅうたん)のように根をしいて、自分のテリトリーだと主張しているのです。  もし、許可なく立ち入ろうとしたら……。ふふふっ。ふふ、まぁわかりますよね。その重たい脳ミソを持つ、人間のあなたならね……ふふっ♪ きっと、ふふふふふ……♪  で、本題に入るのですけど。今日お兄さんをここに連れてきた理由。実はラフィアナ様が、頭のいいおもちゃを欲しいと言っているのです。    いえ、おもちゃというか、下僕というかペットというか……。あ、パートナー、そう一緒に遊ぶパートナーが欲しいと言っているのです。  だからどうかお兄さん、私の顔にめんじて、ラフィアナ様に付き合ってくれませんか? ねっ、お願いします……。  ラフィアナ様は大変な権力者なんです。それはとてつもないレベルの。  人間の世界でいうと、部長、社長、会長。いやいやそれ以上、総理大臣に大統領……いやいやもっと上かもしれません。  ね、お願いします。ラウーネ族ため、もちろん人間様のためにもぉ、ここはラフィアナ様の機嫌をとっておく必要があるんですぅ。  あ、もちろん。お兄さんのさびしくてたまらない感情も、きっとラフィアナ様は満たしてくれると思いますよ。  さぁ勇気出していきましょう。大丈夫です。意思の疎通は、このリーネが責任もっていたしますから。  ねぇほら行きましょ♪ んっんっ♪ ほらツタでぎゅってしてぇ。こっちこっちこっち♪ ふふふっ♪ ふふふふ♪

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