Track 1

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深夜の曲者

【崔破】 しっ……起きなくていい…… 俺は、おまえを殺しにきたのではない…… そう……落ち着いて…… よし……それでいい…… 俺の顔を、覚えているか……? 以前、おまえの護衛の任についたことがある…… 俺の名は、氏賀崔破(しがさいは)…… 氏賀衆(しがしゅう)を束ねる、頭領だ…… あの時……おまえの護送中に刺客に襲われ、守った…… その際に、おまえの姿を見てしまった…… 美しいと思った……だが、おまえの美しさが、俺には理解できん…… おまえの美しさは、今や天下に轟いていることは知っている…… しかし、なにかが違うのだ……噂とは、違う印象…… 『閉口の美姫』…… 一切口を開かず、世間ではその声を聞いた者は存在しない…… だが、最初からそうだったわけではあるまい…? 俺はおまえに、興味を抱いてしまったのだ…… なにかが、ある…… それを知るために、俺はここにきた…… フッ……不思議か? 忍者集団を束ねる長ともあろう者が、危険を冒して忍びこんできたことが…… 俺はな……もう随分と前に、なにかに興味を持つことがなくなったのだ…… 人を殺めても…… 皆がうまいと舌鼓を打つものを食っても、なにもない……心が、動くことがない…… むろん、女子(おなご)を見ても何も感じたことがないが…… おまえは、特別だ……唯一、心が動いた…… 今夜一晩かけて、おまえを知りたい…… 心が動いたそのわけを、知りたいのだ…… ……動揺、しているか……? 無理もない……急が過ぎる出来事だろうからな…… だが……俺にも、そしておまえにも…… 時間もなければ、堂々と会える環境でもない…… これしか、なかったのだ…… すまんが、付き合ってもらうぞ……

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