トラック02 『猫又の誇りは無い、ただ懐くのみです。』
保健室の先生ー、急患ですー。
重度の飢餓状態でお昼休みを迎えた白猫 愛里(はくびょう あいり)のご到着ですよー。
はい、今日も先生の手作り弁当に餌付けされに来ましたー。
我ながらチョロすぎますね。いやはや、美味しいものには負けてしまいます。
おや……? 今日も保健室には先生一人だけですか。
えへへ、今日も保健室は貸し切りですねー。
ではさっそくお弁当をいただきましょうー……ってなんでお弁当を引っ込めるんです?
いやいや、今日だって先生の言いつけを守って、ちゃーんと授業には出ましたよ?
サボり魔である私が、なんと授業に出席したのです!
ふっふっふ。ただし授業中に意識があったとは限らない。
ぐぅーぐぅー……ってお弁当をしまっちゃダメですよ!
サボり魔の私が嫌々ながらも授業に出たんですよ?
これは大いなる進歩と言っても過言じゃないです!
というわけで、私に手作り弁当を明け渡してくーだーさーいー! ……よしっ。
どれどれ、今日のお弁当はー……。
鮭(さけ)の塩焼きにミートボール、卵焼きにポテトサラダですかー。
どれも美味しそうです……。では……もぐもぐ……。
んん~! 今日も美味しいです!
特にこの冷めていても美味しい鮭! ふぃー、最高です……。
私としたことが、女子力の欠片もなくペロリとたいらげてしまいました……。
あっ、そもそもこういうお弁当を自分で作れない時点で
女子力がないとか言うのは禁止ですからね先生っ。
ではお弁当代を先生にお支払いー……
しようとしても、先生ってば毎回受け取りを拒否しますよね?
一人分作るのも二人分作るのも手間は変わらないー
って言われてしまうと、確かにそうかもしれませんけど……。
でも材料費とかは当然かかっているわけですよねー……。
うえぇっ!? 真面目に授業を受けてくれるのが最高のお支払い~!?
うぅ……、心が痛い……っ!
そ、そうやって良心に付け込んで、
私をサボり魔から脱却させようとしてくるなんて……!
んにゃぅぅ~……先生は策士ですねー……!
いや、別にクラスに居づらくてサボってるーとかじゃないんですよ?
私はクラスで唯一の物の怪ですが、これといって差別とかもないですし。
最近終わったばかりの文化祭を思い出してみて下さいよ。
私とは別クラスなんですけど、人と物の怪(もののけ)のカップルが仲良く活躍してたじゃないですか。
えっと、妖狐の空前 天狐(そらまえ てんこ)さん……でしたっけ。
劇の出し物で演出として狐火を出したりとか。
そんなわけで、物の怪である私も、以前より
クラスで声を掛けられるようにはなって来たんですけどー……。
ほら……、授業をサボるのって何とも言えない快感があるじゃないですか~?
……ってふぎゃー!
い、い、今っ、私の尻尾を力強く握りましたね! た、体罰ですよ!
……うぐっ! サボる方が悪いのは分かってますけどー……。
でも私だって、「授業をサボる」から「授業中に寝る」に進化してるわけでして!
これは先生のお弁当による餌付け効果の賜物です!
そういうわけで、是非ともお礼をしたいわけなんですけどもー……。
ふっふっふ、前に猫又だからといって簡単に餌付けされないと言いましたがー……。
それは嘘です!
私に一般的な猫又の誇りなど無いのです。恩を感じた人間には、ただ懐くのみです。
ふっふっふーっ。これが私流(わたしりゅう)の猫又の誇りなのです……!
<----------チャイムの鳴るSEを挟む---------->
……あっ、チャイムの音ですね。
えぇー……、もうお昼休みが終わりなんて殺生なー……。
……せーんせっ。誰も居ないこの保健室……、
次の授業が終わるまで私の身体を自由にしていいから、サボらせ……
ふぎゃーっ! ま、また尻尾をギューッと握りましたね!?
……あれ? せんせー、いつもと違って顔が真っ赤ですよ?
もしかして私の身体を弄(もてあそ)ぶ想像をしちゃったりぃー?
わ、わっ、尻尾を握ろうとするのは反則です! こ、降参です!
降参しますから、尻尾を握ろうとするその手を下ろしてくださいーっ!
もう、わかりましたよ。お弁当も頂きましたし、授業には出ますよー……。
もちろん寝ないようにしますから、尻尾だけはご勘弁をー!
それじゃあ先生、また明日ーっ。お礼の話はまた今度しますねーっ。
……えへへっ、ばいばーい。