トラック05 『動揺する妹猫と、暴走直後の姉猫。』
【愛里】
我が妹の恋ちゃんよ。折り入って相談があるんだけどもー……。
『恋』
学校をサボるって相談なら、お母さんに取り次ぐけど?
【愛里】
違うからやめてー! むしろ学校に通い詰めようと思ってるくらいだよ、ふっふっふ。
『恋』
え……サボり魔のお姉ちゃんが……? もしかして保健室の先生と何か進展があったの?
【愛里】
……っ。進展があったというかー……、色々してしまったというかー……。
『恋』
お姉ちゃん、顔が真っ赤だよ? 相談って先生のことだったんだね。
【愛里】
うん……。先生とある意味、進展があったんだけど……その……。
自分の口で説明するのは恥ずかしいから、落ち着いて私のスマホを見て欲しい。
『恋』
どういうこと……? へぇ、スマホで動画を撮ったんだね。
……ホントだぁ、保健室の先生が映ってる。再生して良いんだよね?
【愛里】
音は聞こえないようにミュートのまま見てね。重ねて言うけど、落ち着いて視聴してね。
『恋』
お姉ちゃんと先生の会話を聞かないと、何がどう進展したのか分からなくない……?
まあいいや、再生ーっと。
【愛里】
……。
『恋』
お姉ちゃん、先生に金縛りの術を使ってるよね、コレ?
ダメだよもう……。物の怪が人間に悪さをしたら……ってうわ、うわわっ!
【愛里】
しーっ! 静かに! 家にはお母さんがいるんだから、黙って見て恋ちゃん!
『恋』
そ、そんなこと言われても……わぁ、
金縛りの術で動けない先生に、お姉ちゃんキス……してる……。
【愛里】
ふっふっふ、恋ちゃんも顔が赤くなったね。かわいいやつめー。
『恋』
こんなえっちな動画を見せられたら、誰だって赤くなるよ!
【愛里】
待って恋ちゃん、キスだけじゃなくて……ほら、見て。
『恋』
わ、わーっ! お姉ちゃんが先生のズボンに手をかけたー! もう見ないっ、見ないからー!
【愛里】
まだお子さまな恋ちゃんには刺激が強すぎたようだね。
『恋』
いやいやいや、刺激が強いとかそういう問題じゃないよ!
金縛りの術まで使って、先生を襲ってたよねお姉ちゃん!?
なんでこんな事態になったの!?
【愛里】
この前、恋ちゃんが撮った先生の写真に女子向けスイーツが映ってたでしょ?
『恋』
映ってたけど、それがお姉ちゃんの暴走劇とどう関係があるの?
【愛里】
えっとね、誤解だったんだけど
先生に恋人とか好きな人がいるんじゃないかと思って……。
それで、その……
存在しない女の人に嫉妬したあげく暴走して……脅しの為に動画まで撮ってしまいました。
『恋』
うわぁー……。お姉ちゃんサボり魔なのに、なんでそういう時だけ無駄に行動力あるの……?
【愛里】
やる時はやる子ですから。
『恋』
やっちゃダメなの! 人間を無理やり襲っちゃうことはー!
お姉ちゃんっ、れっきとした犯罪なんだからねっ!
【愛里】
犯罪は言い過ぎだよ、恋ちゃん。
あのスイーツだってサボり魔から脱しつつある私へのプレゼントだったの。
それに先生も嫌がってる感じでは無かった、ような……気が……する……。多分……。
『恋』
確かに動画を見る限りでは、嫌がってるんじゃなくて予想外って感じに見えるけど……。
【愛里】
良かった、恋ちゃんがいうなら間違いないね。
でも安心して。きちんと証拠隠滅は図ったので。
『恋』
待って待って、お姉ちゃん? 私、嫌な予感してきた。
【愛里】
物の怪が使える術の中でも禁術指定されている
「記憶化かし(きおくばかし)の術」を使ったので、先生は何も覚えていません!
『恋』
やっぱり先生にとんでもない術使ってたー!
金縛りの術を人間に使うだけでもダメなのに、そんな禁術まで使っちゃうなんて!
【愛里】
ちなみに先生のパソコンの生体認証は、「変化(へんげ)の術」で解除しました!
現代テクノロジーの敗北だねー。通常のパスワード入力形式ならアウトだった……。
『恋』
変化の術をそんなことに使う方がアウトだよ!
【愛里】
と・に・か・く!
先生がまんざらでもない反応だったので、意外と脈ありかもしれないと思いませんか?
『恋』
うーん……。それはちょっと分からないけど。
【愛里】
ふふふ、恋ちゃん。当たって砕けろという言葉を思い出すのです。
『恋』
まあ、玉砕したら骨は拾ってあげるね。
【愛里】
ちょっと! 縁起でもない事言わないでー!
『恋』
まあ先生は、サボり魔のお姉ちゃんを見放さずに更生させようと頑張る良い人だからね。
お姉ちゃんが好きになるのも分かる、とだけ言っておくよ。
【愛里】
それだけ? 何かアドバイスとかはないの?
『恋』
アドバイス? ないよ?
発情期の猫又でもシちゃいけないようなことしちゃったお姉ちゃんにつける薬は無いと思う。
【愛里】
あれ? 馬鹿に付ける薬はない的なノリで、いま私バカにされてる?
『恋』
まあまあ。悪い意味でニュースに取り上げられない限りは応援してるよ。
実際、先生は良い人だと私も思うからねー。
【愛里】
えへへ、でしょー?
だから嫉妬心で、えっちな脅し動画を撮ってしまったのも仕方がないかと!
それに男の人って女の子からえっちな事をされたら、嬉しいものなのです。
……ってえっちなマンガには書いてありました、キリッ。
『恋』
え、エロ猫……。エロ猫又だ……。
【愛里】
ふーん? 恋ちゃんもこっそりえっちなマンガ読んでるの知ってますし。
『恋』
んにゃああ!?
お、応援してるよお姉ちゃんのこと!
【愛里】
ふっふっふ、よろしいー。
これからも授業はサボらず参加して、先生の好感度を上げていこっと。
授業でも積極的に挙手をして教師にアピール!
私の真面目なところを人づてに知ってもらうのです。
『恋』
お、それは良いんじゃないかな。
サボり魔だったお姉ちゃんが授業に出るだけじゃなくて、
勉強も頑張るのは素直に応援できるよー。
【愛里】
先生が私にしてほしい事といえば、
どんどんサボり魔から脱却することでしょうからー。
タイミングの良い事に中間テストが一週間後にありますから、
目指せ全教科平均点超え、です!
『恋』
……目標が平均点? ハードル、低くない?
【愛里】
いえ! 最近までサボりまくっていた私には、充分高いハードルです!
えへへ、先生にアピールする為ですから中間テストまで勉強はサボりませんよー。