Track 1

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1. お邪魔しております

トラック1 【家で蜜が待機していることを知らずに、聞き手が帰宅】 〈通常マイク〉 (♩玄関ドア開け→リビングまで歩く) おかえりなさいませ、旦那様。 本日もお疲れ様でした。 お夕食はもうお済みですか?  まだでしたら、私が得意とする魚料理を振舞って差し上げますが、既にお風呂も沸かしておきましたので、お好きなほうをお選び頂ければ… あら? どうされました?  先程から目をぱちくりさせて。 …あぁ、自己紹介がまだでしたね。失礼しました。 ご覧の通り、私は軽傷を負った浮浪人。  名を「蜜」と申します。どうぞよしなに。  あ、包帯は都度取り換えておりますので、不衛生ではないかと。ご安心くださいませ。  ってあぁぁ通報なさらないでくださいませ! このような状況になってしまったのには理由があるのです! そして私は貴方のおかげで命を救われた身…! きちんと経緯をお話ししますから…! …お耳を貸してくださるのですね。ほっ… 実は先ほど、街を放浪しておりましたところ、前方から迫りくる大型犬を避けましたら、そのまま車に衝突してしまい… なんとか自力で事故現場から抜け出したのですが、運悪く借金の取り立て屋に遭遇してしまいまして。 つい1週間ほど前に「返済しないと殺す」とうちに怒鳴り込んできた輩だったので、一目散で逃げていたのです。 そしたらなんとまぁびっくり、貴方のお家の窓が開いているではありませんか。 もうここしかないと思い、飛び込んだ次第です。  …え? 2階だって?  それほど無我夢中で逃げていたのですよ。 人間、命の危険を察知している時は、逃げ場がどのような場所であっても駆け込むものです。  …あ、まぁ不法侵入には変わりないのですが…事情が事情ゆえ、目を瞑ってくださいませ…。 何はともあれ、まずは貴方へお礼の言葉を述べさせてください。  この度は誠にありがとうございました。 もし貴方が今朝、律義に戸締りをしていたら…きっと私は今頃太平洋の海底に沈められていたと思います…あぁ恐ろしや…。 今こうして包帯を巻くだけの負傷で済んでいるのは紛れもなく貴方のおかげです。 偶然でも必然でも、そのようなことはどちらでも良いのです。 このご縁と貴方に、どうか恩返しをさせていただきたい。 どうか、どうか数日間だけで良いので、私をここに置いては頂けないでしょうか? …無理なお願いと重々承知の申し出ですが、それでも何か、貴方のお役に立てることを、貴方のおそばでしたいのです。 ご一考頂けたら嬉しいのですが…。  …本当、ですか? しばらくここに置いてくださるのですか…!? (ため息ひとつ) よかった…駆け込み先の主(あるじ)が、貴方で本当によかったです。 ありがとうございます。 さて、ただでさえお疲れであろう貴方に、これ以上のご迷惑はおかけしないことを固く誓います。 私の事は空気だと思ってくださいませ。 今日から数日間、何卒よろしくお願い致します。 さ、まずは…かなり驚かせてしまったと思いますので、貴方へのもてなしを最優先にさせて頂きたいです。 本日はもうご就寝なさいますか?  …でしたら…。 よろしければ貴方のお耳をお掃除させていただけないでしょうか?  初めは緊張されると思いますが次第に落ち着いて、最後は熟睡できると思いますよ。 如何でしょう。 (聞き手、承諾する) ふふ、やったぁ。  …あっ すみません、歳不相応な喜び方をしてしまいまして…。 ではさっそく、よりくつろいで頂けるようにお部屋の明かりは消して…体の力を抜いて、ゆっくりと横になってくださいね。

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