トラック1
……おーい。
おーい……もしもし……
……ここ、だよ。
ここ……わたしは、ここにいるの――……
そう、ここだよ。
……こっち、こっち。
キミのすぐ傍に……いるよ。
……あ、待って……目は、開けちゃダメ。無理に開けようとしないで。わたしを、見失いたくないなら……ね?
うん……そう、眠りに落ちる前のイメージ、だよ。
そうそう……そのまま……ゆるーく、目を閉じていて。
うん……そう、最初は、それでいいの。
そろそろ、かな? ……そろそろ、いいよね?
声に反応してくれてるなら……効果が出てきているはず……
……ふふ、おはよ。
おはよ……は、少し違ったかな? 別にキミは、眠っていたわけじゃないもね。
そもそも、朝とか夜とか……いまのキミには時間の概念だってないんだから。
だって、そうでしょ……
ねぇ、いま何が見えている? ……真っ暗? それとも、真っ白?
ああ、そっか――
見えるとか、見えないとか……そもそも、そういう次元の話じゃないのかもしれないね。
ねぇ、驚いてる? それとも、戸惑わせちゃった?
……いま自分の見に何が起こっているのか、知りたい?
魔法に、かかっているの。
ただ、それだけ……
ふふ、気になる? 気になってる?
いまどこにいるのか、何をされているのか、どうなっているのか……これから、どうなってしまうのか――
でもね、わからないならそれが正解なの。
ここまで来てくれたのは、キミが初めてだから……
だから、ね? もう少し、付き合ってよ。キミにとって、悪いことじゃない、ううん、これはきっと、とてもイイコトだよ。
もちろん、わたしにとっても、ね……ふふっ♪
いま……どんな感じかな?
手の感覚は? ちゃんと握ることはできるのかな?
脚の感覚はどうかな? 指先まで動く?
……じゃあ、その感じ、覚えていてね。
いつまで、忘れずに覚えていられるかな?
ううん……違う……忘れるっていうのは、正しくないかな。
忘れるんじゃなくて……そう、変化、だね。
キミはいまから、変わっていく……キミじゃないキミに変わっていくの。
大丈夫。怖がらなくていいよ……苦しいこもないし、辛いこともないよ。
これからキミに起こることは、きっと素敵なことだから。
心地いいことだから……気持ちのいいことだから……
そのことは、しっかり覚えていて……考えていて……ちゃんと、意識していてね。
そう、イメージすることが大切なの。
深呼吸、してみようか。
じゃあ、いくよ?
ゆっくり、息を吸って――すぅーって、ね?
そうそう、いいよ……それから、そぉっと、吐き出して――ふぅ……って……
うん、いいね。上手上手。
じゃあ、もう一度。
いい?
息を吸い込んで……たっぷり、深く、深く。
周りにあるものを全部、呼吸と一緒に体の中に取り込んでいくみたいな、そんなイメージだよ。
そうしたら、ゆっくり、それを体中に巡らせるの……キミを染み込ませていくみたいに、ね?
うん……それじゃ、吐き出してしてみようか。今度は、呼吸だけじゃなくて、キミも一緒に、ね?
さあ、ゆっくり……吐き出して――ふぅ……そうそう、最初はそっと。
ふぅ……――呼吸と一緒に、キミも流れていくの……世界に溶けて流れていくような、イメージ……そうそう、いいよ。上手上手。
体の輪郭、曖昧になってきているでしょう?
ねぇ、手脚の感覚は……どうかな? まだ、残ってる?
じんわり、じんわり、温かいかな? ぼんやり、してきてたのかな?
それとも――
そんなもの、始めからなかったんだって、思えるようになってきちゃった?
ほら、イメージしてみて?
どんどん、キミの輪郭がなくなっていくの……どんどん、どんどん……遠くに、遠くに……キミがキミから、離れて行く……周りに全部、溶けていっちゃう――
感覚も意識も虚ろになっているなら……それはね、正解だよ。
さあ――
いよいよ、ふんわり、浮き上がった感じがしてきたね。
浮き上がったのは、体じゃないよ。
浮かび上がったのは……キミの意識。
ふふふ、おめでとう。
さっきまでいた場所よりも、もっと高いところに、キミは登ってこれたんだよ。
キミは変われる……変わろうとしてる。
それは、とてもとても魅力的な変化、なんだよ。
ふふ、キミにも聞こえたみたいだね。
ううん……聞いただけじゃない。そういう景色が、見えたのかもしれないね。
これが、変化だよ。
普段なら聞き逃していること、見逃してしまうものが……鮮明に、聞こえてくる。見えてしまう。
そう、すれ違った人の心の声さえ、ね?
これはね、さっきまでのキミなら、捉えられなかった感覚。
そして、より鋭さは増していく……もっともっと、研ぎ澄まされていくよ。
今のキミは、キミがいた場所から、うんっと離れたところに来られたから、ね?
これから、何が起こるのかな? 何を感じられるようになるのかな?
知りたいなら……こっちまで、来て。
もっと高く登ってきて。
もっともっと深く、潜ってきて。
ここまで、来て……わたしを、見つけて。
一緒に、しよ?
キミと一緒に試してみたいことが、たくさんあるの。
だから、早く……来て来て、来て……来て……