■1-1.『書店バイトの先輩の場合
☆1-1
あ。はーい。
そっか。もうそんな時間ですね。
じゃあ、レジ精算、お願いしちゃっていいですか? 先輩。
ありがとうございます。
こっちのレジには私が立ってますねー。
…………。
そうですねー。今日、お客さん少なくて、だいぶ楽でしたね。
いつもこれくらいならいいんですけど……。ふふ。
……はい?
あれ? 言いませんでしたっけ。
私……彼氏、いますよ。
はい。先月から。ちょっと。……お付き合いを。……えへへ。
あ。そっか。先輩、シフトの関係で、一度も一緒になったことないんだ。
でも、交代のとき、バックヤードで顔を合わせたりはしてますよね?
今日も、私たちの前のシフトに入ってましたよ。
ええ。そうです。彼です。
はい。とっても優しくて……私のこと大事にしてくれる、いい人ですよ。
……もう少し、私に遠慮なく接してきてくれてもいいのになぁ、とは思いますけど。
え?
……ふふ。ありがとうございます。
お気持ちだけ、受け取っておきます。
はい。まあ……好きなので。彼のこと。
……ふふ。
……はい?
どういうこと……ですか?
……会計ミス? 彼が……ですか?
うそ……。レジの清算、合ってなかったんですか?
た、確かに、そっちのレジ使ってたのは、彼でしたけど……。
……そんなにズレてたんですか?
あ……ほんとだ……。
お金、一万円も足りてない……。
……え。
そんな……。今まで、何度も……?
それは……確かに。ただの、うっかりミスじゃ……ないです、よね……。
横領? ……に、なるのかな。
で、でも、彼はそんなことする人じゃ……!
ぁ……。
……はい。一緒に、お出かけしたり……してます。
そのとき……色々、プレゼントもらったりも。
はい……。
……私が言うことじゃないかもしれないですけど……ありがとう、ございます。
先輩が隠してくれてたんですね……。
……そう、ですね。はい。犯罪です。分かっています……。
店に知られたら……彼、捕まっちゃう……。
きゃっ!
先輩? 急に、どうしたんですか……?
だ、“黙って欲しかったら”、って……。
どういう意味、ですか……?
わ、私が……
先輩に……?
…………。