Track 1

■1-1.『アタシが“ぎゅー”ってしてあげるー♪』

1  はー。ただいまー。  ほら。靴脱いで、あがってあがって。  これからしばらくおにーさんの家にもなるかもしんないんだし。遠慮しないでよー♪  ん? そーお? うち、そんな広い?  たったの4LDKだし。  えーっと。リビングはこっち。お風呂と洗面所はあっち。  トイレはムダに二か所あるから、どっち使ってもいーよ。まー、でも、お互いに分けて使ったほうが平和かな?  で、おにーさんの部屋はここ。  んー? そりゃそーでしょ。しばらくウチでおにーさんを養うんだし。そりゃ、お部屋くらいあるよー。  おにーさんがどれくらいウチに住むことになるか分かんないけど……もともと余ってる部屋だから、自由に使っていーからねー。  こっちは、アタシが寝る部屋。別に好きに入ってきてもいーけど、できればノックしてねー。  じゃ、リビングいこっか。  うん。  ソファ、座ってもいーよー。どこでもどーぞ。  あ。てかソファの上、めっちゃ汚いね。ごめんねー。テキトーにどかしていーから。  何か飲み物飲むー? コーラとオレンジジュース、どっちがいーい? 一応水もあるけど。  おっけー。  んー?  あー。ね。いいっしょ。窓から見える夜景。ほぼほぼ最上階に近いからさ、いい眺めなんだー。  これはタワマンでしか味わえないよねー。  アタシの実家、広いし快適なんだけど……別に何十階建てってわけでもないからさー。どーしても、景色はタワマンに敵わないなーって思うし。  お待たせー。おにーさん。  はい、どーぞ。  うわ。テーブルもきたなー。  雑誌は……てきとーに積めばいっか。  お隣、失礼するねー。  よいしょっと。  にひひ。  ちょっと安心した? おにーさん。  部屋の奥から、怖いオジサンが出てくるとかなかったっしょ。  うん。アタシ、ほんとにこのマンションに一人暮らししてんの。分かってもらえた?  よーし。  じゃあ……はい♪ おにーさん♪  え? アタシ、何か変なことしてる?  え。ふつーに、おにーさんのこと、ぎゅーってしよっかなって思ったんだけど。  てか、両手を広げるなんて、それ以外になくない?  うん。どーぞ?  …………。  えー。しないの?  だってさ。おにーさん、めちゃくちゃ疲れてるでしょ?  それに……だいぶ傷ついてると思うし。  会社からひどいことされてるんでしょ。  だから……スキンシップが必要かなって思ってさー。  ぎゅってすると、落ち着くよ? アタシもよく、パパとママにやってるし。  それに、こうするとお互いのことよく分かるしねー。  なんだかんだで、おにーさん、不安だろーなってのは分かるよ。  だからまずは、アタシのこと、しっかり信用してもらわないと♪  そのために、〝ぎゅー〟しよ♪  あはは♪ 通報したりしないってー♪  そんな気があったら、そもそもお家にあげたりなんてしないっしょー♪  もー♪ 疑り深いなー♪ おにーさんは♪  ……でも、それもしょーがないのかなー。今の風潮って、そんなんだもんね。  おにーさんだって、人からひどいことされて、あんまり信じられなくなっちゃってるだろうし。  だったら、なおさら、アタシのこと信じてもらわないとね♪  にひひ。ほーら♪ 来ないんだったらアタシから行くよー♪  ぎゅーーーーー……♪  よーし。よーし。  よし、よし、よし。  どーお? 黒ギャルJKの抱きしめは♪  癒されるっしょ♪ にひひ♪  んー? まだ遠慮してるなー、おにーさん。  もっと、ぎゅってしていーよ?  ほら。おっぱいに、顔を埋める感じにしてさ。ぎゅーって♪  気にしないでいーって♪ うん、そーそー♪  ぎゅ、ぎゅ、ぎゅー♪  お♪ この体勢、かなり収まりがいーね♪  しばらくこーしてよー♪ ぎゅーー♪  ……んー? どしたの、おにーさん。  ……え? あはは♪ おにーさんって、やっぱスケベー♪  アタシ、別に、誰にでもこーいうことやってるわけじゃないよー♪  けっこー、純情なんだよ? まだ余裕で処女だしねー。にひひ。  ウチさー。親がめっちゃ会社持ってて金持ちだって言ったじゃん?  それってさ。要は、めちゃくちゃ忙しいってことでさー。  ……あんまり会えないんだよねー。  そんで、かなりの……ホーニンシュギ?ってゆーんだっけ? それだからさ。  アタシがこーいうカッコしてても、夜遅くまで友達と遊んでても、なんにも言わないし。 「あんまり構ってやれないから、その代わり口うるさく言わない」みたいに思ってるかもしんないけど。  まー、だから、寂しいんだー。ショージキ。  マンション買ってー、って言ったのも、困らせてやろーくらいの感じだったんだけど。  あっさり買ってくれてさ。  まあ……感謝は全然してるんだけどねー? とってもいいパパとママなんだなって思うし。  でも……ね。やっぱりねー。うん。  誰かにそばにいて欲しいなってなったの。  そんなときに、おにーさんと会ったから。  ちょーどいいかなって。  ……あー。ちょーどいい、っていう言い方はシツレーだよね。  もちろん、誰だってよかったわけじゃないよー?  おにーさん、優しそーだったし。  ……それに、アタシと一緒でさ。  さみしそーだなって。  んー。なんか、こう言うと、見下してるみたいなカンジ、出ちゃうね。  フユカイだったらゴメンね。  まー、でも、別に、おにーさんは深く考える必要はないよー。  こーいうの、イゾンってゆーんだっけ。お互いそうなっちゃうのって、あんまりよくないことだと思うからさー。  おにーさんがもういいやってなったら、いつでも出てっていーからねー。  金持ちの気まぐれでラッキー、くらいに思っててよ。  でも……今、こーして、ぎゅーってしてると……  すっごく落ち着く。にひひ。  ね。  しばらく、こーしててもいーい?  ……うん。ありがとー。  ぎゅーー。  ところで、おにーさんはさ。  家事はどれくらいできんの?  ……ふーん。そっか。お料理とかできる?  おっけー。それなら助かるよー♪  じゃ、基本的には、昼間、やれるだけでいいから、家事やっといてねー。  分かんないことあったら、いつでも聞いてくれていーよ。置いてある家電も、おにーさんが使ってるのとは違うだろーしね。  あ、もちろんアタシ、昼間は学校行ってるからさ。なんかあったら、スマホに連絡して。  つか、連絡先交換しなきゃね。  あとは……おにーさん用の、ウチの鍵とかもいるか。  うち、タワマンだけあって、セキュリティーしっかりしてるからさ。エレベーター乗るのにも鍵がいるんだよね。  忘れないように、そーいうの、後でまとめて準備しよっか。  でも、今は……にひひ。このままぎゅーってしてたいな。  ぎゅーーーー……。  はー。やっぱ、気持ちいいな。誰かとぎゅってするの。  うん。今まで、パパママくらいとしかやったことないから……他の男の人をぎゅってするなんて、初めてだけど……  すごくいいねー。これ。  あったかくて……眠くなってくるよ。  まあ……色々と急な話で、混乱してると思うけどさ。  おにーさん。改めて……これから、ウチのこと、よろしくね。  にひひ。