○新たな獲物を探す伊織
男と女が出会いを求めて集まるバー。(独り言の説明口調)
つまりここに来ている成人した男女達は婚活目的ではなく、
一夜限りの相手を探してやってきているのよね。
だから年齢が若い人が多いけれど……、
私に声をかけてくるのは経験済みの非童貞の男ばかり(残念そうに)。
私が大好物の童貞君は、なかなか見つからないのよねぇ。
こういう所に意気揚々として来るかと思って参加してみたんだけれど、
ちょっと見当違いだったかしら?
都内のホテルの最上階にあるオシャレなバーは、
私にとっては馴染みのある場所でも、
童貞君にとっては敷居が高過ぎなのかもしれないわね。
私の好みは、童貞らしく新鮮味のある男性。
初々しくも、女の身体への興味が強くて、
可愛いのよねぇ(うっとりと)。
――でも見渡す限り、
いる男達は女慣れしている肉食系男子ばかり(うんざり)。
どこかに草食系から肉食系へ、
進化をしたがっている男性はいないかしら?
私が優しく童貞を頂いてあげるのに。
うふふっ♪(楽し気に)
……アラ? 窓際の角の席に座る若い男性、
何だか童貞っぽいわ(ハッとしたように)。
彼の側には誰もいないし、一人で寂しそうにいるわね。
何だか垢抜けない地味な空気を身にまとっているし、
人と話すことが本当は苦手なのかしら?
――もしかして、彼が今夜の私の獲物?(嬉しそうに)
ちょっと声をかけてみましょうか。
もし違っていたら、離れれば良いだけだしね。
(少しの間の後)
こんばんは、お一人ですか?(猫を被って、大人しそうなお嬢様モード)
隣の席に座っても良いですか?
私も一人で寂しい思いをしていたんです。
良かったら少し、話し相手になっていただけませんか?
(同情を誘うように)
――アラ、良いんですか?
お優しい人ですね。ありがとうございます。
それでは失礼して、座らせていただきますね。
あっ、自己紹介がまだでした。
私は伊織と申します。年齢は二十歳で、女子大学生なんですよ。
こういう所に来るのは、今日がはじめてなんです。
知らない人ばかりで、緊張しているんですよ。
――えっ? あなたもそうだったんですか?
良かったぁ。私だけじゃなかったんですね。
うふふっ、でも来てよかったです。
あなたのような、親切な人と出会えたんですもの。
……あのぅ、ふしだらな女と思わないでくださいね?
(相手の顔色を窺うように)
もしかして、あなたも今夜の相手を求めていらっしゃいます?
――ああっ、赤くなって顔をそむけないでください!
そのぉ、私も……そう、ですから……。(恥ずかしそうに)
私も一人で夜を過ごすのが、寂しくて……。
だからこんな企画に、一人で参加をしてしまったんです。
そうしたらあなたのように優しい人と出会えて、ほっとしたんです。
実は私、ガツガツした肉食系の男の人が怖くて苦手なんですよ。
どちらかといえば、あなたのように落ち着いている人と一晩過ごしたいんです
(誘いかけるように)。
私じゃあ……ダメですか?(甘くねだるように)
あなたと一晩、ゆっくり過ごしたいんです。
――アラアラ、顔だけじゃなくて耳や首筋まで真っ赤になっていますね。
女性から誘うなんて、淫らな女だとお思いですか?
――えっ? 嬉しいんですか?
良かったです。あなたに嫌われたら、私、今夜は泣いて過ごすところでした。
(ほっとしたように)
それじゃあ上の階に部屋を取ってありますので、一緒に行きましょうか。
私、早くあなたと二人っきりになりたいんです。
(少しの間の後)
ようやく二人っきりになれましたね。
――どうかしました? 何だか驚いた表情を浮かべていますよ?
(不思議そうに)
この部屋のことですか?
夜景が美しく見えるので、気に入ってよく利用する部屋なんですよ。
だから突然私が今夜利用したいと言えば、
ホテル側がすぐに準備をしてくださるんです。
……私の正体に、興味がありますか?(含みを持って)
うふふっ、確かに私の両親はお金も地位も権力も持っていますけどね。
私が優秀であれば、何をしてもほとんど
干渉などしてこない良き両親なんです。
さあ、二人っきりの夜をはじめましょうか。
(艶っぽく)
夜は長いようで、意外と短いものです。
ヤルことが多ければ、尚更ですよ?
今更純粋ぶるのは、無しですからね。
だって、出会い系のバーに来るぐらい、
女性に飢えていらっしゃったんでしょう?
(少しバカにしたように)
一目で分かりましたわ。あなたが童貞だってこと。
――アラアラ、随分動揺していらっしゃいますね。
隠そうとしても、童貞というのはおのずと分かるものなんです。
特に私のように、童貞が大好物の女性にはね。
別に恥ずかしがることはないですよ?
だって私はあなたのような人を求めて、
出会い系のバーへ行ったんですから。
その証拠に、服を脱ぎますね。
(少しの間の後)
……ふう。下着姿になりましたが、これでどうでしょう?
私の本気を、分かっていただけましたか?
先程も言いましたが、私は女性慣れした肉食系男子よりも、
童貞のあなたの方が良いんです。(きっぱりと)
で・す・か・らぁ、私の言うことを、
これから全て聞き入れていただきますよ?(楽しそうに)
ちゃんと命令に従えたら、
ご褒美にこの豊満な肉体で童貞を捨てさせてあげます。
さあ、覚悟は良いですか?(妖艶に)
あなたに女性の素晴らしさを、その肉体に教え込んであげます。