0.プロローグ
こんにちは。ご主人様。
…………。
申し訳ありません。聞き取りづらかったでしょうか。
こんにちは。
わたくし、心菜(ここな)です。
はい。ご主人様の従妹の。
わたくしの両親が、都合により、家を留守にするので……
しばらく、ご主人様のお家にお邪魔させていただく、とお話がいっていたかと思いますが……。
はい。そうです。その件でお間違いないかと。
短い間ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。
つまらないものですが、こちら、お土産でございます。お口に合うと良いのですが……。
ありがとうございます。失礼して。あがらせていただきます。
お邪魔いたします。
はい。お気遣い、ありがとうございます。
では。こちら、失礼いたします。
ふぅ。
重いリュックを担いで駅から歩いて参りましたので、足が少し疲れておりました。
このソファ、柔らかくて、とても座り心地が良いです。さすがです、ご主人様。とても良いものをお持ちなのですね。
……はい?
“ご主人様”、という呼び方ですか?
ええ。確かに。わたくしのような年代の少女が、従兄のお兄さんを呼ぶにしては、不自然かと思います。
ですが、これには理由がございます。
少し長くなるお話をしてもよろしいでしょうか?
ありがとうございます。退屈で眠くなってきたら、言ってくださいまし。子守歌に切り替えますので。
では……。
……むかしむかし。そのまたむかし。
数百年も前のお話です。
わたくしは……わたくしの魂の前世において、辛い境遇にありました。
住んでいた家が、火事によって燃え、両親が犠牲となり……孤児となってしまったのです。
雑草を食べて、雨水を飲んで、なんとか生きながらえておりました。
しかし、子どもだけの知恵では、そんな生活が続けられるはずもありません。
わたくしは死を迎える寸前でございました。
そんなとき。道で倒れ込んでいたわたくしを、ご主人様が見つけてくれました。
急いでご自分の家に連れ帰ってくださり……
暖かいスープと、毛布をくれたのでございます。
その後もご主人様は、見ず知らずのわたくしを、本当の家族のように扱ってくださいました。
死が二人を分かつまで。
……わたくしは、そのご恩を、一日たりとも忘れたことはありません。
ですから。
現世でも、ご主人様にお仕えいたします。
ずっと、この日を待ち望んでおりました。
ご主人様のお家に、とても自然な理由で泊まり込むことができ……
お傍にお仕えできる。
短い間ではございますが。
わたくし、精いっぱい、ご主人様にご奉仕いたします。
……ああ。ご主人様。面食らっていらっしゃいますね。
ええ。わたくしも、自覚はしております。今、自分が、到底信じられないようなことを口走っていると。
わたくしの中では、紛れもない真実ではございますが……
それを、今のご主人様に押し付ける気は、毛頭ございません。
先ほどのお話は、どうぞ聞き流してくださいまし。
あれはあくまで、わたくし側の理由でしかございません。
ただ、どんなことでもお世話をしてくれる、従妹の女の子がやってきた、とお考えください。
長々とお話してしまいましたが、言いたいことはただ一つでございます。
不束者ではございますが……
これからどうぞ、よろしくお願いいたします。