汽子とお昼寝(お昼寝/ウィスパーパート)
;完全に安眠誘導。基本、小声かウィスパーかでお願いいたします
;環境音 同じ F.i.
;SE 寝袋のジッパーしめる
;11/右遠
【汽子】「うふふっ」
;SE 寝転がる
【汽子】「寝袋って、とてもあったかなのですね、それに――うふふっ」
;SE もぞぞ寝袋ごと動く
【汽子】「芋虫さんみたいになれば、もぞもぞ動けもするのですね。
うふふっ、マスタアの寝袋さんと、もう少しだけご近所に……
<;SE もぞもぞ>
ん」
;3/右
【汽子】「(呼吸音)(呼吸音)」
【汽子】「……ね、マスタア。覚えてますか
それとも忘れてしまいましたか
こんな波音、昔、一緒に聞きましたよね」
【汽子】「あの日は、汽子……(呼吸音)(呼吸音)――泣いてしまっておりました。
東波豆(ひがしはず)の駅の海側……
優しくて、少しさみしい――波音の聞こえる物陰で」
【汽子】「(呼吸音)(呼吸音)」
【汽子】「あの、ね、マスタア。……あのときは……。
汽子、とてもこころぼそかったんです。
名護鉄(なごてつ)にうつってきたばかりで――
いいえ、本当は、名護鉄にうつるそのまえから、ずうっと」
【汽子】「思ってましたの。ずっと、ずうっと。
……蒸気動車はコウモリだなって」
【汽子】
「蒸気機関車の仲間にもはいれず、
気動車たちともたわむれられず――
どちらの組からも、『あっちがわ』っていわれてしまう、そんなコウモリだなぁ、って」
【汽子】「それでも昔は、姉妹がたくさんおりましたから。
その分、結束が強かったから――
へいちゃらでしたわ。
おねえさまたち、いもうとたち……みんなでわいわい笑って、はしゃいで」
【汽子】「ああ、けれど……(呼吸音)――
ええ、マスタアもご存知のとおり……」
【汽子】
「(寂しい吐息)……。
汽子の妹はいつか製造されなくなって――
お姉さまたちも妹たちも、ひとり、またひとりと走れなくなって……」
【汽子】「ひとりぼっち、って。
ですから、あのときは思ってしまいましたの」
【汽子】
「汽子、ひとりぼっちで名護鉄に飛ばされたんだって。
こんなに潮風の強いところに配備されて、
きっといつか、サビだらけになって動けなくなってしまうんだわって」
【汽子】「……(呼吸音)――そう考えたら、さみしくてさみしくて、こころぼそくて。
こんな機能がレイルロオドにあるなんて、それまでまったく知りませんでしたのに――涙が、ぼろぼろこぼれてきちゃって、とまらなくなって」
【汽子】「(呼吸音)(呼吸音)」
【汽子】「……寄り添ってくださいましたよね。マスタア。
なにひとつさえおっしゃらず、頭をなでてくれたりもせず。
汽子の隣に、肩口だけをくっつけて――
ただ、寄り添っていただけて……」
【汽子】
「――あのとき、ね
汽子、『ああ、一人ぼっちじゃなかったんだ』って。気が付きましたの、本当に、本当の意味で。回路の、いいえ――タブレットの一番ふかいところから」
【汽子】「ほんのわずかに触れ合う肩の、とてもささやかなぬくもりが――汽子にとっては、どんな火室で燃える火よりも、強くて、暖かかったんです」
【汽子】「……『ひとりじゃない』『そばにいる』って――。
言葉ではなくぬくもりで、じんわり伝えていただけたから……」
【汽子】「それまでは、ね 蒸気動車のレイルロオドのマスタアになんて、きっとなりたくなかったんだと。
汽子、勝手に思い込んでしまておりましたの。
だって……だって――」
【汽子】「蒸気機関車の機関士だったら、甲組(こうぐみ)に入れる。本線の特急列車の乗務だってできる。
気動車にだって、特急はある。
けれど――けれども、蒸気動車は……普通列車でしか、走らない」
【汽子】「だから、汽子――本当はなりたくないのに、嫌々汽子のマスタアにきっとなられたんだろうなぁって。
そんな気持ちを、ううん、ひがみを――
こころのどこかに、いつか巣食わせてしまっていたんです」
【汽子】「だけど――あのとき――
マスタアのくだるぬくもりが……沈黙が……そうして、気持ちが――汽子に、まっすぐしみてきて……」
【汽子】「……うふふっ、汽子が泣き止んで立ち上がったとき――
『顔が汚れているみたい』って、涙のあとを、そっとぬぐっていただいて。そうしたら、ぽん、とわかったんです」
【汽子】「たんぽぽの綿毛がはじけるみたいに、ほんとに、ぽん、って」
【汽子】「『この方が汽子のマスタアなんだ』って『もしも潮風に錆びさせられても、この指が、必ずきれいに戻してくださるって』……汽子ね、いちばん底からわかって」
【汽子】「そうたら、すごく安心できて……ぽかぽかしてきて……
ふぁ――ぁ――
蒸気動車でいることに、誇りを、灯してもらえましたの」
【汽子】「だって――うふふっ――こんなに素敵なマスタアが、汽子のマスタアなんですもの。
汽子だってきっとおんなじくらい、素敵にきまってますでしょう」
【汽子】「そうしてあの日から、汽子はね
蒸気機関車のレイルレイロオドとも、気動車のレイルロオドとも、かまえることなく、見くびることなく。
おねえさまたちと、妹たちとしていたように、お話、できるようになりましたの」
【汽子】「いまでは、ですから――うふふふっ。
蒸気機関車や気動車だけにとどまらず、電気機関車、電車――それから、ええと、なんでしたっけ――(呼吸音)」
【汽子】「ああそう! 電気式ディーゼル機関車のレイルロオドとさえ、お友達になれて、にぎやかで――毎日、とても楽しくて」
【汽子】「ですから、マスタア――
どうかこの先も汽子とずうっと……
(呼吸音)――
ああ、いえ、言葉だなんて、なんのたよりにもなりませんわね」
【汽子】「(呼吸音)(呼吸音)」
【汽子】「このぬくもりが、きっとなによりの証ですもの。
このぬくもりとよりそい続けて――
マスタアが望んでくださるその限り、きっと、汽子はいつまででも走れます――ふ……ぁ……(大あくび)」
【汽子】「……(呼吸音)――はい、そうですね。
すこし、おしゃべりがすぎましたわね。
お迎えの舟がくるまで……時間……のんびり……ございます、のに」
【汽子】「……(呼吸音)――ええ、そうします。
いまはひととき、瞳をとじて、言葉をとじて」
【汽子】「(安堵の吐息)それ……じゃあ、ふぁ――
マスタア……おやすみなさい」
【汽子】「起きたら……きっと……おさんぽ……して……ふぁ――
おさんぽ、したら……きゃんぷ……ふぁいあ……ん……」
【汽子】「汽子……マスタアに……お料理……おりょう、り……ふぁ……(大あくび)」
【汽子】「このひの……ため……に…………ふぁ……
たくさ……れんしゅ…………ぅ…………ん……
(寝入りばなの寝息)*2」
【汽子】「(寝入りばなの寝息)*4」
【汽子】「(浅い寝息)*4」
【汽子】「(浅い寝息)*4」
【汽子】「(すやすや寝息)*4」
【汽子】「(すやすや寝息)*4」
【汽子】「(熟睡寝息)*4」
【汽子】「(熟睡寝息)*4」