エルフ耳かき
(ガサっと茂みの音)
おい、人間。
貴様、ここで何をしている。
ここはエルフの森、人間は不可侵の場所だ。
さっさと帰れ。
・・・は?
エルフに耳かきされると、どんな病も治る・・・だと?
それは迷信だろう。
って、おい、落ち着け。
大体、お前は健康だろう。
はぁ?
童貞の病?
そ、それは病じゃないだろう!
あ~、もう~。
分かった、分かったから。
耳かきしてやるから、終わったら、さっさと帰るんだぞ。
じゃあ。
ほら。
(膝を叩く音)
(恥ずかしそうに)
膝枕・・・。
しないと、できないだろ。
・・・耳かき。
(膝枕する音、右耳が上、左耳が下)
(右耳、通常距離)
ん?
そう言えば耳かき棒がないから、できないじゃないか。
・・・って、あ、ああ。
持参してるんだ・・・。
お前、しっかりしてるな。
じゃあ、それを貸せ。
耳かきしてやるからな。
じゃ、行くぞ。
(右耳、耳元、囁き声)
ん。
んん。
ふう、んっと。
お前、なかなか耳垢を溜めているな。
汚いから童貞なんじゃないのか?
んん。
んっと。
なかなかキレイにならんな。
このっ・・・。
んっく。
ん?
キレイなエルフのお姉さんに耳かきされて幸せ、だと?
あ、あのな。
・・・て、テレるじゃないか・・・。
それにしても、よくこの森に入ってこられたな。
この森には強力な結界が張ってあるんだ。
普通の人間には入って来れないはずなんだが。
・・・は!
そ、そうか。
40過ぎても童貞だと魔法使いになれるって言うのは、本当だったんだな!
え?
『エルフの森入り口』の看板が出てた?
い、いつの間に、そんなことに・・・。
ん。
んん。
(耳かき終了)
よし。
こっちはキレイになったぞ、童貞人間。
梵天の出番だな。
ふ~~~~。
(梵天の音)
ふ~~~~。
(梵天の音)
どうだ?
少しは童貞に効いたか?
何?
反対の耳もしないといけないのか?
ったく、仕方ないな・・・。
じゃあ、反対を向け。
って、ば、バカ!
『向け』っていうのは、それを『剥け』ってことじゃなくて、顔の向きを変えろってことだ!
勘違いにも程があるだろ!
さっさと、その見苦しいキノコをしまえ!
(寝返りする音)
(左耳が上になる)
(左耳、通常距離)
(独り言)
はぁ~~。
この人間、面倒くさいタイプだ。
早く終わらせて、さっさと森から追い出さそう。
じゃあ、こっちもやってやるから、おとなしくしてろよ。
(左耳、耳元、囁き声)
そ~ら。
んん。
ん。
ったく、何でこんなに汚いんだ。
エルフはキレイ好きだから、こんな汚物を見るのは、本当にイヤなんだ。
おい、お前。
自分でもちゃんとやらないか。
いいトシした大人だろう。
まったく。
ん、んん。
んっく。
あ、お前。
耳の中にホクロがあるじゃないか。
知っているか?
人間界のホクロ占いでは、耳の中にホクロがある人間は、リア充なんだそうだ。
・・・ホクロ占いって、当たらないものなんだな・・・。
いや、こっちの話しだ。
気にするな。
ん、んん。
ん、ん。
お、奥に大きいのがあるな。
ちょっと奥に入れるから、痛かったら言ってくれ。
そ~れ。
大丈夫か?
平気か?
んっしょ。
この、この。
くう。
ん、んん~。
んん~~~~~っと。
ふぅ、取れたぞ~。
おい、見ろ。
大きい耳垢が取れたぞ。
ふふ、私は意外と耳かきの才能があるのかもしれないな。
じゃあ、あとは細かい垢を取るからな。
ん。
ん。
ん。
(耳かき終了)
よし、こんなものでいいだろう。
じゃあ、梵天で仕上げだ。
ふ~~~。
(梵天の音)
ふ~~~。
(梵天の音)
よし、終わったぞ、人間。
起きていいぞ。
(頭を起こす音)
どうだ?
これで満足しただろう?
さっさと森から去れよ。
・・・は?
童貞のまま?
騙された?
なっ・・・!?
あ、当たり前だろ!
そもそも、その言い伝えが間違ってるんだぞ!
バーチャンがやってる民間療法ぐらい、間違ってるんだよ!
とにかく、私はもう関係ないからな。
じゃあな、人間。
(立ち去る音)