1.魔王のペット
SE: 扉を開く音
やっと帰って来たか︑貴様︒ずいぶんと遅かったではないか︒
ほう… 仕事が長引いた︑と?ふん… 貴様の事情など知らぬ︒
食事の時間はとうに過ぎておるぞ?
さっさと準備をいたせ︒
疲れただの︑休ませろだの… 適当なことを抜かすでないぞ︒
口答えは許した覚えはない︒さっさと動け︑この下郎︒
︵溜息︶出会って数日もの間… 私の望む︑食事の時間に間に合ったことが一度としてあった
か?
毎日言っておろう?誰を待たせていたのか︑理解しているのか?と︒
この至近距離で︑魔王の姿を拝めるなど… 大変光栄な機会なるぞ?
心から喜び︑ボロ雑巾のような姿になるまで… 私に尽くしてもいいと思うのだがな︒
いくら勇者どものせいで魔力を失い︑人間界に転生したとはいえ…
私は数多の配下を従え︑不愉快な人間どもをペットとして飼育してきた魔王であるぞ?
本来であれば︑貴様のような俗物が共にしていい存在ではない︒
しかし… くく… 何の因果か︑一人彷徨う私の前に︑貴様が姿を現したのだ︒
ふっ︑貴様はツイているぞ?
私のような魔族の長と︑寝食をともにできるのだからな︒
ほれ︑何を悠長に立ち尽くしておる!
さっさと私を満足させられるような食事を準備してみせよ!
SE: コンロに火を灯す
︵香りを嗅ぐ仕草︶… ふふ… いい香りがしてきたではないか︒
いいぞ…… 実に楽しみだ︒
おい︑手を止めるでない︑早くしろ!
SE: コンロの火を消す
ふむ︑ようやっと… 食事の準備ができたか… どれ…
︵大きな溜息︶なんだ︑この食事は?
こんなものを私に食せというのか?
見栄えも悪く汚らしい︒これは料理とは呼べん︑私が燃やし尽くしてやる︒
SE: 炎の音
︵得意げに︶ふふ︑私の力を侮るでないぞ?
火を放つなど︑朝飯前よ︒
それにしても… 貴様は本当に使えぬな︒
そのモンスターよりも小さな小さな脳みそで︑きちんと考えなかったのか?
小汚い料理をを並べられ︑私が不快に思わぬと?
︵吐き捨てるように︶あり得ん︑貴様は低俗モンスター以下の存在だな︒
彼らですら︑私の食欲を満たす料理を作れるというのに…
人間はもう少し賢い生き物かと思っていたのだが︑やはりどいつもこいつも獣以下か…
ふん︑食事はもういい︒私は先に寝る!
ここにあるのは︑私のベッドと比べれば実に窮屈なものだが… ないよりはましだ︒
シーツは… 塵ひとつ残さず︑掃除を終えておろうな?
料理は壊滅的であっても︑普段から整理整頓を心がけて――……
… ︵呆れたような溜息︶よもや︑貴様には何の期待も出来ぬな︒
周囲を見渡してみろ︒
… そう︑そこだ︒床を転がっている灰色の物体が目に入らぬか?
ほこりが残っているであろう?綺麗に掃除せぬか︑馬鹿たれ︒
… くく
︑どうした?
あまりにも理不尽に言葉を投げかけられ… 腹を立たせておるのか?
そんな軟弱な目で睨みつけられたところで︑意味もないわ︒
それに… 貴様︑また私に口答えをしたか?
仕事が忙しいのは理由にならん︒
私がその程度の理由で納得するわけがなかろう?
召使いはな︑自分自身の事は気にかけず︑主の身の回りのことだけを考えておればいいのよ︒
貴様はまだ︑自分の立場を理解できておらぬか… ︒
貴様はただの召使いではないぞ?
召使い以下… 私のペットだ︒
アンアンと啼き︑ケツを振るだけの存在よ︒私に反抗することは決して許さぬ︒
ペットはペットらしく︑主の命令に忠実に従えばいいのだ︒
… なんだ︑その目は?私に何か文句でもあるのか?
︵じっと鋭い瞳で見つめるように︶
そうか︑貴様にはまだ… 調教が足りておらぬようだな︒
よろしい…… 貴様は特別だ︒
私が直々に︑その身に快感を刻み込んでやろう︒
私に二度と逆らう気が起きぬよう︑徹底的に扱いてやるから… 覚悟しておけ︒
FO