プロローグ
こんにちは。
そちらの椅子へお座りください。
少し、表情が堅いですね。
緊張されていますか?
ですが……あなたのその症状は、必ず治せるものですから。
安心してくださいね。
改めまして。
これから、あなたの担当ナースとなる、水樹沙奈枝です。
どうぞよろしくお願いします。
症状について、わたしが一から説明させていただきますね。
分からないことがあったら、いつでも質問してください。
さて……
あなたは健康診断の項目の一つが、〝要治療〟という判定となりました。
それは……
〝精液〟、という項目です。
はい。診断の前日……自慰行為をするなり避妊具に出すなりしてもらって、それを診断の時に提出してもらったでしょう?
これは今年から、成人男性の健康診断に追加された項目です。
実は精液とは、身体の情報の宝庫です。
精子の数や運動率を調べることによって、不妊についてあらかじめ診断できることもそうですが……
最新の研究と、検査機の発展により……精液の状態を検査することで、様々な臓器の状態はもちろん、テストステロン……男性ホルモンの量により、メンタルの状態なども分かるようになっています。
検査の結果……あなたは、精液の状態が極めて低い数値となっていました。
更に……平均的に数値が低いにも関わらず、精液の量だけは、基準を大きく上回っていました。
ここから分かるのは、臓器には大きな問題はないものの、メンタル面に影響が出てしまっている、ということです。
精液の量が多いということは、おそらく、あまり普段から自慰行為……オナニーをされていなかったでしょう?
最新の研究によると……成人男性は、一日一回以上のオナニー、もしくは性行為による射精が、健康維持のために推奨されています。
これには、精液の状態をよくするだけではなく……メンタルの安定を保つ、という意味もあります。
快楽を得ることによるストレス解消はもちろんのこと……毎日射精ができる、ということはつまり、休息の時間も得られている、ということでもありますから。
また、血液や尿検査の判定も、基準値以内ではあるものの……どれも決して、いい数値ではありません。
それに……所見ではありますが、あなたの顔色も、あまり元気そうには見えませんね。
今の影響はまだ軽微かもしれませんが、今後、様々な生活習慣病に繋がりかねません。
つまり……以上の結果から、あなたには十分な休息と、複数回の射精が必要ということが分かります。
ここまで、大丈夫でしょうか?
ありがとうございます。
では、これからの流れについてですが……
あなたには、この病院の〝精液科〟に、しばらく入院してもらうことになります。
期間は一週間ですが、精液の状態によっては、それより伸びることもあります。
その間、会社はお休みしてもらうことになります。
この休みについては、インフルエンザなどと同じく、法律による〝勤務停止〟状態となります。
その分の補填については、国から支給されますので、安心してくださいね。
その一週間で、担当ナースであるわたしとともに、精液の質を高めるための治療を行います。
まずは、規則正しい生活、バランスのいい食事、そして長時間の睡眠を取れるよう、わたしがある程度、生活を管理させてもらいます。
最初は窮屈に思うかもしれません。
ただ、この入院は、あなたのメンタルの健康を取り戻してもらう、というのが大きな目的です。
わたしとの治療時間以外は、自由に過ごしてもらって、もちろん構いませんよ。
そして、実際の治療についてですが。
精液の状態をよくするために……
毎日、わたしの手によって、射精をしてもらいます。
精液というのは基本的に、精巣で作られたそばから射精をして、睾丸の中の新陳代謝をあげていくことで、健康になると言われています。
また、一日一回のオナニーの習慣をつける、という意味もあります。
基本的に、治療はそれだけです。
食事のときに亜鉛を多めに摂ってもらう、といったことはありますが……他に何か、痛かったり苦しかったりする治療はありませんので、安心してくださいね。
もちろん、射精というのは、心理的な興奮も大きく関わってきます。
わたしも精一杯、手伝わせていただきますが……
自分の体質と合わない、と感じられたら、治療途中でも担当ナースを切り替えることはできますので、遠慮せずに言ってください。
以上となりますが……
何か質問はありますか?
はい、分かりました。
では……
これから一週間。
どうぞ、よろしくお願いしますね。