(通常.ver) 12-B.引きこもり終了。実験後、初めての登校日の朝。[16.story 12b]
◆12
【京子】
「(およそ一ヶ月に及んだ『自演・引き籠り生活』は、
昨日を以って終了となった)」
【京子】
「(これ以上、学業を疎かにすると落第してしまうし、
元より昨日で終了の予定でもあった。……まあなによ
りも、私は友人たちに会いたかったのだ)」
【京子】
「(始めはほんの些細なきっかけから始まった本実験)」
【京子】
「(建設的ではない『外出禁止』、『外部の者との面会
禁止』などという制約の中で生きている人の気持ちを
読み解き、利点を見出すのが目的であった)」
【京子】
「(実験の最中、いくつかの弊害は然ることながら、予
想もしていなかった利点が浮かび上がる)」
【京子】
「(そう、確かにメリットはあったのだ。外にばかり出
ていては、決して得られるはずのないスキルや知識が
身についていったのだ)」
【京子】
「(そんな中で、アイツの存在が色濃くなっていった)」
【京子】
「(幼馴染という間柄ゆえに、学校という帳を超えて私
の前にやってきた。『外部の者との面会禁止』という
制約をも超えて、目の前に現れた)」
【京子】
「(アイツの声、口調、息遣い。そして、その姿を私の
前に現せた)」
【京子】
「(もう、なんていうか…………なんだろう?)」
【京子】
「(実験のことなんて、どうでもよくなっていた)」
【京子】
「(アイツが家を訪ねてきてくれるから……誰の目もな
い二人っきりの空間でアイツと向き合えるから、私は
引き籠っていた……そんな錯覚を覚えるくらいだ)」
【京子】
「(私たちは、実験のお陰で再び仲を取り戻し、また昔
のような関係となった)」
【京子】
「(……いや、昔とは……明らかに違う)」
【京子】
「(距離が離れていたがゆえに、お互いを引き付ける力
は弱まっていたけど……)」
【京子】
「(一度近づけば、その引力は力を取り戻し、引力に導
かれ……近づけば近づくほどにその引力は力を増して
……)」
【京子】
「(私たちは惹かれあい、重なり合った)」
【京子】
「(……と、わざわざ口にすると面映ゆい話だけど)」
【京子】
「(とにかく、実験は終わり、私たちは元の鞘に収まっ
た)」
【京子】
「(そして、久し振り登校……)」
【京子】
「(浮足立つ心で、私は……坂を掛け上がるのだ)」
【京子】
「(私を待つ、アイツの下へ――)」
……
丘の上にアイツの姿を捉える。
こちらの存在に気付いて、振り向いた。
【京子】
「はぁ、はぁっ、はぁ……はぁ、……はぁぁ……。はぁ
……っ、んぐ、…………おはよう。……待たせたか?」
軽く微笑みながら言う。
【男】
「五分くらいかな」
【京子】
「ふふっ、そうか。……くす、ふふふっ」
【男】
「なにさ?」
【京子】
「んー、なんていうか、こんな典型的な言葉の掛け合い
が、妙に……クス、嬉しくてな」
【京子】
「誰かと待ち合わせをすると、必ずどちらかが相手より
も遅れてしまうだろう?」
【京子】
「だから、さっきの会話は待ち合わせしてると絶対のよ
うに言ってしまうものだぞ」
【京子】
「くす、そう考えると、この会話をすること自体が『待
ち合わせてる』っていう実感をくれて、嬉しくて……
昔懐かしくて……幸せなんだぞ」
【京子】
「お前と、またこうして肩を並べて登校することができ
るなんて……夢みたいだぞ」
【京子】
「……」
なんとなしに、アイツを見上げる。
少し肌寒い秋の早朝。
通学鞄を片手に、制服姿で向かい合う。
子供の頃の私たちを思い出す。
昔のように、朝日を浴びながら挨拶を交わしあい、二
人で並んで登校する。
お互いが成長した身体で、仲睦まじかった頃に帰った
気分。
こんな状況をニヤけずにいろと?
無理に決まってる。
【京子】
「……ん。……んふふ、くすくすっ」
嬉しさを噛みしめるように、堪え切れない笑みを零し
ていく。
【京子】
「……んっ。うしっ、それじゃ……行くか?」
【男】
「うん」
歩きはじめる。
アイツの隣で。
あの頃は顔のすぐ横にあったアイツの顔。
今では見上げないとアイツの顔は窺えない。
……そうだ、あの頃とは違う。
子供の頃の、ただの幼馴染だったときとは違う。
違うのだから、あの頃と同じようなスタイルでいる必
要はない。
【京子】
「……」
視界の端に動く手を握った。
おそるおそる。
【男】
「……」
握り返す。
私の手を優しく握り込む。
……うん、やっぱり違う。
あの頃とは、私たちは違うのだ。
Bルート
【京子】
「……昼休みに、三階の多目的E教室に」
【京子】
「クラスから一番遠いとこだから、そこで……しよっか?」
本編終了