Track 4

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バイト除霊少女に成仏看取られ

依頼された場所はここだから……ああ、あんただね。 まあ、力抜いてくれていいよ。 えっと……私は、バイトで除霊っていうか…… この世にとどまってる霊をあの世に送るみたいなことををしてて…… だからあんたを祓いにきたんだけど…… ……んー、もしかして……祓うってどういうことか、わかってない? あー……自覚がないパターンかぁ……。 ようは、あんた、もう死んじゃってるんだ。 で、ここで、地縛霊になってる。 わかんないかなぁ……そうだな、今からあんたに手を伸ばすよ? ほらっ……すり抜けた。 びっくりした? ごめんね。でも、あんたがもう死んじゃってるのはわかった? それで、私がお祓いにきたってわけ。 そっか、どうして死んだのかも、覚えてないみたいだね。 うーん……と。すぐに終わらせることもできるけど…… いきなりお前はもう死んでて、地縛霊になってるんだ、だからお祓いします、なんて…… 言われても納得いかないよね。 だから、さ。 最後に話でも、しようかなって。 ……そんな状態じゃ話すこともできなさそうだけど。 だからまあ……これは独り言みたいなもんだよ。 ただの……自己満足。 ……あんた、もう自分が誰かわからなくなってるみたいだね……。 なんでここにいるのかも。 ま……理由なんてどうでもいいか。 あんたが……納得して、満足してくれたらいいし。 ……安心して。 ちゃんとそれまで……つきあうから。 さてと……ゴメン、ちょっと飲み物出すね。 気休め程度なんだけど……。 コレ? いちご牛乳。 ほら、なんか、聖水のかわり? みたいな? でも未成年だからさ、ワインとか日本酒とか、買えないし。 これなら白いのと赤が混ざってそれっぽいかなって。 ん? それならピンクか? ……まあいいんだよ。なんとなく、他の動物霊とかがこないように持ち歩いてるだけだから……。 ああ、これをあんたにかけるとか、そういうのはしないから……大丈夫。 お祓い、っていっても私自身はそういうの……あんまり詳しくないんだよね。 ってわたしのことはどうでもいいや…… こんなさびしいところに、よくひとりでいるね。 ああでも、人が多いところ、好きじゃなさそう。 私も人多いの苦手だから……なんとなくわかる。 あと……寒そう。 他もなんとなくわかるよ。 ……あんたが、よくわからない不安を感じてるのも……。 自分よりいい思いしてるやつらを憎んでるのも…。 ……ほんとはひとりが寂しい、っていうのも。 だけど、さ。 そういうの……抱えたまんまだと、疲れるじゃん。 それに……そのままだと、そういうの、のそのものになっちゃうんだよ。 なんていうかな……。 私、口うまくないんだよ……。 誰かに対してでも、自分に向かってでも……マイナスの感情っていうのは……同じなんだよ。 それにばっかり目がいくと……他の感情を忘れちゃうんだ。 あんたは今、嫌な感情ばっかになって、その塊になりかけてる。 だから……そんな風になっちゃってるんだ。 これ以上進むと、私の声も聞こえなくなっちゃうだろうね。 ねぇ……まだ、思い出せる? 自分の名前。 思い出せる? 好きなもの、やりたかったこと、大切にしてたもの。 まだ…… 楽しい、とか。うれしい、……あったかい、とか。 思い出せる? ……うん、まだ、自分の意識はあるみたいだね。 間に合ってよかった……のかな。 でもね、このままだとそれもなくなる。 悪霊とか怨念とかって、あんたみたいな地縛霊とか、弱い霊を飲み込んで でっかくなってく……マイナスの感情だけのカタマリなんだ。 このままほっておいたら、あんたはソレに飲まれて…… あんた自身が、消えちゃう。 ソレになっちゃったら……こんな話なんかできない。 ……でもね、どっちみちあんたは、もう死んでるから。 ……こっちにとどまることは……できないんだ。 ここにいるってことは……未練とか、あるんだろうね。 それを……どうにかしてあげることは……できない。 そんな風に救ってあげるなんてことは……私には……できないんだ。 例えばさ……。 あんたを慰めたくても、満足に触ることも……できやしない。 ほら……今の話聞いて、不安そうにしてるあんたの顔、つねってやろうとしても……通り抜けちゃう。 こんな簡単なことも、できない私が……あんたを救ってやるなんて、言えやしないよ。 だけど……悪霊になっちゃったら……あんたのその顔も……なくなっちゃうんだ。 ……私だって……そんなの、嫌だよ……。 ……うん、嫌、だな……。 まあ、それで、さ。 これが私に唯一できることなんだけど。 悪霊になるよりはマシかな、っていう道を……選ばせてあげることはできる、よ。 天国……なのかは、わかんないんだけど。 あの世っていうとこに送ってあげられる。 まあ、私は行ったことないんだけど…… 送る時にね、そこの入り口までは私にも見えるんだよね。 その感じだと……明るいし綺麗だし…… 多分、少なくともここよりはマシなんじゃないかな。 詳いことは知らないから……向こうにいる……天使様とか閻魔様とか、そういうのに聞いてよ。 まあ……そこが、あんたにとっていいとこだったら……いいな。 ここまで偉そうに言っといて、無責任に思えるかもしんないけどさ…… 所詮、私なんて……少し不思議なことができるだけの、ただの女子高生なんだよ。 でも……小さいころから、他の人には見えないのが、見えてたんだ。 あんた、みたいなの。 悪霊とかは別だけど……だいたいのユーレーってやつは、別になにも悪さなんかしないんだよね。 ただ、そこにいるってだけ。 でも、霊力とか、磁場とか、そーいうののズレで、 変なことが起きたり……人によっては気持ち悪いって感じるんだよね。 本人は……そんなつもり、ないのに。 なんもしてないのに、気味悪がられて……避けられたり。そんでこんな風に……私みたいなのが、祓いにくる。 ……昔も今も、別に悪いことしてないのにね。 多分……ただ、さびしいってだけ。 ……それなのに。 ……おとなしくしてるのに……ただここにいるだけって理由で…… 作業みたくぱっと消して、ハイおしまい、なんてのは…… もっと寂しいことかなって……。 ……勝手に私がそう思ってるだけだけど。 私は、あんたの声もちゃんと聞こえない。なんとなくこうかな、って感じるだけ。 それに、あんたのことなんかなんも知らない他人でしかなくて…… だからあの世に送るってのが……あんたの救いになるかは……私にはわかんないよ。 それでも。 まだ、ヒトとしての意識を残してるあんたを……。 せめて、人として、見送りたい。 そして、できれば……このままこっちをさまようよりも…… あんたにとって……少しでもましなところへ…… 私の力で送ってあげることができたらって……信じてる。 ま、神様は意外とてきとうだから……神頼みはしないけどね。 あー……なんか、はずいな………。 いや、言ったことはウソじゃないんだけど……。 なんか、こう、マジな感じで……私ばっか……。 ……ずるい。あんたの話は聞けないのに……。 いや、だから私が話すしかないんだけど……。 おかしいな、いつもはこんなんじゃないんだけどな……。 うーん……あんたが話しやすいのかな。 まあそんなわけで……少しでもあんたに納得してもらって、あっちへ送りたいって話。 別に私に気をつかう必要はないけどさ。 ……どうかな。 少しは……わかってくれたかな。 ここから、離れること……。 私が、あんたを送るってことに、さ。 ……いい? …………いいっぽいね。 声は聞こえないんだけど……「いいよ」って言ってくれたのは……なんかわかるんだよね。 ただ、結構この仕事してるけど、いまだにナニで納得してくれるのかは……よくわかんないんだよな。 でもまあ……あんたがその気になってくれたなら、いいか。 そしたら……はじめようか……。 ……これからこの世から離れるっていうのに…… そんなに、私のことを心配するような顔しないで。 私は大丈夫だから、自分のことだけ考えなよ。 自分のことを、考えられているうちに、さ。 ……じゃあ、やるよ。 今から、あんたに触るよ。 うん、さっきまでは触れなかったけど……送る時のコレだけは別。 能力発動、っていうのかな。 痛いとか苦しいとかないから……怖がんないで。 ただ、手を握るだけ。 今だけ……私のこと、信じてよ。 ……いくよ。 ……どう? ……久々の、人の手の感触。 感じる? うん………やっと、触れたね。 そのまま、私の手に集中して。 ……人のあたたかさ、ってやつ。 それを見つけて……生きてるころには、感じてたはずのそれを……思い出して。 そう……そうして、あたたかいのが、広がってくのをイメージして…。 ……上を見て。 光が、見える? あそこにあんたを送る。 ……大丈夫、あっちへ行ったら……きっと一人じゃない。 まあ、賑やかすぎたりするかもしんないけど……そこはわかんないや。 あ、不満そうな顔。 ははっ。そうだよね、いよいよって時に不安になるようなこと言うなって感じだよね。 うんでもまあ……大丈夫、きっと。 だってほら、あの光のところさ……嫌な感じしないでしょ? なんとなくよさそうなところじゃん。 ……いつか私も、そっちにいけるのかな。 その時に……また会えるかもね。 ああでも、その前にあんたが生まれ変わったら……。 ……まあ、そこそこで、頑張ればいいんじゃないかな。 ほら、こう、抱え込みすぎないように、っていうかさ… 自分のことわかってもらえないって、悩んだり苦しんだりして…… こんな風になっちゃったかもしんないからさ。 次は……なるべく気を楽にしてやんなよ。 ……あー説教くさいの、悪い癖だな。 ほら、お経とか、念仏がわりみたいなもんだよ……うん。 ……行けそう? ほら、あったかい川みたいな流れ……わかる? それが私が作った道だよ。 それに意識を委ねれば……ちゃんとあっちへ行ける。 ……ごめんね、私はそこまで……つきあえないから。 でも……。 もう一人じゃ、ないよ。 私がいる。 ここで、最後まで見送るから。 あんたが、あっちへ行くの。 あんたが……ここにいたことも、私は忘れないよ。 じゃあ、元気でね……ってのもおかしいか。 ……うん。  今まで、よく頑張ったね。 お疲れさま。 もしもあっちで寂しくなったらさ…… 私があっちへ行った時に……きっと、あんたを、見つけるから。 その時は……ちゃんと、話、しようよ。 だから……もう、不安になんなくていいんだよ。 あとは安心して、あっちでゆっくり休んでて。 それじゃあ……。 行ってらっしゃい。

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