Track 3

互いの命を共有するワガママ使い魔に看取られ

はぁ……はぁ……っ……はぁ……はぁっ…… あぁんもー!なんとか逃げてこられたー。 あんなバカでかいキマイラがいるなんて聞いてないよー? ねぇ~、マスターちゃぁん? ……って、血だらけじゃーん! うわあ、お腹の中まで見えてるよー……。 ええっと回復アイテムは……、 あ、さっきマスターちゃんがわたしに使ってくれたのが最後かー……。 まぁ、健気でぇ~、可憐でぇ~、か弱い使い魔のわたし優先でぇ~、 回復アイテムを使うのはぁ~、あ・た・り・ま・え、ですけどぉ~。 おかげさまであのライオンもどきの目をくらませて逃げられましたしぃ。 わたし、嫌がらせ魔法は得意ですからぁ。 まっ、その分戦闘は専門外ですけどっ。 でもでもぉ、マスターちゃんを引きずってここまで逃げてきたわたしのがんばりもふくめてぇ~、 たくさーん褒めて讃えてくれていいんじゃないんですかぁー? ね? ま・す・た・ぁ・ちゃぁん? ねぇ~、聞いてるぅ~? うーん………。仕方ないなぁ~。 えぇっとぉ、コレやるの、ホントはちょっとイヤなんだけどぉ~……。 契約陣のあるおでこに……ちゅー……っと。 コレで契約陣を通してマスターちゃんの状態がわかるけどぉ……いちいち契約陣にちゅーする必要あるぅ~? この契約考えたひと趣味悪ぅい。それで喜んでたあたり、ほんとマスターちゃんもヘンタイだよねぇ~? 絶対主従契約って名前もなんかえっちぃよねぇ~。) ……んん? ……うわっ、やっば……マスターちゃんほんとに死にかけてるし! えぇ~? どうしよぉ~? 困っちゃ~う。わたし回復魔法は使えないよぉ~ん。いやぁ~ん。 ………あれれ? ちょっと待ってよー…。 マスターちゃんとの使い魔契約はぁ~、魔力のないマスターちゃんでも契約できるっていう強い契約だけどぉ~。 代わりに、片方が死んだらもう一人も死ぬっていう、ひっどぉい契約でぇ~……。 だから、マスターちゃんが死ぬってことはわたしも死ぬってことでぇ~……。 ……って。え? コレ……もしかしてわたしも、やばいんじゃなぁ~い……? …………は?……わたし、死ぬの? ………いやいやいやいや! それはダメ! むりむりむり!! 要はマスターちゃんが死ななければわたしも生き残れるんだしっ。 とにかくぅ~このケガをなんとかしないとだねっ! うん! えぇ~っとぉ~、まず止血……ってもう内臓モロ出しのケガに意味あるのカナー? まあ一応包帯まいておこぉ~。 そぉれぇ~、マスターちゃんをぐっるぐるぅ~。 ほどけないようにぎゅーーーっとしばってぇ……。 ねぇどう~? 痛くなぁい? 痛い? ねぇねぇ痛い~? もしもし~? ねえ、声も出せないのぉ~? 意識はまだあるよねぇ~? ほらほら、はやく起きてくれないとぉ~、 あのキマイラが追いついてきてぇ~、わたしたちのこと食べにきちゃうよぉ~? わたしは戦えないからぁ~、マスターちゃんが頼りなのぉ。はやく、お・き・て…ね? ……って、めっちゃ体つめたぁい! えぇ~、もうこれ半分死体じゃなぁい……? 焚き火は……モンスターを呼んじゃうからぁ。 しかたないなぁ……特別だよぉ? マスターちゃんのぼろぼろの服は脱いでぽいっとしちゃってぇ。 かわりにわたしのローブを……しっかり着せてぇ。 コレで少しはあったまるでしょぉ~? ふふ、わたしの香りに興奮とかしないでねぇ? 薄着のわたしにムラムラするのもダメだよおー? あとできることはあー……。 ……アレ、かな? ふふ……これはとっておきなんだからね? 普通ならぁ、頼まれてもしないんだからぁ~。 直接魔力通して強化魔法かけるとお、わたしの強化魔法でも結構効くんだけどぉ~、 マスターちゃんにはちょっと刺激強いかもねぇ~。もしかしたらこれだけで元気になっちゃうかもぉ~。 それじゃあ……マスターちゃんの唇、いっただっきまぁす。 ちゅっ……ん、んん……。 ふぅ……。 ふふ、直接口からすると……甘くてぇ、きもちいでしょ? これで病みつきになったマスターちゃんがおばかさんになったら困るからぁ~、 いつもはしないんだよぉ~? ふふっマスターちゃんにはまだ早かったかなぁ~。 もしファーストキスだったら、わたしがもらっちゃってごめんね、えへっ。 まぁ~ケガ自体は直せないけどお……そこはかわいさに免じて許して、ねっ? さぁてこのあとはどうしようかなぁ~。 地上からヒーラーを連れてくるぅ~? でもマスターちゃんが先に死んじゃうかもだしぃ~? このダンジョンで回復アイテムを探すぅ~? けどぉ~、攻撃手段のないかよわいわたしじゃ雑魚にもやられちゃうしぃ~。見つかるかもわかんないしぃ~。 あとはー……。 うーーーん………。 あれー? あれれー? 考えれば考えるほど……この状況、詰んでるかもぉ~…? マスターちゃんを助けて、ここから二人で逃げる方法なんて……。 ……ムリじゃない? ………はぁ? なにこれ、あ、り、え、なーい。 いろいろやったけど……マスターちゃんが死にかけなのは変わらないから…… このままだと道連れコース… ……はあぁぁ? コイツが死ぬのはどうでもいいけどー、それでこっちも死ぬとかー……ないっしょ。 ないわームリムリ。 こんな辛気臭いダンジョンで心中とかごめんだわー ……ねーえ、マスターちゃぁん。 もしかしてぇ、少しは動けたりしないかなぁ? あのね、このままだとぉ~……マスターちゃん、死んじゃうのぉ~……。 ゴメンね……マスターひとりも助けられない無力な使い魔でぇ~……。 でもさあ、この依頼受けたときぃ、あんな高ランクのモンスターいるなんて聞いてなかったよね? 知らなかったよね? 知ってたら来てないもぉん。それに、帰り道で手持ちの回復アイテムが少なかったのも運が悪かったよねぇ~。 だからぁ~しかたないよねぇ~。うんうん誰も悪くないよねぇ~。 だけどだけどっ! まだ希望はあるよっ! わたしひとりが逃げるだけなら、なんとかなるかもでしょ? だからあ……。 せめて死ぬ前にぃ……契約解除してほしいのぉ。 ねっ? ねえ? ほらほらあ。ふんばって。 地面にちょちょっと魔法陣書いてくれればいいからぁ~。 ね? お願い! ま・す・た・あ! ……あー。ムリかー……動く気配まったくしないわー……。 せめて回復魔法が使えたらなー。そしたら……二人で逃げれたのかもしれないのになー。 あーあー、なんで使い魔にわたしを選んだのかなー……。 げっ…! さっきのキマイラ……!? もうここまで追いついたの……!? マスターちゃんっ! おねがいっ……! ……なーんて、できるワケないよねー。 死にかけだもんねー。 うーーーん………。 ……うんっ! これしかないかなっ! ね、ますたぁーちゃぁーん。 マスターちゃんがもう動けないのはあ……わたしもわかってる……。 だからね……。 マスターちゃんにぃ~、あいつの餌になってほしいなぁ~。 わたしだけでも地上に逃げればぁ~、この契約も、レベルの高い魔術師に頼めば解除できるかもだしぃ~。 二人で死ぬより、一人が犠牲になって一人が生き延びたほうがいいと思うでしょぉ~? マスターちゃんもぉ~、こぉんなかわいい使い魔が死んじゃうの……イ・ヤ・で・しょぉ~? だからあ、わたしが逃げる時間かせぐためにぃ~……その命、使ってほしいのぉ! 使い魔のために、自分が犠牲になるマスター……きゃー! とっても感動するぅ~! かっこよすぎぃ~! マスターちゃんの人生で一番の見せ場になること間違いなし! そんなマスターちゃんのかっこいいところ……わたし、見てみたいなぁ~……? もちろん、わたしもマスターちゃんと……これでお別れになるの……悲しいよ……悲しいけど……っ! マスターちゃんの……尊い犠牲……わたし、忘れないからっ! ずっとずっと…忘れないから! だから……おいしくモンスターのごはんに、な・っ・て☆ だけどぉ……この絶対主従契約って、許可がないと使い魔はマスターから遠くにいけないようになってるでしょ? こんな時でもルールで縛ってぇ、使い魔が離れないようにするなんてぇ~コレ考えたひとぉ~……へ・ん・た・い。 そういうわけでぇ……いまから言う言葉に、うんって頷いてほしいのぉ~。 うなずくだけでいいからぁ~。 『マスターの側から離れることを許す』……ほらほら、うなずいちゃって! うんって言って! 許可しちゃって! わたしの、た・め・に! お・ね・が~い。 ……ダメかー……。 そんなにわたしと一緒に死にたいわけー? あーもー、キマイラももうきちゃうし……。 しかも、マスターちゃんの力が弱ってきてるから、わたしの体ももーやばーい。 なにこれーめっちゃだるいしー目も重たいー。 なんかすごい寒いしー。 指ひとつ動かすのもきっつーい。 マスターちゃんもこんな感じなのかなー。 ははっ。これじゃモンスター倒すのも、わたしのこと逃すのも、そりゃできないよねー。 ……マスターちゃん。 わたしだってぇ……こんなことしたくないけどぉ~……。 こんなことしちゃうのは……マスターちゃんがぁ……悪いんだから、ね? 二人で一緒に死んじゃうことになったコトの……ちゃんと責任、とって、ね? だから……マスターちゃんの最後の生命力、ぜーーーんぶもらっちゃうからあ! ほらっ! 口あけてっ! んんっ! ……ふぅぅ……ん……。 はあっ……ふふふ、ごちそーさま? よし……コレ、で……! くうぅ……! ふふ、ふ……できた! わたしの魔力とマスターちゃんの生命力、ぜーんぶ使った、わたし至上最強の結界! かんぺきー! これで大抵の攻撃ははじけるし、一日くらいは保つでしょ……わたしが死んでも。 あ、でもいまの生命力奪ったのがとどめで、マスターちゃんの命が、消えちゃいそうだね? ふふーん。自業自得ですー。 だいたいさ、わたしみたいなかわいい子が食べ散らかされたりしたらさ、 あとから発見する人のトラウマになっちゃもん。 ……使い魔が死んだら、死体は残らないで魔石になるだけなんて…… そんな野暮なことは言うのはダーメ、なんだからね? ……マスターちゃんの死体は……キレイなまま発見されるといいねー。 マスターちゃんもう死んじゃうねぇ。 これでホントのお・わ・か・れ。 あーつっかれたあ。もう絶対主従契約とか懲り懲り。 じゃあねーお疲れ様でしたー。ばーいばーい。 ……マスターちゃんが死んじゃうから……。 カラダ、維持できなくなってきたなあ……消えかけてる……。 わたしもそろそろかー。 ………ねえ、マスターちゃん……。 もしもさー、次に生まれ変わったらさー。 わたしみたいな、性格の悪い、 マスターを見捨てて逃げようとする、薄情な使い魔じゃなくて、 もっと素直で、いい子を使い魔にするんだよー? ……だから、こんなわたしのことは忘れて、いいんだからね。 これだけは、ちゃんと覚えて……きちんと死んでよね? ふふっ。 じゃあね。