完成!幻の「惚れ薬」です!《えっち無・導入》
先輩、ついに完成したんですね! おめでとうございますっ。
これが、我が化学部に代々受け継がれてきた実験データの最高峰、幻の「惚れ薬」…。
絶対にこんな根拠のあやうい 怪しげなものを作る部員なんているはずないって思っていたのに…。
先輩ってばさすがですぅ!
さっすが学年トップ! まさに才能の無駄遣いってやつですね!
…え、私褒めてるつもりなんですけど? やだなぁ先輩ってば自意識過剰ですよ。
そんな風にかわいい後輩の言葉を疑ってかかってるから、オタクとか根暗とかゾウリムシとか言われて女の子にモテないんですよ?
(小声で)おっと、ゾウリムシは私の評価でしたっけ。
あれ、なんで先輩怒ってるんですかぁ?
まぁまぁ、そんなゾウリムシみたいな先輩に関する周りの評価なんて、どぉでもいいんですって。
むしろモテないからこそ、その反動でこんな怪しげな薬を作っちゃったんだから、結果オーライってやつじゃないですかぁ。
さっすが童貞くんの考えることって世間一般の人々とは一味違いますよね!
それよりもいま重要なのは、これですよ、この「惚れ薬」、でしょう?
すごいですねぇ、この毒々しいショッキングピンク! なにをどーしたらこんなキッツイ色がでるんでしょうか。
不思議です…。それに匂いも…ううーん生臭いというか…腐った牛乳的な…。
今後の課題は、なるべく無色透明に、せめてもう少し自然な感じに仕上げる方向でいってほしいですぅ…。
惚れ薬ってことは、惚れさせたい相手に気づかれないよう飲ませるもの、なんですから。
こんなの飲ませようとしたらイジメですよ、嫌がらせ以外のなにものでもないですよねぇ。
ますます汚いものを見るかのように蔑まれて、嫌われるだけ嫌われて、こんな薬 結局ポーイって捨てられちゃうのがオチですって。
あぁ、なんてかわいそうな先輩…! ぐすんっ、骨は拾ってあげますからね?
まぁでも、少なくともとりあえずここまでは過去の実験データ通りですよね。
あ・と・はぁ…効果が本当にでるのかどうか。
これが果たして本当に「惚れ薬」としての効果があるのか…うん、重要ですよね。
兎にも角にも、データをたくさん取らないことには、特許の申請だって出来ないですし。
さてどうしましょう? 放課後だから人気(ひとけ)もないし、そのへんから部活中の女生徒でも拉致ってきましょうかぁ?
ああ、心配しなくても大丈夫ですよ、いつもどおり足のつかないよう上手くやりますから♪
…え…私、ですか? 私が、これを飲めってこと、ですか?
ええーー、絶対絶対、ずうぇーーったい(絶対)、イ・ヤ・です!
そんな、効果があるかないかわからない怪しげな代物の実験台に、どーして私がならなくちゃならないんですか?
先輩、ゾウリムシ並だとしても少しはモノを考えてから発言してもらってもいいですか?
そんなだから空気読めないキャラに認定されて、女の子からキモイって言われるんですよ?
これだから残念な童貞の考えることは、って馬鹿にされちゃうんですからね?
ちょっと先輩、聞いてるんですかぁ!?
…ううぅ、先輩、ほんとのほんとに、本気で言ってるんですかぁ? うぅぅ、むむぅ…
はぁ…もう、しかたないですね。これも化学部の宿命だと思って、私犠牲になりますよ。
…なんですか、その嬉しそうな顔。しまりのない顔はますますキモがられるってこと、もうちょっと覚えてもらえると。
はぁ…やだなぁ…。先輩、もしもの場合は骨を拾ってくださいね?
それから私の自宅のパソコンは中身を見ずにハードディスクを破壊してくださいね?
見られたら犯罪級なものが山ほどあるので…。
お礼に形見分けとして、「化学戦隊ケミカルレンジャー」ブルーのフィギュアをあげますから…。
あ、レッドのは私の棺に一緒に入れてくださると…私の嫁なので。
ああぁ、遺書とか書いておこうかなぁ…。はぁ…いやだなぁ…
あぁはい、冗談ですよ、じょーだん。先輩の作ったものに間違いなんてないですよねー天才ですもんねぇー(投げやり)
そのかわり、これが完成して特許を取ったら、収益の7割は私の取り分にしてくださいね?
なに言ってるんですか当然ですよ、体張って人体実験するんですから、むしろ少ないくらいですよ。
全取りでもいいくらいなんですから。
じゃぁ…いきます。女は度胸! えいっ!
(ごきゅごきゅごきゅ)
うぐぅ…けほっけほっ…まずいですぅ…。
ヒトの飲むものじゃないです…口直し用意しておけばよかったかも…。
あれ、どうしたんですか先輩、あわあわしちゃって。はい、もちろん全部飲みましたけど?
え…なんですって…? このフラスコで、10回分の量…?
ちょ、そーゆーことは早く言ってくださいよぉ! 差し出されたら全部だって思いますよね、普通!
わざとですかっ? わざとなんですね、これってもしかしてパワハラってやつですかぁっ!?
どどど、どーするんですかぁ! ほんとに死んだらどーしちゃうんですかぁ!?
そぉんなへらへら笑いながらの根拠のない「大丈夫」なんて言葉、受け入れられる訳ないんですけど!
ああもう仕方ないですね…。私だって化学部員、化学に殉じる覚悟は出来てるんです。
せめて私の死を無駄にしないよう、実験データはきっちり取りましょう。いいですね、先輩?
…ふん、だ。開き直る以外になにが出来るっていうんですか。
その無駄な脳みそフル回転させて、速攻解毒薬でも作ってみてくださいよ。
出来るも・の・な・らっ!