導入
……いらっしゃい。
ううん、おかえりなさいかしら?
今から、貴方の導き手となる雪江(ゆきえ)と申します。
今夜はよろしくお願いしますね。
これから向かうのは、あのマンション。
夢の中にだけ存在する、癒しの空間。
ちなみに、私に割り振られたお部屋の番号は、102号室。
是非とも私のお部屋に訪れて下さいね。そうしたら……ふふ。
……けれど、今のままではダメなんです。
あのマンションの中に入るには、普通の体のままでは行けない。
だから、これから体をリラックスしてもらいます。
そうする事で、こちらの世界への壁を取り払い、入りやすい状態にします。
ゆっくりこちらの世界へ馴染ませて差し上げますね?
まず、最初にお布団やベッドなどのリラックス出来る場所で横になって下さいね。
これから、貴方を深い世界へ誘ってさしあげます。
ふわふわとして、気持ちの良い状態を貴方は感じるでしょう。
深い、安らぎの世界へ行く事が出来ますわ。
そして、最後には……うふふ、楽しみですね。
それでは、まず最初に貴方の全身の筋肉をほぐしていきます。
今から、わたしが体の何処に力を入れる、と指示を出します。
貴方は言われた通りに力をグッといれて下さい。
そうやって力を入れた後にふっと力を抜くと余計な緊張がなくなります。
それではまずは、右腕の力をグッと入れてください。
そう、グッと。腕全体に力を入れて。(3秒程度待つ)
……はい、良いですよ。力を抜いてください。
そのまま、次に行きます。
次は、左腕全体に力を入れて下さい。グッと。
先ほどと同じように、腕全体の筋肉が盛り上がるように。(3秒待つ)
……はい、力を抜いて下さい。
そのまま、力を抜いた腕は動かさないようにして下さいね。
そうする事で、力が抜けた状態が維持されます。
それじゃあ、今度は脚に力を入れていきましょう。
最初は右足から。
太ももからつま先まで、グッと力を入れて下さい。
そう、太もも、ふくらはぎ、くるぶし、そしてつま先。
グッと力を入れ続けて下さい。
……はい、楽にして下さい。
次は左足ですよ。もしかすると、少し苦しいかもしれません。
でも、あと二つですから、頑張りましょうね。
それでは、左足に力を入れて下さい。
先ほどと同じように、強く強く、脚全体に力を入れて下さい。
……はい、大丈夫です。楽にして下さい。
最後に、お腹に力を入れましょう。
力を入れながらゆっくり息を吐いて、キッチリ緊張を外に逃がして下さい。
さぁ、お腹に力を入れて下さい。
ふーっと、息を吐きながら、しっかり腹筋に力を入れて下さい。
はい、おしまいです。もう無理に力を入れようとせず、リラックスして下さい。
どうですか、全身から力が抜けたでしょう?
ここからは、先ほどのように力を入れたりはしませんよ。
ですから、安心して下さい。
それでは、まだ体の奥に残っている力を取りましょう。
深呼吸をしながら、力を抜きましょうね。
私がこれから、吸って〜吐いて〜と指示をします。
でも、貴方は無理に合わせないで良いですよ。
ゆっくり、静かに深呼吸をして下されば、充分です。
吸って〜、吐いて〜。吸って〜、吐いて〜。胸の上下を意識しながら、ゆっくりと吸いて下さい。
吸って〜、吐いて〜。吸って〜、吐いて〜。肺の中にある空気を綺麗に吐き出すように、ゆっくりしっかり息を吐いて下さい。
吸って〜、吐いて〜。吸って〜、吐いて〜。リラックスして、緊張を取り去るように……。
吸って〜、吐いて〜。吸って〜、吐いて〜。……はい、良いですよ。通常の楽な呼吸に戻して下さい。
だいぶ、体がリラックスして来たと思います。
でも、まだ体がリラックスしただけ。
ここからは、貴方の精神に直接語りかけていきます。
それじゃあ、最初に、頭の中に真っ白な景色を思い浮かべて下さい。
世界一面が真っ白。上も下もない、ただ真っ白い世界。そこに、今から言う色を順番に思い浮かべて下さい。
赤。(5秒待つ/以下も同じ時間だけ待つ)
オレンジ。
黄色。
緑。
青。
紫。
黒。
……はい、良いですよ。色を思い浮かべると言う事をすると、とっても集中できたみたいですね。
ここで一度呼吸を整えておきましょう。
吸って〜、吐いて〜。吸って〜、吐いて〜。(5秒待つ)
落ち着きましたか? それでは、最終段階です。
今から数字を数えます。
そのカウントが小さくなるのに合わせて、目を軽く左右に振ってください。
イメージとしては、ふりこを左右に追いかける感じです。
それでは、行きます。
100
99
98
97
96
95
94
93
92
91
90
89
88
87
86
85
84
83
82
81
80
79
78
77
76
75
74
73
72
71
70
69
68
67
65
64
63
62
61
60
59
58
57
56
55
54
53
52
51
49
48
47
46
45
44
43
42
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
19
18
17
16
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
(20秒ほど間をおく)
気分はいかがですか?
貴方は今、深いトランスの世界にいます。
そう、私に誘われて到達しました。
体全身がふわふわとして、ほかほかして、体を動かそうと思っても動かせない。そんな状態。
今の貴方は無意識の活動が活発になっています。
けれど、もし何か驚いたり、緊急の用があったりすると、簡単に元に戻ってしまう状態です。
ですから今のうちに、何かあって意識が浮き上がっても、
すぐにここに戻ってこられるようにトリガーを作っておきましょう。
トリガーと言うのは、ある一定の行動を精神に刻み込む事で、
すぐにその精神状態へ立ち返る事が出来るように反射を形成する事です。
一度作ってしまえば、貴方は例えどのような事があっても、すぐにこの場所へ帰って来る事が出来るようになります。
そう、いつでも、この場所へ来る事が出来るようになる。
例えば、例えばペットに餌を与える前に毎回鈴を鳴らすと
いずれペットは鈴を鳴らすだけで餌の時間だと思って近寄ってくるようになります。
「鈴」と「餌」が関連付けられている良い例ですね。
このように、わかりやすい約束事を作っておきましょう。
もちろん、わたくしも、この場所でいつでも待っています。
さぁ、今からわたくしが言う事を心に強く思いながら復唱してみて下さい。
その時、今まで動かなかったはずの貴方の体も、動かせますわ。
そう、その言葉を言った後の貴方と先ほどまでの貴方は別人になるのです。わかりましたか?
……念じて下さい。強く、自分に言い聞かせるように。
「左手の親指と人差し指を合わせると、あなたはすぐにトランス状態になる」
「左手の親指と人差し指を合わせると、あなたはすぐにトランス状態になる」
(5秒経過)
……はい、出来ました。指を離して下さい。
これで、貴方はいつでもトランス状態になり、わたくしに会いに来る事が、可能です。
けれど、一度しただけでやめてしまうと、そのトリガーも徐々に弱くなっていってしまいます。
ですから、出来るなら、その暗示を毎日行うようにして下さい。
もちろん、毎晩わたくし達に会いに来て頂いても、かまいません。
そうするだけでも、貴方とわたくしの間の絆は強く繋がり、トリガーも深く深く貴方の精神に刻みこまれます。
うふふ、毎晩来て下さるのを、楽しみに待っていますね。
それでは、これからマンションの中に入っていきましょう。
ここは、まだマンションの外ですから、わたくしが先導いたします。
ほら、聞こえてくるでしょう、波の音が。この海岸は、貴方がこの場所へ招かれた証。
ここを通って、マンションへと辿り着くものなんです。
夜空の月に照らされた海岸、とてもロマンチックだと思いませんか?
わたくしは好きです。貴方はこう言うの、お嫌いでしょうか。
……大丈夫です、貴方は望めば、いつでもここに来れるのですから。
ほら、気づけば、もうマンションの入り口に到着しています。
不思議ですか? 大丈夫、ここでは、これが当たり前なんですよ。
……改めて言っておきますね。ようこそ、催眠マンションへ。
目の前の自動ドアを抜けて……ロビーがあります。
そこには郵便受けもあります。一階ロビーの奥に行くと、7つの扉があります。
その中には、各部屋ごとに女の子が住んでいます。
もちろん、わたくしも。最初に言いましたけれど、わたくしのお部屋は102号室です。
今、手前にあるのが101号室。一番奥にあるのが107号室です。
それでは、お好きなお部屋にお入り下さい。わたくしは、お部屋に戻っていますわ。
もちろん、来て下さったら、とっても癒して差し上げます……うふふ♪。