こんな山奥に温泉があるのですか?
あ…。こ、こんにちはっ。
(男:こんにちは)
あの…失礼ですが、どちら様でしょうか?
ここは、私有地ですので…勝手に入られますと、その…。
(男、名乗る)
え、お隣の…?
あの、もしかして、このあたりはもう山の東側になるのでしょうか?
(男:東ですね)
っ、す、すみません。
私、散歩をしているうちに、いつの間にか自分の敷地を出てしまっていたようです。
勝手に入ってきてしまい、申し訳ありませんっ。
(男:大丈夫ですよ)
…ありがとうございます。
お隣さんが優しいかたでよかったです。
あ、申し遅れましたが、私は纐纈(こうけつ)かなでと申します。
私のうちの別荘が、この山の西側にありまして、
そちらの方から散歩で歩いてきたのです。
たしか、大まかに言って、山の西側が私の家の所有地で、
東側は貴方の家の所有地なんでしたよね…?
(男:そうですね)
ですよね。
いつの間にか、東側まで来てしまっていたみたいです…。
(男:遠かったのでは?)
? あ、はい、確かに少し遠かったですけど、大丈夫ですよ。
この山って、山道に沿って歩く分には迷うこともないですし、
危険な動物も住んでいませんし、散歩にはとてもいいんです。
そんなに大きな山でもないですしね。
ところで…貴方は、どちらかに向かう途中だったのですか?
山道を歩くには、その…ずいぶんと身軽な格好をされているように見えますが…。
(男:荷物は近くの山小屋に置いてきた。これから温泉に行く)
なるほど、近くに山小屋があるんですね。
そこに荷物を置いて、近くの温泉に向かうと…。
え、温泉!? こんな山奥に温泉があるのですか?
(男:ある。個人的なものだけど)
あぁ、一般のお客さんが来るようなお店ではないんですね。
(男、温泉の説明)
…へぇぇ…温泉が自然に湧き出しているところが、元々あったのですね。
そこを、貴方のお爺さまが見つけて、手作業で、入りやすいように整えたと…。
一人で作られたなんて、すごいです!
趣味の温泉だなんて、なんだかあこがれますねぇ。
…あのぉ、ご迷惑じゃなければ、私もその温泉までついて行ってもいいですか?
どんなものなのか、気になっちゃって…。少し見たら帰りますので。
構わないでしょうか…?
(男:いいよ)
ほんとですかっ? ありがとうございますっ。
では、早速向かいましょう!
(男、温泉はこっちだよ、と指差す)
え、なんですか? あ、そちらですか、すみません。
えへへ…。では、気を取り直して、行きましょうっ。