■01_飲み編・前編
あぁ、綺麗な色ね~。
私、ロゼシャンパン好きなのよ♪
ほら、香りも素敵よ?
まるでラズベリーのような甘さと、その奥にほんのりと香るアーモンドのようなコク……んん~。
す~……んん、んふぅ……すぅ~、んん……んはぁ♪
さぁ、いただきましょ?
乾杯♪
あぁ、グラスは合わせなくてもいいのよ?
そうそう、傾けるだけで十分。
んっ、んん、すぅー……ごくん。
んん、んふぅ……あぁ、美味しい。
ふぅ~。
甘さの中に、ピリリと感じるジンジャーが素敵な喉越しを生んでると思わない?
これが食欲を誘うのよね。
シャンパンって本当、最高の食前酒だわ。
あ、あぁ、でも。
男性には、ちょっと可愛らしい色合いよね。
キミ、同じもので良かったの?
ボトルで注文しなくても、別々のお酒で良かったのに……ふふっ♪
だから、今日は私の奢り、だってば。
いつも頑張ってくれてるキミへのお礼と、今後の激励のためにね~♪
んむ、んむ、するるる……んっ、んくっ。
ふぅう~……ほら、遠慮しないで?
やぁね、緊張こそしないで欲しいわ?
同じ部署になって、もう半年以上経っているのよ?
私、そんなに怖い上司かしら……ねぇ?
あらぁ?
そこで言い淀んでるようじゃ、私を満足させる答えは出てきそうにないわねぇ……っふ、んふふ。
冗談冗談……ん?
はい。
ありがとう……。
えぇ?
やぁねぇ、私だっていつもこんな素敵な店に来るわけじゃないわよ?
第一、一人で来ても寂しいわ……一緒に飲んでくれる人がいないとね。
キミは案外、お酒に強そうな顔してるわよ?
普段からワインボトルの一本や二本、軽く開けちゃうんじゃないの?
あら~、じゃあ日本酒?
それとも、ウイスキー派だったり?
ふぅん、そう……んっ、んっ、んくくっ……ごくん。
私は、そうね。
家にも、いくつかお酒は置いてあるかしら。
んふふっ、ビールだって飲むし、ハイボールだって飲むわよ。
なぁに?
私、家ではガウン姿でブランデー飲んでるイメージ?
膝には猫を抱えてるのかしら。
あのねぇ、私とキミ、そんなに年も離れてないと思うんだけど?
ふふ……んふふ♪
やっと、緊張もほぐれてきた?
それじゃ、シャンパンを味わって、楽しいディナーにしましょ?
明日はお休みだもの。
ちょっとくらい飲み過ぎても平気よ。
私は酔い潰れたりしないわ?
え、えぇ……ワインなら、赤と白、ボトルで飲み切っちゃうことだってあるし?
うぅ。
別に、大したことじゃ……お酒に強いのが、格好いいってコトじゃないでしょう?
ないわよ。
逆に言えば……お酒に弱い男の人だって、格好悪くなんてないし?
ないの。
お酒は美味しく、楽しく飲めるのが一番だわ。
格好悪いのは、酔い潰れること……とか?
性格変わったり、態度が変わるのは駄目よね。
格好悪いわ。
そうならないように、自分の適量を知っておくのは大切ね。
んん?
あぁ……じゃあ、今日、計ってみたらどう♪
んっ、んっ、んんぅ……っごく、んん。
んっふぅ~♪
はぁ……あ~ぁ、飲み終わっちゃった。
次は赤?
それともボトルじゃなくて、料理に合わせて選んでもらう?
そうね。
そうしましょうか。
次からは料理に合わせて、グラスでいただけますか?
はい、お任せします。
だ、だから、別にそんなに慣れてるわけじゃないわよ。
取引先と食事に行くと、こうしたお店になることが多いから……まぁ、最近は不景気だから、そんな機会も減ってるけど。
あぁ、そうね……そうかも。
誘われることは、多いわ。
えぇ~?
ないない、ないわよ。
断ってる。
仕事ならお付き合いはさせてもらうけど、プライベートではね……魂胆が丸見えの人もいるし。
と言うか、ほとんどわかるし。
まぁ?
誘いたくなる気持ちはわかるわ?
だって、私だものね♪
こんないい女、仕事以外でも誘わないと勿体ないじゃない?
でも、残念。
そう軽々しくお誘いには乗れないわね~♪
あら♪
そうよ~?
だから、キミはこのラッキーなシチュエーションを思いっきり堪能しなくっちゃ。
この私と一緒に飲める人は、そうそういないんだからね?
んふ、ふふふ。
んく、んく、んんっ……っごくん。
んん、んっふぅ~……この白も美味しい♪
ワインって難しいから、ソムリエにお任せしちゃうのが楽よね~。
えぇ、そうよ?
知ったか振りして肩肘張るより、プロにお任せしちゃえばいいワケ。
私はワインや料理のプロじゃないんだから、お勧めをいただく方が間違いないでしょ?
そう……仕事も、ね?
なんでもかんでも自分でやろうだなんて考えてるから、無理がたたっちゃうのよ。
現場のことはプロに任せて、その準備や後始末、作業の根回しをして……後は思いっきりやってもらう。
一人でできないことは、同僚や先輩を頼ればいいの。
勿論、それを迷惑がる人もいるでしょうけど、後になって問題を大きくされれば、結局、チーム全体の評価も下がるし?
後々、自分が迷惑を被ることになるって思えば、一時の迷惑なんて我慢できるものよ。
そのくらいのこと、私のチームにいる人は全員わかってるわ。
足を引っ張ろう、なんて考えてる人はいないのよ。
キミは真面目なのが取り柄だけど、もう少し人に甘えることを覚えた方がいいわね。
迷惑をかけられて嬉しいって人もいるんだから……いるわよ~。
頼られて喜ぶ人、多いのよ?
えぇ、私もね。
なんと言っても、キミの上司なんだから♪
仕事は頼ってくれていいし、失敗して落ち込んでれば話だって聞いてあげるし……こうして、食事と、お酒もね?
んも~っ。
パワハラ扱いやめてよね?
そ、そりゃ、多少強引に誘ったのは認めるけどぉ……で、でもほら。
この店、美味しいでしょ?
でしょ~?
取って置きだったんだから。
あ、すみませ~ん。
赤ワインくだ……コホン。
赤、いただけますか?
はい、ではそちらを……お、おほほ。
ふぅ~……キミは?
おかわりっ。
あっそ。
フンだ。
いいわよ、私は遠慮なく飲ませてもらうから~……んっく。
んむ、んむ、んん~……っごくん。
ぷはぁ~♪
ワインってジュースみたいよね~♪
ついつい飲み過ぎちゃう……あら。
そんなコトないわ?
結構サマになってるわよ?
チビチビ飲むところは、ちょっと可愛いけど♪
ふふ、あはは……ゴメンゴメン、んふふ。
私はまだまだ大丈夫よ。
でももう、コースは終わっちゃうのよね……チーズ食べながら飲んじゃおうかしら。
まぁでも、お会計も怖いし。
ここではこの位で……あ。
コホン。
あぁもう、大丈夫大丈夫っ。
キミはいいってば……そんなに怖がるほどじゃないから。
第一、私が怖がるほどのお会計だとして、キミ、割り勘できるの?
あ、あら、そう?
へぇ~、そう言うところも堅実なのね。
ううん?
真面目なの、素敵よ♪
実は浪費家でした……とは、見えないしね~?
んふふ……コホン。
とにかく、心配しなくて大丈夫。
上司が奢るって言ってるんだから、部下は甘えればいいのよ♪
そうそう。
甘えられた方が嬉しいってね?
そもそも、付き合ってもらえたのも嬉しいし……んふふ。
ううん?
なんでも。
あぁ、ほら。
食べちゃわないと、デザート、出てこないわよ?
キミ、甘いもの好きでしょう♪
勿論、私もね。
まだまだスイーツ大好き女子だもの。
ま、まぁ、カロリーについては、今日のところは考えずに……あ、明日。
明日ね。
ジムでいつもの倍走れば、なんとか。
えっ……今時、ジムに行くくらい普通よ。
あぁ、いえ。
行かなくても、別にね?
規則正しい食生活をしていれば、余分な脂身が着くこともないワケだし。
やぁね、私だって運動が得意なわけじゃないわ。
ただ、ちょっと……うう。
脂身は、着きやすいかな~と……え♪
あ、ありがと。
お世辞でも嬉しいわ。
あ、あはは。
だから、別にスポーツマンが好きなわけじゃないのよ?
むしろ、筋肉付き過ぎなのはちょっと……。
私も、学生時代は勉強しかしてなかったから……体育の授業、苦手だった~っ。
そうっ、誰かと組まされるのとか最悪だったわよね♪
だ~れも組んでくれなくて凹むのよ~っ。
うぐっ……そ、そうよ?
今は、色々と頑張ってるの。
私だって最初から仕事ができたわけじゃないし?
同僚や先輩に頼るのが苦手だったから、一人でこなしてきただけで。
そうやって積み重ねてたら、いつの間にか昇進してたのよね。
そうなると、外回りも増えるでしょ?
食事の機会も増えて……だから、カロリーを消費しないといけなくなって。
お酒は……まぁ、好きだけど。
シャンパンやワインをお上品に飲むだけって、あんまり楽じゃないじゃない?
美味しいけど、楽しさは……あ。
ううん?
今日はね、楽しいの。
接待が苦手ってことで……あっ。
も、もしかして、キミは接待気分?
上司に無理矢理付き合わされて……そ、そう?
ホントに?
はぁ~……それなら、良かったわ♪
ふふっ……そこまで褒めたら、嫌味に聞こえちゃうわよ?
けど、お世辞ってわかっても、褒められるのはいい気分だわ。
昔は、太鼓持ちなんてって思ってたものだけど……。
う~ん……あ、あら。
ありがとう♪
そうね。
ただ無闇に褒められても、下心が見えたら虚しいものよ……。
やっぱり、言葉の種類じゃなくて、誰が、いつ言うかが大切なんだわ。
えぇ、キミにそう言ってもらえるのは嬉しいわ……嬉しくて、もっと言ってもらいたくなっちゃう。
でも、ただ褒めてもらえるだけじゃ、すぐに飽きちゃうわ。
人は、快楽にはすぐ慣れるのよ。
だからもっと、も~っと、強い快楽を求めるの……あぁ、そうね。
お酒もそう。
もっと飲みたくなって、もっと酔いたくなって。
キミは?
もっと酔いたくならないの?
だから~……今日、飲める量を計ってみればって言ってるじゃない。
あぁ、大丈夫。
その時は、私が介抱してあげるわ?
それとも、私じゃ不服?
そう……嬉しいわ♪