■02_飲み編・後編
ほら、いつまでも立ってないで、座ってて?
やぁね、なんで床なの?
ソファに座ればいいでしょ?
いいのよっ……あと、何飲む?
水はチェイサーでしょ?
お、さ、けっ。
そう?
じゃ、アイラモルトね♪
ふんふふんふ~ん♪
ほら~、これどう?
取って置きの28年ものよ?
こんなの美味しいに決まってるわ~♪
ちょっと。
いつまで上着着てるワケ?
堅苦しいわね。
そうそう、脱いで脱いで……はい、いい子♪
ふふふ……ネクタイ緩める仕草っていいわよね~。
エロ~い♪
おっと……セクハラ?
んふふっ……っと。
それじゃ、このお酌で許してもらおうかしらね~?
ふんふふ~ん……んん?
そうね。
普通に売ってるのは10年とか15年もの?
まぁ、ちょっとだけお高いかしらねぇ。
いいのいいの。
一人で飲むより、一緒に飲んでくれる人がいる方が絶対美味しいわ♪
はい、どうぞ?
乾杯しましょ……ん~、えーと。
キミが、うちに来てくれた記念?
あら、やだ……パワハラで連れ込んだんじゃないわよねぇ?
でしょ~?
じゃあ、楽しく飲みましょ?
はい、かんぱ~い♪
んっ、んちゅ……ずず、ずるるっ。
んむ、んむ、んぅ……っごくん。
んっはぁ、あぁ~……はふぅ~♪
でしょ?
いいお酒なのよ~。
さっきは甘いお酒ばっかりだったからね。
ゆっくりと飲むなら、こういう方が……え?
あ、あぁ、濃い?
じゃあ、炭酸で割る?
えぇ、いいのよ?
別にロックやストレートで飲むのが正しいなんてコトはないもの。
言ったでしょ?
私だって、ハイボールくらい飲むわよ……っと。
お酒は美味しく飲むのが一番♪
とはいえさすがに、日本酒やシャンパンに氷を入れようとは思わないけど。
あー、でも。
氷入れて飲んでもいい日本酒はあるわね~。
前に、一度だけ飲んだことあるわ。
ま、まぁ、その時も私はストレートで飲んじゃったけど、あはは……んっ、んしょ。
はい、じゃあこれね~……っと。
はい、どうぞ?
いいのよ、好きでやってるんだから。
レストランで女がワインを注ぐわけにはいかないけど、家だし?
ウイスキーだし~♪
んっ、んっ、んんぅ……っごくん。
んふぅ……これ、本当に美味しいわね。
飲み過ぎ注意だわ。
あぁ、そうね。
水も飲んでおかなくちゃ……っと。
ずずっ、んん、んちゅっ……ずるる。
ごくん。
ふぅっ。
え~?
毎日こんないいお酒飲めるわけないじゃない。
取って置きって言ったでしょ?
それに、毎晩飲んでるワケでもないし。
そうね~……昔はバーに飲みに行ったりもしたけど、仕事が忙しくなって足が遠のいちゃったわ。
む、昔って、そんな何年も前なんてことはないんだけどね、あ、あははっ。
やぁね、そんなにオバサンじゃないわよ……キミと五つも離れてないんだから。
あら、そう?
んふふ、ありがと♪
そりゃ~ね~、頑張ったもの。
おかげで、んん。
ふぅ~……給料は良くなったけど、バーに飲みに行くとか、レストランで素敵なディナーとか、そういう余裕はなくなっちゃったわ。
なんか、一度間が開いちゃうと……ねぇ?
でっしょ~?
だからって、また新しい行きつけを探すのも面倒だし……でも、ちょっとくらいお酒は飲みたいじゃない?
だから自分で買ったりして、いつの間にか家飲みに。
あー……料理は、あんまり。
で、できなくはないのよ?
自分で食べる分くらいなら、なんとか……あはは。
ずっ、ずずっ……あ。
ない。
ふぅ~……でも、まぁ?
世の中、美味しい食べ物はいくらでもテイクアウトできるし……ねぇ?
あはははは……。
んっ、んっ、んむむ……っごくん。
んっふぅ~……そう言うキミはどうなのよ。
料理、できるの?
ほら~、そうでしょ?
キミだって学生時代は勉強に明け暮れてたタイプよね。
私もそうだったから……で、就職したら仕事三昧。
いつ料理の勉強すればいいのかってね。
ふふふ……私たち、そういうトコ似てるのね♪
んっ、んっ、んんぅ……っごくん!
ふぅう~……で、でも?
仕事の方は結構落ち着いてきたし、少しずつやってみても?
あぁ、私ね?
私が……だからぁ、料理?
キミはまだまだ、これからもっと仕事に集中しなくちゃいけないじゃない?
でもまぁ、私は時間の余裕も出てきてるから……うん。
やっぱり、料理はできる方がいい、わよね。
べ、別に、女だからだとか、これからは男だって料理や家事をとか、そういうのはどうでも良くて……こういう時、ちょっとくらい?
そうそう。
こうして家飲みする時、ささっとおつまみ作れたら、素敵じゃない?
いい女、って感じがしない?
でしょ~?
そうなのよ~♪
私はもう十分、いい女なんだけど。
まぁ、ちょっと?
いい女過ぎるって言うか……料理の一つくらいできた方が、可愛げがあるって言うか……あ、あはは。
いや、待って。
いいの、そこは無理して褒めないで。
可愛げがないことは重々承知してるのよ。
仕事ばっかりできても、上司や取引先に女扱いされてないことはわかってるわ。
自分から、そういう態度は取らないようにしてたワケだし?
だから、ほら……下心丸出しの接待には付き合わないとか、セクハラに対しては必要以上に厳しく当たったり、とか。
でも別に、社内恋愛を禁止にしろとまで言ってはないし?
仲のいい人たち同士のスキンシップにまで、目くじら立てて来たワケでもないのよ?
私は、私自身を律してきただけで……ちゅ、ちゅぷ。
ん、んん……ごくん。
ふぅ~……っ。
ね、ねぇ?
キミから見て、その……ど、どうかしら。
だから、その……私?
どう、って言うのは、ほら……女として、とか。
料理……できたら、更に良くなりそう、とか。
元々?
いいと思う?
あ~……あはは、ど、どんな風に?
うん……うん……そ、そう?
んふ、ふふふ……そうよね。
そうでしょう?
これ以上良くなっちゃったら……ねぇ?
あぁん。
誰もが、とか、そういうのは訊いてないの。
キミは、どうなの?
って訊いてるのよ?
そう……キミが、私のことを、どう思ってるのか、訊いてるの……ね~え~?
ふふっ、こそばゆい?
それじゃ、もっと……。
あっ……やだ。
お酒臭い?
大丈夫……なら、いいわね。
こういうの、初めてだから……私、凄くドキドキしてるわ♪
今まで?
他の人と?
だから、ないわよ?
誰かと二人きりで食事に行ったのは、今日が初めて……上司も、同僚も……勿論、取引先の人と個人的に、なんてことはなかったわ。
それと……家に招いたのも、ね?
今日が初めて……キミが、初めて♪
私の横で、お酒を飲めてるのは……キミだけよ?
こんなに、近くに寄り添ったのも、ね。
学生時代?
やぁね、社会人になるまで、お酒は飲んだことなかったわ。
言ったでしょ?
勉強ばっかりで、飲み会に出たことはなかったし……ま、まぁ、誘われることも、ほとんどなかったんだけど。
と、言うか……そういう風に、昔のことを根掘り葉掘り訊くのは良くないと思うのよね?
大事なのは、今、この瞬間だと思うんだけど……どう?
あぁ、そっか……んっふふ。
キミ、飛び込み営業はできないタイプだもんね?
なんでも、前もって準備しておかないと……ううん?
事前準備をどれだけしても、本番で緊張しちゃうタイプ。
だから、仕事でも今ひとつ思い切りにかけてるのよね……それが、キミの足りない部分。
逆に言えば、もう一歩踏み出す度胸さえ付けば、グンと伸びるんじゃないかしら。
付く付く♪
キミの仕事ぶりを見てきた上司が言うんだから、間違いないっ。
だからぁ……あとは、実践あるのみ、だと思うんだけど……ねぇ?
度胸、付けてみない?
やぁねぇ、それは自分で考えて?
最後は自分の意思で、しっかり自分で答えを出さないと、経験の積み重ねにはならないわよ?
経験値が溜まらなきゃ、レベルアップしないでしょ?
え……。
あぁ、はいはい……っと。
足りないわね。
はい、どうぞ♪
私も、もうちょっと。
んっ、ずずっ……んむ、んむ、んん。
ごくん。
んふぅ~。
はい?
えぇ、なぁに?
そうねぇ……年下だし、部下だし?
自信は、これから付けていけばいいんじゃないかしら。
経験を積めば……そうそう♪
私で、経験しちゃえば……。
い、いや……私も、こっちについては経験豊富どころか、まったくもって……う、ううっ。
コホン!
いいから!
その辺はもう、私に任せて、頼ってくれれば?
そうそう……そう。
そういうのは、年上に任せちゃえば……ねぇ?
あぁでも……まずは、最初の一歩を、ね?
キミ自身が働きかけないと、経験に……う、うぐっ。
あ……はい。
ええと、その……は、はい♪
あぁもう……そう言うのいいから。
自分を卑下したってつまらないでしょ?
なんなら、無闇に自信持って、思いっきり突き進んだっていいのよ。
失敗?
してもいいのよ?
失敗も経験……お酒だって、たくさん飲んでみないと、自分がどれだけ飲めるのかわからないんだから。
とりあえず、今日飲んだ分量までなら、大丈夫ってことでぇ……んっふ。
うむっ、んっ、んっ、んぅう、うっちゅ……っちゅ、じゅぶ。
ちゅ、ちゅ、ちゅうちゅう、じゅぷ、ちゅぶぶ。
うっふ、うう、んぅん。
うぶっ、んん、んぷぷっ。
うぶ、うぶぶっ。
ちゅう、ちゅう、じゅぷじゅぷ、うじゅぅ~……っちゅぷ、んむん。
んっ、んっ、んぅう……っぷはぁあ♪
はぁ~、はぁ~、はぁはぁ、あっふ、んん……っごくん。
はふぅ~。
それで?
だから、この後はどうするの?
ふふふ……そう簡単に、分別をなくすなんてこと、できないわよね。
ましてや、私みたいな年上相手じゃ……っふぅ~。
仕方ない。
それじゃ、仕事と同じで私がリードしてあげるしかないわね。
いいのよ?
ぜ~んぶ、お姉さんに任せておきなさい?
なんて、私も未経験なんだけど……なんとかなるかしら、ねぇ?