03【1576文字】逃亡者になる
あっ……先生⁉ どうしてここへ?
あ、掃除のおばさんに聞いて?
はい。大丈夫です。雑誌見てただけなので……。
そうなんです。すごくよくしていただいていて。
あはっ。ここ、穴場なんですよ。
知ってる人って全然いないんじゃないかなって思います。
いえ、自分で見つけました。
あの、ほら。先生とお話しするようになるまでは、私いつも一人だったので……。
人が来ないところ探すの得意になっちゃって。
ここ、本当にすごくいいんですよ。
わざわざ旧図書館までくる子はなかなかいませんし、さらに夏休みですから。
ほぼ貸切です。
だから、少しくらいおしゃべりしても平気です。
あの、先生が来て下さるなんて、思いませんでした。
他の先生とは何人かお会いしましたけど、先生とは夏休み初ですね。
ところで、何のご用でしたか?
あぁ……。先生はご存知なかったですよね。
私実は、橘の家の本当の子じゃないんです。
だから実家には居づらくて。
なので今回は思い切って、帰らないで寮に残る事にしたんです。
だからここにいたという訳です。
はい!
ふふ。だから今年の夏は最高です。
去年は渋々帰って、暗い日々を過ごしてましから。
学内でアルバイトもするんですよ。
明後日からなんですけど、今からとても楽しみなんです。
えっと、色々やるんです。
普段バイトしてる子が実家に戻っているので、夏休み限定の補充で、何か所か行きます。
私以外にも、同じ仕事をする子がいるみたいなので。
これを機に仲良くなれたらって思ってます。
ふふ。
えっ? いいえ。まだです。
もうお昼だったんですね。気づきませんでした。
行きます。一緒にご飯、したいです。
でも大丈夫でしょうか? 先生と生徒で出かけても……。
そうなんですか……。
いえ。ぜひご一緒させて下さい。
お食事券三千円分が当たるって、すごいですね。
私もそのモールのくじ引き引きましたけど、ティッシュしか当たらなかったです。
はい。今すぐ着替えてきますね。
ちょうどバスが来てよかったですね。
モールまで少しありますよね。十分くらいでしたっけ。
……先生?
もしかしてあちらの方、お知り合いですか?
ご挨拶しなくても……。
先生、大丈夫ですか。顔色が悪いです。
大丈夫ですよ。話せる範囲で。
ええ。あのお知り合いの方が何か。
……会いたくない人なんですね。
いいえ。私にもいっぱいいますよ、そんな人。
何もおかしな事じゃないです。
でも……。
降りましょう。ICカード貸して下さい。
先生、傘どうぞ。……先生?
先生。勝手に降りるって決めちゃってごめんなさい。
でも私、間違った事をしたとは思ってません、から。
だって、先生は前私に『我慢しなくていい』『逃げていい』って言ってくれました。
だから、先生にも我慢してほしくなかったんです。
会いたくない人がいるのに、無理に乗り続けてほしくなかったんです。
はい。そうです。
あの、先生……?
先生……!
よかった。私も同感です。
先生に冷たくした人となんか、一緒の空気を吸っていたくありません!
当たり前です。私はいつでも先生の味方です。
だから安心して下さいね。
あの、先生。困ってる時に、年上とか、年下とか、ないです。
先生とか生徒とかも関係ありません。
助けられる人が助けるのが当然です。
これからも何かあったら教えて欲しいです。力に、なりますから。
はい……!
お礼? とんでもないです。そんなつもりでした訳ではありませんから。
何でも? 何でも、いいんですか?
じゃあ……夏休みの間、また会いたいです。
学校の中でいいので。ご飯食べたりとか、お話したりとか、したいです。
それから私の事も、他の子にするみたいに下の名前で呼んで欲しいです。
クラウディアのあだ名って『ディディ』って言うんです。
だからそう呼んで欲しいです。
あと。
次のバスが来るまででいいので……手を繋いで欲しいです。
あ……。
ふふ。確かにちょっと、汗かいてますね。
ふふふ……。あったかい。